「うごき砂」

ボトルから出たスキューマは

開口一番腰に手を当ててジョン太にこう聞きます。


『さっきのお願いからずいぶんとお早い呼び出し。

 …で、何のごようですか?』


出てくるたびにぞんざいな態度になっていく

スキューマにジョン太は不安になりますが、

とりあえず、たずねられることはたずねます。


「えっと、目の前の女の人は治せるかな?

 できなきゃ、機械を直してくれてもいいんだけど。」


すると、スキューマは目の前の箱を

とっくりと見て首をかしげました。


『え、なぜですか?』


これにはジョン太も大あわて。


「いや、女の人は不治の病らしいんだけど、

 この装置がないと相手の記憶が移せなくって、

 そもそもこの機械がちゃんと動くことが大事であって…」


何を言っているのか自分でもわかりませんが、

ジョン太の言いたいことは何となくわかったようで、

スキューマは『はあ』と言ってから、首を横にふりました。


『私ども泡の妖精は利用者のメリットになることしかできません。

 やっても意味がないことはさすがに私もしませんよ?』


それには、さすがのジョン太もムッとします。


「意味がないこと?なんでそんなことが言えるんだよ。

 人を救うのに良いも悪いもないじゃん!」


『ですからねえ…』


そうして、何か言おうとしたスキューマですが、

それより先にジョン太はひらめくものがあり、

ルナに問いかけます。


「そういえばさ、なんで機械が壊れるの。」


すると、先ほどまでだまりこんでいたルナは、

ハッとしてから床の砂つぶをひろいました。


「…たぶん、砂が原因よ。

 機械の中に入り込んでサビさせたり、

 作動不良を引き起こすの。」


それを聞いたジョン太は「よーし」と言って、

スキューマの方を向きました。


「じゃあさ、この島にある砂をどこかにやれない?

 上から落ちてくる分もひっくるめて。

 それなら僕らだけじゃなくって、

 下にいる人たちもみーんなが助かるもの。」


スキューマはしばらく考え込むようなそぶりをした後、

『それなら』と言ってこう続けます。


「砂を一つにして動かしてみますか?

 やり方によっては0回にもできますけど。」


その言葉にジョン太は驚きます。


「え、0回?今までの願いには

 必ずボトルを押す必要があったのに…なんで?」


それに対し、スキューマは胸をはって答えます。


『まあ、何度も呼び出してくださった

 お得意様のとしてのサービスの面もありますが、

 何より我がイデア・アイランドの今後の発展に

 なるような実験の場合、特別割引になるんですよ。』


ジョン太はスキューマの言葉の意味が

さっぱりわかりませんでしたが、

とにかくタダなことは良いことのはず。


「だったら、なんでもいいよ。

 とにかくこの砂をどこかにやって。」


『あいあいさー』


そう言うなり、

スキューマの体がふわりと宙に消えました。


「え、スキューマ?どこに行ったの?」


すると、部屋の中に

スキューマの声がこだまします。


『今、私は泡の妖精の姿から、

 本来のナノロボットの姿へと戻りました。

 これから私の能力で散らばる砂に形質変化をうながし、

 回路の形に組み立て直すことで我々と同じように

 意志を持たせてみようかと試みているところです。』


…うーん、さっぱりわかりませんが、

何だかすごいことをしようとしていることはわかります。


そして、しばらくしないうちにザザッという音がして、

ジョン太の足元の砂が動き出します。


同時にポンという音ともに

再び泡の妖精姿のスキューマが姿をあらわすと、

あごに手を当てて満足そうにこの様子をながめました。


『ふむ、どうやら実験は成功のようですね。』


とたんに足元の砂はまるで生き物のようにザワザワと動き出し、

周囲の砂も引き連れてドアの方へと移動します。

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