「島の秘密」

 島の遺跡の中に広がる夜空。

 赤いビロードの椅子にすわるパトリシア。


 六人のジョン太たちは自分達のうち誰が本物かもめていた上に、急におかしな空間に放り出されたせいで誰もが呆然としています。


 そこに、星空の中から真っ白なタキシードとシルクハット姿の男性がふわりと姿を現し、こう言いました。


『いかがでしたでしょうか、パトリシアさま。我が社の新製品「みんなですればダイジョウブ」は』


 男は慇懃いんぎんにパトリシアに頭を下げ、手のひらを上に向けると、ジョン太たちにも覚えのある宝箱を立体映像で出して見せます。


『オリジナルを専用の機械に入れることで、ご希望の命令を意識化に植え付けたクローン人間を大量につくりだせるこのアイテム。パトリシアさまはこの島での快適な衣食住をご希望でしたが…ご使用のほど、いかがでしたでしょうか?』


 すると、パトリシアはどこか不満そうにヒャンヒャンと吠えました。


『ああ、申し訳ありません。「オリジナルの頭の出来が悪すぎて、とても快適な暮らしなど望めない」と…これは改良の余地がありますね。貴重なご意見ありがとうございます』


 男はどこからともなく取り出したメモに何かを書きつけます。


『なにぶん、私は世界に27ある移動島のうち、「開拓と冒険」をコンセプトにしておりますので商品を開発する際には使う人間の能力によるところが大きく、サバイバル下でも快適に過ごせるような、あくまで補助的な製品を開発していくのが主な目的としておりまして…ああ、話が逸れましたね。こちらがクローンを戻すボタンでございます』


 ついで、タキシードの男がパトリシアの椅子の肘掛けに軽く触れると、一つの赤いボタンが出現します。


『今回は新商品のお試し、及び商品のクレームによる減点によりパトリシアさまの入浴・カット諸々のサービスも無料となっております…それと』


 続けて男がパチンと指を鳴らすとパトリシアの横に小型のエレベーターが出現します。


『用事がお済みになりましたらこちらのエレベーターをお使いください。専用の会員カードが部屋の中央に、また先ほど注文された「お子さまも安心自動運転つきヘリコプター」はお好きなときに呼び出しが可能ですので』


 そう言うと、男は深々とパトリシアにお辞儀をします。


『では、「会員No.0008」の8代目パトリシアさま。のこり9億9999万9999ポイントのクレジットがありますので今後とも私どもの会社「イデア・アイランド」をごひいきに』


 そして、男は夜空に溶けるように消えていき、後にはふかふかの椅子に座ったパトリシアだけが残りました。


「パトリシア!」


 男を見送った後、この状況に我慢できなくなったジョン太が、はじけるようにパトリシアの前に走り出ました。一人が走ればみんなが走り、パトリシアの椅子の周りには、わらわらと六人ものジョン太が集まります。


「大丈夫だったかい?パトリシア」


「今の男に変なことされてないかい?パトリシア!」


「こんなところすぐに出ようよ、パトリシア!」


「早くにげようパトリシア!」


「…というか、どうやって帰ろうか?パトリシア。」


 さながらつぶてのように言葉が雨あられと飛びかいますが、当のパトリシアは涼しい顔をしてビロードの椅子に座っています。


 その内、一人のジョン太が肘掛けに置かれたボタンに気づき、ついで男のしていた話を思い出すと恐々とパトリシアに聞きました。


「そうだ。さっきあの男がクローンとか言ってたけどさ、それ、僕のことじゃあないよね」


 すると、椅子の後ろにいたジョン太も声をあげます。


「そうだよ、僕じゃないはずさ」


 その声に、まわりのジョン太も声をあげます。


「僕じゃない!」


「違うよね、パトリシア!」


「僕こそ本物のジョン太だ!」


 わいのわいのとうるさい声が飛びかいますが、パトリシアは涼しい顔。

 そして、最後に六人のジョン太たちが一斉に叫びました。


「「「「「「僕が本物のジョン太だよね、パトリシア!」」」」」」


 ヒャウン!


 その声に、パトリシアは一声吠えるとボタンを押します。

 

 そして次の瞬間。パトリシアの周りにいたジョン太は一人残らずいなくなってしまったのでした…

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