──第94話──
昼食を食べ終わり、俺は森に来ていた。
初めてこの森に来た時は、 ネロとラルフがスイスイ行くのに対し、 俺は慣れない地形で
今思うと、あの時は本当に二人の足を引っ張ってたんだな。
確かに慣れれば近道だ。
そう しみじみ感じながらこの後どうするか考える。
……とりあえず、呼んでみるか。
「ユニコーンさ~ん!いませんか~?」
……。
…………。
………………。
俺の声が森の中に響き、その声に驚いた小さな鳥が ピチチッ と鳴きながら飛んで行く。
太陽に照らされた草や花、風と木の葉の
鳥が遠くへ飛んで行くと、辺りは静寂に包まれる。
……ですよねー。
呼んで出てくるなら、ユニコーンが“幻”って言われないよなー。
俺は顎に手を添えて考える。
来てみたものの、どうやったらユニコーンに会えるのかを考えていなかった。
行き当たりばったりで八方塞がり。
出会った魔物を図鑑に自動登録して、メニュー開けばどこにいるか分かる……なんて、どこぞのゲームの様な便利機能は無ぇしな。
偶然見つけるまで散策するか?
幻って言われてるから そんなすぐには見つからないだろうなぁ……。
思考を巡らせていると、左腕につけていたミサンガから光が溢れる。
「ぅお!?な、なんだ!?」
俺は顎に添えていた手を離し、光を見つめる。
ミサンガからは細い糸の様な光溢れ、絡み合いながら空へ登って行った。
な、なんだったんだ……今の……。
空を見上げて呆けていると、【索敵】に猛スピードで近付いてくる反応が示された。
おっと。
この感じ、身に覚えがあるぞ。
念のため警戒をして、その反応が来るのを待つ。
俺の目の前で止まるその魔物は額の中央に鋭く尖った一本の角を持つ白馬───思っていた通り、その魔物はユニコーンだった。
ユニコーンは俺をしばらく見つめると、言葉を放つ。
『……ルディ、何用か。』
『来てくれて助かったよ。ちょっと聞きたい事があってさ。……その前に何で俺が呼んでるって分かったんだ?』
『ルディの身に付けているソレは、我が身体の一部だ。伝心する助けにもなろう。』
ユニコーンは俺の左腕についているミサンガを視線で示して言葉にした。
おお!
便利道具!!
ユニコーン専用だけど!
伝心っつーと、心から心へ伝える……だったか?
俺の会いたい気持ちが伝わったんだな、うん。
『本当に来てくれて助かったよ。探しに行こうか、とも思ってたんだ。それで、聞きたいんだけどさ……』
『何だ。』
『前に言ってた……変わり果てた魔物、だったか?俺達はそれを“もどき”って言ってんだけど。前に聞いた その“もどき”は今も生きているのか?』
ユニコーンは ピクリ と耳を動かし、俺を探っている様な目を向けてきた。
『
『うーん、そうだな……。これ以上被害を増やさない為に、かな。』
うん、この言葉は間違っていない筈だ。
原因を解消出来ればこれ以上被害も出ないだろうし。
俺は“もどき”の件を何とかして里に被害を出したく無い。
原因を解消する為に“もどき”で実験したいから……なんて事までは言わなくても良いだろう。
俺の言葉を受け、ユニコーンは瞼を閉じて思案する。
そして、ゆっくりと瞼を上げると ふっ と柔らかい表情を向けられた。
『……そうか。ならば答えよう。ルディの言う……その“もどき”は生きている。』
そうか!よし!
俺の仮説は正しかったんだな。
『俺をそこに連れてってくれないか?』
『……そこに行ったとて……いや……分かった。連れて行こう。』
『ありがとな。』
俺の言葉を聞くと、ユニコーンは俺に背中を向ける。
……。
え、何で止まってんの??
『何をしている。早く乗らぬか。』
『いや、走ってついてく……うん、分かったよ。』
有無を言わさぬユニコーンの瞳に見つめられ、俺は言葉を飲み込み、ユニコーンの背中に
うぉぉ。
思ったより高ぇ。
馬に乗るの初めてなんだよな。
馬って言って良いのか?
ユニコーンだけど……。
まぁ、馬に近いから馬で良いだろう。
ユニコーンの鼓動と体温が足元から伝わってくる。
俺が乗ったのを確認すると、ユニコーンは口を開いた。
『ルディ、振り落とされぬ様にな。』
え、ちょっと待って。
どこに捕まれば良いんだ?
この懐かしい不安な気持ちは気のせいだと信じたい。
そう思い、俺はユニコーンに言葉を掛けようとするが、ユニコーンは ぐっ と足に力を入れると、勢いをつけて駆け出した。
『ちょ、待っ──』
うわぁぁああぁぁ!?
ちょっ!!
腰がっ!!
急激な加速に上半身が
〈深淵の森〉で俺が走るスピードとほぼ変わらないが、地形もまだ覚えておらず、自分で走っていないので次にどういう動きが来るかも分からず、振り落とされるかもしれないと言う恐怖も付きまとう。
やっぱり断っときゃ良かったっ!!
走ってついて行きゃ良かったっ!!
後悔しても時すでに遅く、走り出したユニコーンは止まらない。
そして数分後、ふわっ と、ジェットコースターの頂上で起こる様な無重力を感じると、流れていた景色が止まった。
『ここだ。』
ユニコーンの言葉を耳に、俺はゆっくりとユニコーンの背中から降りる。
足元がまだ ふわふわ としているが、目の前の景色を見て全てが吹っ飛んだ。
目の前には そり立つ崖。
後ろを見れば木や草があるのに、目の前にあるのは左右に大きく続く岩壁だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます