「移動島と嵐」
…移動島。
それは、海の上を漂う不思議な島です。
周囲に嵐をまとっていて巻き込まれた船はバラバラになり、誰一人として帰ってこないとジョン太はおじいさんから聞かされていました。
「ああ、パトリシア。どうしよう。ヨットが間に合わないよ」
海の向こうでは雲が湧き上がり、カーテンのような豪雨が迫って来ます。
近くには竜巻の姿も見え、巻き込まれれば命はないとジョン太は感じました。
「早く、早くしないと」
ジョン太は焦りながらカチカチと逆ルートボタンを連打しますが、そこは安心設計で人工知能搭載の空気の読めないヨット。のんびり来た道を戻っていきます。
「もっと、急いで、急がないと、ああー!」
ついで叩きつけるような雨が降り出し、ジョン太とパトリシアはあっという間にずぶ濡れになりました。
ヨットの足元はズルズル滑り、波は大きくうねり、うかつに足をすべらせれば海のもくずになってしまいそうです。
吹き上がる風にヨットは右に左に大きく揺れ、パトリシアは板にしがみつき、ジョン太もヨットの柱に抱きつきます。
「パトリシア。ああ、どうしよう。パトリシア」
雨でべったりと前髪が張り付いたジョン太は、同じく濡れ雑巾のようになったパトリシアに必死に声をあげます。
「とにかく、とにかく嵐から抜け出さないと…!」
大粒の雨の混じる暴風とともに大きな竜巻がやってくるのが見えます。
「パトリシア、こっちに来て。このままじゃあ僕らバラバラになっちゃう」
しかし、ずぶ濡れのパトリシアはなぜか全く動こうとしません。
「パトリシア?」
そうジョン太が聞いた時でした。
突如、パトリシアが跳ね上がるとジョン太の顔めがけて張り付きました。
「うわっぷ!?」
ジョン太の目の前には雨に濡れて機嫌を損ねたパトリシアの顔。
どうやら雨に打たれたのはジョン太のせいと思ったらしく、八つ当たりでぶつかってきたようです。
「そんなあ…」
パトリシアの重さにバランスを失い、尻餅をつくジョン太。
そしてバランスを崩したヨットは風によって持ち上げられ、一人と一匹は巨大な竜巻に飲み込まれていきました…
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