第25話 フォンティーヌ視点
妃殿下に迷惑をかけることは分かっていた。それでもこの国の宰相である私はどうしても今回の視察に行かなくてはいけなかった。
他の者に任せられないというか、任せられる人間がいないのだ。
獣人の欠点は力がありすぎるせいで、全てを力で片付けてしまうのでデスクワークができない。直接的な言い方をすると脳筋が多いのだ。
トカゲの尻尾切りとは分かっているが私のいない間に少しでも隙を見せた悪徳貴族を捕縛できればいいと思う。
けれど、私はあのバカ陛下と番様が思った以上のことをやらかしてくれたので私の血管がぶち切れ寸前までいった。
取り合えず穏便にすませてくれた妃殿下には感謝だけど安心もできない。
妃殿下は確かにカルディアスの王妃だが、味方ではないのだ。テレイシアは本当に帝国対策の為だけに妃殿下を我が国に嫁がせたとは考えにくい。
何度か会ったことがあるテレイシアの女王は一癖も二癖もある傑物。その妹である妃殿下にも油断できない。
私は深いため息をつくことで湧き上がる怒りを何とか外に追い出して陛下の元へ行った。
「陛下、よろしいですか」
「何だ。俺はもう休むところなんだが」
ただ押印をするだけの楽な執務を終え、片付けに入っている陛下に若干の殺意を抱きつつむ顔には一切出さず私は本題に入った。
「陛下、妃殿下のことでお話があります」
妃殿下のことを出しただけで陛下の眉間に皴が刻まれ、いかにも不快ですと顔に出す。竜族は腹芸が苦手なのですぐに顔に出る。竜族の典型を行く陛下は特に。
「またあの女が何かしたのか?」
何かしているのはお前たちだ!
私はもう一度ため息をついて怒鳴り散らしそうになる己を何とか制した。
「今回、妃殿下主催のお茶会を私のいない間に行ったそうですね」
「ああ。お前が王妃扱いしろといので公務をさせた。よくよく考えたら王妃のくにせに公務もせずただ飯ぐらいだったからな。全く。お荷物もいいところだ」
「・・・・・普通の令嬢なら一か月でお茶会を準備し、それぞれの家や政治的な関係を精査して招待するなど不可能です。それが行える妃殿下がどれほど優秀か分かりますか。言っておきまずが、番様にはまず不可能ですよ」
「ふん。そんなの侍女にさせたに決まっているだろ。あの女がやったわけじゃない。人の手柄を自分の手柄にするなど浅ましいことだ」
何も知ろうとしないくせに決定事項のように言う陛下には怒りしかわかない。同時にこんな国に嫁ぐことになった妃殿下には同情してしまう。
こんな国捨てて、妃殿下を国へお返しした方がいいのではないかと思ってしまう。
私はこの国出身なのでそれなりに愛着もあるし、捨てることはできない。だから、できれば妃殿下にはこの国に居て欲しいと思ってしまう。そんな己に心底嫌悪する。
「あなたは何を見てそのようなことを仰っているんですか?」
「見ずとも分かる」
「あの女ではなくエレミヤ妃殿下です。それと私はあなたとの付き合いが長いので、あなたにそんな慧眼がないことは知っています」
「なっ!いくら幼馴染だからって不敬だぞ!」
「そうだぞ、フォンティーヌ。なぜそこまで庇う。お前の番なのか?」
顔を真っ赤にして怒る陛下。傍で護衛していた幼馴染の一人、クルトも怒りながら私に問うてくる。そんな二人の様子に私は本日何度目か分からないため息を零す。
「クルト、撤回しなさい。今のは妃殿下に対して不敬です。それと、私は番なんてものを欲しと思ったことはありません」
人の意志も感情も無視して本能で求め合う。それを運命という獣人もいるが、私からしたら呪いだ。
番を持った獣人は少なからず人生を狂わせてしまう。
今まで賢王だった人が傲慢で強欲な番を持った瞬間、番の我儘を無条件で叶えてしまう暗愚になりさがったり、それなりに仲の良かった夫婦だったので片方が番に出会ってしまっただけでその関係に亀裂が入り、どちらかが虐げられるようなことになることだってある。
それでも獣人は番を得たいと、獣人の本能が望む。竜族である私にも少なからずその渇望はある。
だけど、渇望と同じぐらい拒否感もあるのだ。
私の母は番を見つけて、私と父を残して出て行ってしまったからだ。
「お茶会で辺境伯の令嬢とことを構えそうになったと噂で聞きました。辺境伯は、地位は伯爵で滅多に社交界に出ては来ませんが国防の要です。国境を守っているのですから。なので公爵ですらも下手に侮れない相手です。それは王族とて同じこと。番様に、番様が無理なら陛下が令嬢に謝罪と妃殿下に謝意を示してください」
「なぜだ!私は王なのだぞ」
「王だからできないのであれば、番様にさせてください。プライドが邪魔してできないのなら。元の発端は番様にあるのですから私はどちらでも構いません。手紙にするのなら中は私が検めさせていただきます。内容に問題があるのでしたら何度でもやり直しさせます。陛下も番様ももう少し貴族のことを学んでください。王は確かに国の頂点に君臨しますが、民がいるからこそ国の経済が回っています。貴族がいるからこそ国が運営で来ているのです。そのことを今一度、考え直してください」
私は話は終わりだとばかりにまだ何か言おうと口を開きかけた陛下を無視して退出した。
次に向かうのは女官長のところだ。問題ばかりでもう嫌だ。
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