「サビ付く床での目覚め」

 ザーッ、ザザザーッ


 何かが流れるような音。

 波の音にも似た音。


 ジョン太が目を覚ましたのはサビの浮いた鉄板の上でした。

 ボーッとしながら周囲を見渡すと、そこは小さな部屋。


 赤いハンドルがついた頑丈そうな鉄の扉や、床から半分顔を出した巨大な歯車が部屋の中央に見られますが、どれもがサビつき、朽ち果て、壊れているようで、まともに動きそうなものは、ほとんどないように思われます。


「…ここは、一体?」


 体を調べてみるもケガはないようで、ジョン太は冷たい床から起き上がると、傍らに置かれていたリュックを手に取って背負い直しました。


「あ、そういえばパトリシアは?」


 ジョン太が周囲を見渡すもパトリシアの姿がありません。


「パトリシアー…ととっ」


 二、三歩進んでつまづいたのはハッチのあるドアで、歩いた感じでは下に空間があるようですが、犬がハッチを開けられるわけがないので、ジョン太はそこを避けて歩いて行きます。

 

「…ていうか、なんで僕こんなところにいるんだろう。確か、白い手につかまれたところまでは覚えているんだけれど」


 ジョン太の記憶は曖昧で、バスの中に巨大な白い手が入り込んだところまでは覚えていますが…なぜジョン太だけが狭い部屋の中で倒れていたのか。皆目見当がつきません。


「前におじいさんと見たドラマだと、こういう場合は悪者に捕まったりしているはずだけれども、縄で縛られた様子もなければ、荷物も持ったままだしなあ…ま、ここは無人島でもないし。パトリシアを見つけたら外に出て、見つけた家でおじいさんに連絡を取りながら、ご厄介になれば良いや」


 数日前に無人島から脱出したジョン太には妙な自信がついていました。


 あげく、『どこかの建物にいるイコール人がいる場所に近いはず』という思い込みもあったので、のんきに独り言をつぶやきながら建物内を歩き回ります。


「合宿に行かなくてよくなったのはラッキーかも…それよりパトリシアはどこにいるのかな?あの大きな白い手に握りつぶされていなきゃあいいけれど」


 そうつぶやきながらジョン太は唯一の出入り口とも思える鉄の扉へと歩きます。


 扉の先からは波の音も聞こえるのでジョン太はこの先が海に通じているのだと考えますが…ついで、扉に取り付けられた大きな回転式のハンドルを見て、首を傾げます。


「何でこんなに頑丈にしているんだろう?何か入ってこないようにでもしているのかしらん?」


 みれば、扉の周りには新しく塗装された跡があり、明らかに後づけされたものであることがわかります…ですが、今のジョン太にとってそんなことを気にしている余裕はありません。


「早く、パトリシアを探さないと」


 ジョン太がハンドルに手をかけると扉はギギっという重くきしんだ音をさせ、ゆっくりと外側へと開いていきます…それと同時に、ドアの隙間から大量の砂が風に舞って入り込んできます。


 ザザーンッ、ザザーッ


「やっぱりこの先は海なんだ!」


 ドアを開けながらジョン太はそう叫びます。

 …しかし、その声は吹き荒れる砂と風の音にかき消されていったのでした。

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