第3章 運命の赤い糸は切るためにあります
「お初にお目にかかります。この度、女官長に就任しました。ジェットと申します。よろしくお願いいたします」
グロリアは退職した。
下っ端からやり直す道も用意して上げたけど、自分の非を認めなかったり挙句、責任転嫁を始めたのでフォンティーヌが解雇を言い渡したのだ。
そうなって初めて自分の立場を理解したのかグロリアは下っ端から頑張ってやり直すと言い出したそうだけど、もう手遅れ。
残したところで不安要素でしかないと判断したフォンティーヌはグロリアを城から叩き出した。
城から追い出された使用人を雇ってくれる貴族など当然いないので彼女の今後の働き口は王都で平民と紛れて仕事を探すか、社交界とは無縁の下位貴族の使用人だろう。
そして新しく女官長となったのはグロリアがよく仕事を押し付けた相手だ。
「よろしくね、ジェット。お茶会の招待客リスト、とてもよくできていたわ」
「あれを私が作成したと知っていたのですか」
驚くジェットに私は鷹揚に頷く。
上に立つ者こそ下の者の仕事を理解しろとは姉の言葉だ。
誰が何をしているかなどおおよそは把握している。
「これからも、期待しているわ。頑張ってね」
「はいっ!」
嬉しそうに言うジェットを私は嬉しく思う。彼女はやっと自分の仕事を正しく評価してもらえる喜びを手に入れたのだ。それはきっとこれからの仕事への活力にもなる。
まず、手始めに後宮で働く使用人を入れ替えることから始めた。
「妃殿下、紅茶を入れました」
「ありがとう」
私はエウロカの淹れた紅茶を飲む。変わった味に私はほくそ笑んだ。
気づかれないように彼女の様子を観察することも忘れない。わずかだが彼女の手が震えていた。
「そう言えば、エウロカ。ジュンティーレ公爵の跡継ぎってどのような方なの?」
「ど、どうして、いきなり」
「別に、他意はないわ。陛下の摂政をしている男の子供を私が気にしてはおかしいかしら?」
「いいえ」
エウロカと公爵の間に子供はいない。跡継ぎの息子は公爵が愛人に産ませた子供だ。ちょっと酷な質問だとは思うけど、他に聞ける人もいないし。彼女の立場もいい加減、はっきりさせておきたいのよね。
私はカップを弄びながら中に入っている紅茶を見つめる。
「確か、名前はキスリング様でしたかしら」
「はい。勉強熱心で、お母様思いの、とても優しい子です」
「そう。あなたは話したことがあるの」
「あ、あいさつ程度です」
「そう。一度会ってみたいわね」
「よく社交界に顔を出しておりますから、そのうち会えるかと」
「そう」
まぁ、複雑な関係だし、仲が良いわけないわよね。
母親思い、ねぇ。
つまり、自分の母親を正式に公爵家に迎える為ならエウロカを貶めることも平気でする可能性があるということよね。
エウロカの本心はともかく、キスリングに関してはあまりいい噂は聞かない。
社交界でまことしやかに流れている公爵の黒い噂。おそらく、実行犯はキスリングだろう。指示をしているのは公爵。自分の母親が人質にでもとられているのかな。
上手くすれば、キスリングを自分の陣地に取りこめるかもしれない。
王妃として社交界の招待状はたくさん来ている。ハクにすぐにキスリングが出席するパーティーを調べてもらいましょう。
私は不思議な味のする紅茶を飲み干した。
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