──第92話──

それから俺は魔法陣の解析を進めていった。


爆発する陣を宝石に描き込みんだモノを持って外に行き、どれくらいの威力かを確かめたり、他の陣は何に影響を及ぼすのかを調べていく。


たまにショーンも一緒に行く事があるが、その時は薬草集めを中心に、危険が無い程度の実験をしていた。

おかげで、回復薬のストックがたくさん作れたので無駄な時間では無かっただろう。


ネロから返して貰ったお金で机と椅子も買い、俺達が泊まっている部屋に置かせてもらった。


ネロは、ここ最近 昼食を食べてから寝て、夕食を食べたら出かける、と言う逆転生活をする様になっている。


今も後ろのベッドで行儀良く寝ていた。


ラルフはいつもの通りに地下へ行き“もどき”の様子を見ている。

が、思う様に行かずに苦戦している様子だった。


「よし、こんなもんだろ。」


俺は独り言を呟きながら、完成した魔道具を眺める。


これはネロから言われていた、特定の魔力を探知するモノ。


指定した魔力に近付くと暖かくなる道具……ただ それだけのモノだ。


試しに“もどき”から採取した歯に近付けると暖かくなったので大丈夫だろう。


とりあえず、一つ完成したので 伸びをして身体をほぐす。


キィ……


扉がゆっくりと開かれると、疲れきった様子のラルフが入ってきた。

ラルフはそのまま自分のベッドに向かうと ポスンッ と沈んだ。


「どうした、ラルフ?」


心配になり問い掛けると、ラルフはベッドに顔をうずめたまま声を出す。


「ルディ~……もう無理ぃ~……」


「??」


くぐもった声で何を言っているのか聞き取りにくく 首を傾げていると、ラルフは顔だけを持ち上げて言葉にした。


「お腹すいた~……。」


それだけ言うとまたラルフは顔を元に戻す。


なんだよ。

腹が減ってただけかよ。

心配して損したわ。

そういや、俺も腹がへったな。

集中してたから忘れてた。


そう思い、俺はネロを起こしにかかる。


「ネロ、そろそろ起きろ。飯に行くぞ。」


「……んだよ。」


「飯に行こうぜ。」


「……もー、そんな時間か?」


「そーだよ。」


もぞもぞ と動き出したネロは枯れた声で返事をする。

俺が言葉を返すと、ネロは上半身を起こして大きく欠伸あくびをした。


「ふぁ……。おはよ。」


「おはよ、疲れてんのか?」


今、朝じゃなくて夕方だから おはよう じゃないような……?

おそよう?

ま、どっちでも良いか。


俺の問いにネロは頭を ガシガシとかきながら答える。


「いや、疲れてねぇ。大丈夫だ。」


「そうか?なら良いけど、無理すんなよ。」


「はいはい……と、ラルフはどうしたんだ?」


「空腹で死亡中。」


俺達の会話を聞いていたラルフは顔だけを持ち上げ、片手を力無くヒラヒラと振る。


「ネロ~……おはよ~……。」


「おはよ。なんだ?そんなに腹が減ってんのか?」


「それもあるぅ~……。」


ラルフは持ち上げていた手をベッドに放り投げ力無く答えた。

俺とネロはそんな様子に苦笑していたが、ふとラルフの言葉が引っかかった。


「……それ‘も’って事は他に何かあるのか?」


「ん~……。“もどき”が使えない~……。」


ラルフの言葉に俺とネロは顔を見合せ、同時に頭に疑問符を浮かべた。


ネロはベッドから完全に起き上がると口を開いた。


「まず、飯にしようぜ。それで、食い終わったら皆で“もどき”の様子を見てみるか。」


「そうだな。それが良さそうだな。」


「ありがと~……。助かるぅ~……。」


動く気配の見えないラルフに俺は近付いて腕を引っ張る。


「ほら、ラルフ。飯に行くぞ。」


「ラルフ、早く食おうぜ。」


「うん~……。」


その後も、動く気配が見られなかったのでネロと俺でラルフを食堂まで連行して行った。







食事を取って、いつもの元気を取り戻したラルフを連れてネロと共に地下へ向かう。


かすかに香る鉄の匂いに嫌な予感を覚えながら“もどき”がいる場所までやってきた。


やっぱりなっ!

そうだと思ったよっ!!

モザイク!!

モザイク班を誰か呼んで下さいっ!

良い子は見ちゃいけませんっ!!


俺はすぐに“もどき”に近付き、治して良いかラルフに確認してから、“もどき”を綺麗に洗い【治癒】の魔法をかけた。

その様子を見ていたネロは不思議そうに首を傾ける。


「“もどき”がルディの髪色を見ても反応しなくなってるな。」


「ネロ!それだけじゃないんだよ!“もどき”に何やっても無反応なの!!もう僕、後何したら良いのか分からないよ~。」


ラルフの言葉を背中で聞きながら“もどき”の様子を観察する。


生気の無い曇った瞳はどこを見ているのか分からず、頭の重さで首がかたむいていて、どこにも力の入って無い身体。

口が半開きになり、動く気配も無かった。

たまに目をまばたきしていなければ、死体と間違えてしまうかもしれない。


“もどき”の様子を見て、俺は自分の考えを口にする。


「……もしかして、アレを取り出したからじゃねぇか?」


「アレって魔法陣が描かれてた宝石の核みたいなものか?」


「そう、ネロが言った核の魔法陣は精神干渉系の陣も組み込まれていたから……」

「無理矢理取ったのがいけなかったのかなー?」


「そうかもしれないな……。」


俺の問いにネロが答え、俺の言葉の続きをラルフが引き継ぐ。


もう少し解析した方が良いかもしれないな。

体内に入れる為の陣もあるかもしれないし……。

物理的に入れられてたらお手上げだけど。


俺が一人ひとり考えていると、ネロが口を開いた。


「この“もどき”から得られるモンが何も無いならエヴァンに引き渡すけど?どうだ、ラルフ。」


「もう大丈夫~っ!」


「分かった。なら今日……いや、明日だな。話を通しておく。」


「よろしくっ!!ネロ!ありがとっ!」


そうして、近々“もどき”を引き渡す事になった。



















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