第三章 決闘
決闘の申し込み
翌日、ルークスへの嫌がらせが悪化した。
校門を入るや集団に取り囲まれる。高等部から初等部まで様々な男子達だ。
「騎士団からの誘いを断るなんて頭がおかしい!」
「国を守らない奴にこの学園にいる資格なんか無いからな」
「天才君はいつゴーレムマスターになれるのかな?」
ルークスは視線を外し無視して進む。
「シカトすんなよ!」
と手を出した男子は突風に吹き飛ばされて身の程を知った。
ルークスの前に立ちはだかったグラン・シルフは周囲を睥睨して言う。
「主様、この痴れ者共を懲らしめてやりましょう」
「カリディータみたいな事は言わないで。言いたい奴には言わせておけば良いよ」
なおも憤るインスピラティオーネを連れてルークスは校舎に向かう。
前から来た高等部の生徒たちの一人が、手袋を投げてきた。
「おい平民、ドロースス子爵の次男が貴様みたいな下賤な輩に決闘を申し込んでやる。光栄に思え」
胸に当たった手袋をルークスは手に取る。
高等部の男子は取り巻きを従え反っくり返って言う。
「この学園ではゴーレムを使えば生徒間の決闘が認められる。貴様に勇気があるなら逃げずに受けろ」
ルークスは手袋を投げ返した。
「僕は、まだゴーレムマスターじゃありませんので」
「オムがゴーレムを作れたと聞いたぞ。あれは嘘か?」
「作れただけで動かせません」
「作れたならゴーレムだ。決闘に応じろ。それとも恐くて逃げるのか?」
グラン・シルフがルークスの頭上から警告する。
「そこな人間。それ以上の無礼はこのインスピラティオーネが許さぬぞ」
「風精の出る幕ではない。これは土精の問題だ」
「自分が有利な分野でないと決闘も申し込めぬのが、勇気ある人間のすることか? 対等では勝てぬと自覚しているからであろう」
「平民と対等だと!? あり得ん!! おい平民! 決闘に応じなければ、子爵家の力でお前の養い親一家を潰してやるぞ!」
その恫喝はルークスの逆鱗に触れた。
上級生を真正面から睨みつける。
「親の力が無ければ決闘も申し込めない人を、貴族では『勇気がある』と言うのですか?」
今度は上級生の逆鱗に直撃した。あまりの侮辱に子爵の次男は言葉を失う。
ルークスは面と向かって言った。
「良いでしょう。決闘になるのか分かりませんが、受けますよ。ただし、オムじゃノームとあまりに釣り合いません。他の精霊にも助けてもらいます。それで良いですね? もちろん先輩も、他の精霊の助けを借りて構いませんから」
取り巻きになだめられ、子爵の息子は息を整えた。
「その条件で良い。ただし、ノームではグラン・シルフとはあまりに釣り合わない。グラン・シルフは除外しろ」
「ええ。インスピラティオーネは決闘に参加させません。で、場所はあそこで」
ルークスは園庭にある泥溜を指した。
「時間は放課後でよろしいですか?」
「ふん、良いだろう」
ドロースス子爵の次男は服装の乱れを整え、威儀を正して立ち去った。取り巻き達が後を追う。
一人残されたルークスにアルティが歩み寄る。
「ルークス、私のノームを使って。そうすればゴーレムは何とかなるから」
「アルティ、他人の力を借りたら決闘にならない。それに、ノンノンだから他の精霊に助けてもらえるんだよ」
ノンノンはルークスの肩で敬礼した。
「頑張るです」
「でも……私も当事者よ」
「ごめんね、巻き込んで」
ルークスにそう言われると、アルティはもう何も言えなかった。
インスピラティオーネに言付けをしているルークスに、級長のフォルティスが話しかけた。
「ルークス、コンテムプティオ先輩には気を付けろ」
「誰の事?」
「君の決闘相手だ」
「何とか子爵の次男だったね」
「ドロースス子爵は奪われた国土の領主だ。本家が亡命したので、親族がドロースス子爵領を継いだ」
「乗っ取ったんだ」
「まあそう言うな。領地を失った貴族に残されたのは家名だけだ。彼は君に勝って名を上げる気だ」
「ゴーレムを使えない後輩に勝って上がる名なんてあるんだね。それって上級貴族の習慣?」
「怒るのは分かるが冷静になれ。グラン・シルフを封じられたのは痛いのだぞ」
「君はどっちの味方なの?」
「それに答えると立場が危うくなるので勘弁してくれ」
「忠告ありがとう」
ルークスは空を見上げた。大精霊に指示された風精たちが飛び交っている。
胃が熱く、痛むくらい固まっていた。
この怒りはゴーレムに没頭しても解けそうにない。
あの何とか言う先輩は、ルークスを一番怒らせる事を言ったのだ。
(二度と、あんな思いはするものか)
決闘の勝敗などどうでも良い。
フェクス家を巻き込もうなどと、もう誰にも考えさせない事がルークスの目的であった。
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