第202話:繰り返す先へ 19
やり直しの型式。
この力がある限り、俺は『縛の主』へ手出しができない。
倒すこともできなければ、止めることも、触れることもできなくなったということだ。
そうなると、『縛の主』がこれからすることを止めるためには仲間が必要になる。
でも、俺には『縛の主』と戦える仲間がいない。時間もない。
俺は、短い時間の中で何が出来るのかを考える。
当面の目標としてはやはり、
裏世界最強である『焔の主』から、どうやってチヨを助けることができるか。
原点回帰とも言えるが、ここにつきる。
今度は諦めない。今度は狂わない。
だけど。まだまだ力は足りない。
だから俺は、これからもやり直すのだろう。
だけど、その隣には、俺と一緒にやり直しをしてくれるチヨがいる。
チヨも俺と共にやり直すことは了承済みだ。
だから、何度でもやり直すことは怖くない。
今は、暗くなることはない。卑下することもなければ、悲観することもない。
いつかきっと助けてみせる。
それが早いか遅いかの違いだ。
だから、出来る限りこのやり直しの力を楽しもう。
出来ないことが出来るのだから、出来ることをやれるだけやろう。
それが俺の、そしてチヨの力になる。
きっかけになる。
このやり直す型式の力を駆使して。
繰り返す先へ、俺は必ず辿り着く。
何度も何度もやり直して、俺は必ずチヨを救い出し、そして先へと。
チヨと共に、進んでいく――
だがしかし……
チヨが、体操服はちょっとマニアックだから嫌いって言うのは驚きだった。いや、俺も正直体操服はモノによってはマニアックだとは思っているからいいんだ。だから諦めたのに。代替案でもまさか……伝説に名高い白スクの代替案もダメと言われるとは……。
ううむ……だとしたら、次は何を着てもらえばいいのか。
それが何よりの問題だ。
やはり、お気に入りの巫女装束に戻るしか――ん? あ、おい。チヨ、タンスの中を漁って何を……ああぁっ! 待て待て! いくら作れるからってコレクションを燃やすことないだろう!?
その種火で武器を作る!?
お前なにいってんだ! そんなもん種火にしても何の意味も……
……いや待て。型式で作り出された物質を、武器にする。
それはかなり画期的ではないか?
新たな武器の可能性さえ感じるその行動。
チヨ。
俺も手伝おう。
さあ、どんどんと俺が作るこの衣装を、思う存分――
え? 衣装じゃなくて別のものを作れ?
……何を、言って、いるのか、と。
なんていう不慮の事態にもめげず。
毎日のようにチヨのために服装を『
それとは別に、残り少ない時間の中でチヨに毒されて武具作りに目覚めてしまって、チヨを連れて裏世界の遺跡を回って面白い素材を集めるようになった。
共に最新の武具を作るためにあーでもないこーでもないと言い合う充実した毎日は妙に楽しい。これが短い時間だからと分かっているからなのかもしれない。
そんなことを繰り返し、互いに刻一刻と近づいてくるあの日から目を背けながらも、少しでも自分の力を蓄える。
気づけば、冬と松はD級からC級へ。瑠璃はA級へと昇格していた。
俺は余裕もなかったことから、同期の三人と交流を持つこともなく、ただひたすらに遺跡発掘・調査の仕事に明け暮れる。
「おい、チヨ。そこは罠があるから触れるなよ」
「およ? この辺り?」
かちり。
チヨが壁に置いた手が少し沈むと、機械式と思われるスイッチ音が鳴った。
「……なぜ、押した?」
「いやぁ……押せと言われたもんかと……」
背後から聞こえる雷鳴のような音。
ゆっくり振り向けば、そこにあるのは、遺跡の定番。
ごろごろと。
どでかい丸い岩だ。
現在地が坂道だからこそ勢いよく落ちてくる岩に、俺はすぐさまチヨを担いでは、巨岩に追いかけられながら遺跡を回り続ける。
……チヨといると、こんなことは日常茶飯事だ。
命からがら逃げ帰っては、手に入れた
組合に所属する。それだけでチヨの身の安全を得ることができる。
所属してすぐに『弁天華』様と呼ばれだしたのは、恐らくは鍛冶屋組合には珍しい女性であり、前『焔の主』万代キラの娘だからであるのだろう。
鍛冶屋組合を創りだしたといわれるキラの娘だからこそ、組合員のチヨの護りは強固である。
組合員となったからこそ、次はチヨのための工房つくりだ。
自宅に併設して、『
キラの娘という知名度はあるが、自身の鍛冶技術としての知名度はない。
まずは雑貨を売りながら少しずつ知名度を高めていく。
その為の遺跡巡りだったりするわけだ。
先日巨岩に追いかけられた遺跡ではかなりいい物があった。あれでチヨの知名度も一気にあがっただろう。
しかし……
突如、表・裏世界の各地に現れた謎の遺跡。
あれは一体なんなのかと、興味が尽きない。
いつかあの遺跡を解明してみたいものだ。
そう言えば、松の『型式砲天略式』をメンテナンスすると約束していたような気もする。それを言えば、冬の武器選びも手伝うと約束していたような気も……。
まあ、どちらをするにしても、やり直し以前のようにチヨを紹介してチヨの専属とさせるのだから、彼等のお眼鏡に叶い続けるためにもチヨの技量も上げるのは必須である。
なんとなく。
あの三人は、チヨがそこまで技量がなくても使い続けてくれるような気もしなくもない。
優しいからな、あいつらは。
そんな遺跡発掘は、危険も盛りだくさんだ。
「女連れとはいい身分だなぁ! 可愛いその子を俺らに味見させてくれよっ!」
時にはヒャッハーといわんばかりの殺し屋組織との遭遇戦もありつつ。
「いっくん聞いた!? あたい、可愛いって!」
「黙れ、ない乳」
チヨを護りながらの戦い。
チヨは可愛いことなんぞ言われなくても分かっているし、コスチュームが似合うこともよぉく知っている。
そんな殺し屋組織の遺跡発掘に手をだして荒稼ぎする連中達と時には戦い、時には奪い合い、時には交渉し合いと、様々な戦いを経て、俺自身強くなってきたと自覚していく。
いや、初めてのやり直し時点で、俺はA級殺人許可証所持者まで昇りつめている。
強くなったというより、以前より場慣れし、自分の戦いというものを理解し、それに合わせて型式も精錬されたのだろう。
名ばかりのA級が、実もついてきたと言うことか。
やり直し以前はなかった使い勝手のいい型式も開花し、俺はまだまだ強くなれるという確信を得た。
……会得した動機が不純な型式ではあるが、使い方次第でどの型式よりも凶悪になりそうな力を秘めていると思う。
俺自身、出来うることをやっていた。
チヨを護るため、チヨを救えるまでの時間がないからこそ。
俺は、今自分ができる最良の選択を行う。
それが、チヨ専用型式『
俺が『
熟練度をあげるために効率的に意欲が湧くやり方がチヨのためのコスチューム作りなだけだ。本当だ。間違いない。
いつでもどこでも『
それが今、俺ができる最良の選択であり、生き残る道だと思っている。
そして、そのチヨの服装を作り続けては燃やされ続けた結果は、俺とチヨの運命の日に、現れる――
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