──第90話──

腕相撲が開かれているこの場所。

空を見上げれは太陽が傾きつつあるが、辺りを明るく照らしていた。


セシルと別れたネロは相手の前に座り、挑発をしている。


ネロもネロで鬱憤うっぷんが溜まってたんだろうな。

顔怖ぇって。

悪の組織の司令塔みたいな顔してるぞ。

……例えが悪いな。うん。


ネロの挑発に怒りを表に出している冒険者と、言葉に言い表せ無い悪い表情をしているネロ。


テトはそんなネロに呼ばれた。


うん、テト。

その気持ちよく分かる。

あんな所に行きたくねぇよな、うん。


すると、ラルフが にこにこ と満面の笑顔でテトに声を掛けた。


「テト!いってらっしゃーい!!」


テトはラルフに苦笑で返事をし、一度躊躇いちどためらいつつも、勇気を振り絞るかの様にネロの元へ駆け出した。


俺は、テトやネロが相手の注意を引いているのを確認してからセシルに声を掛けた。


「セシル、右手出してくれ。」


「あぁ?なんでだよ?」


「良いから。」


セシルは しぶしぶ と言った様子で俺に右手を差し出した。

俺はテトの様子を伺いながらも、そこに魔法陣を描き込んで行く。


「なんだよ、これ。」


「勝つ為のおまじない、かな?」


セシルはいぶかしそうに描き終わった右手を見て言葉にする。

その言葉に俺が答えるとため息をつかれてしまった。


「なら、俺が勝負する前にしてほしかったな。」


言いたい事は分かるけど、タイミングが無かったんだよ。

ごめん、ごめん。


俺はセシルに苦笑しつつも、片手で謝る。

そして、俺とラルフ、セシルはテトの勇姿を見守っていた。


──────────


俺達はほとんどの料理を食べ終え、後はそれぞれが持っている飲み物とちょっとした おつまみ が机の上に置かれている。


セシルは自分の右手を見つつ言葉にする。


「で、ルディが俺に描いた おまじない っつーのは相殺する魔法陣だったんだな。」


セシルの言葉を聞いて、俺は一度いちど喉を潤してから答える。


「いや、相殺だけじゃない。セシルの力がどれ位あるか分からなかったから、向こうと同じ陣も組み込んだ。」


「アイツと同じ……?腕力を上げるっつーやつか?」


「そう。」


セシルの魔法陣は消してあり、そこには何も無いが、セシルは自分の右手を見て何かを考えていた。


「魔術っつーのは便利なんだな。俺もやってみっかな……。」


「セシルには無理だと思うけど。」


「なんでだよ、テト。やってみなきゃ分かんねぇだろ。」


「そんなにホイホイ出来る技術なら専門家なんかいらないって。皆が出来るなら王宮に魔術に特化した人達や魔術棟だっていらないだろ?」


「ルディだって出来るんだ。俺だってやれば出来るかもしれねぇじゃねぇか。」


「ルディは簡単そうにやってるけど相殺するなんて、難しいんだからね?知識と閃きが無きゃ出来ないよ。セシルは脳筋だからね。魔術より腕力……魔法を強くする方が合ってると思うよ。」


「じゃあ、何でルディはそんな高度な魔術が使えるんだ?専門家……って訳でも無いだろ?」


セシルは後半ネロとラルフに聞くが、二人は悩む素振りも見せずに答えた。


「ルディだからな。」

「だってルディだもん!!」


「なるほど、ルディだからか。」


セシルは何に納得したのか、しきりに頷いていた。


待って。

何に納得した!?

納得する場所あったか!?


俺が突っ込みをいれるも、笑われて終わってしまった。

それにつられ、俺も笑う。

その後も笑い笑われ、時間も過ぎて行き、和やかな夕食はお開きになった。




セシルとテトと別れた俺達は自分達の部屋へと戻る。


俺は【収納】から金貨の入った袋を取り出し、ネロにそのまま投げ渡す。


「これで買える分だけ宝石を買ってきてくれ。」


「小さくても粗悪品でも良い、んだったか?」


「そう。とにかく数がなきゃ検証が出来ん。」


「了解。出来るだけ早く集める。」


これで金の問題は解決したな。

もう貧乏とは言わせない。


投げ渡した袋を受け取ったネロとの会話に、ラルフはベッドにうつ伏せになりながら声を出す。


「あの相殺する魔法陣みたいに簡単には出来ないのー?」


「あれは俺も使った事があったからな。魔術っつーのは理解してないと描く事も出来ねぇし、相殺するなんて無理だからな。」


教えて貰った事がある、の方が正しいか?

まぁ、どっちでも良いだろ。


ネロは受け取った金貨の袋を魔法鞄に入れると、ラルフに問いかけた。


「ところで、ラルフの方は何か進展はあったのか?」


「そーだなー……。」


ラルフはベッドの脇に置いてある魔法鞄を三つを自分の手元に引き寄せ、中から色々なモノを出し始めた。


「まず、銀色に反応するから色々試してみたんだよねー。鏡でしょー?食器でしょー?服でしょー?鍋でしょー?あとー……」


説明しながら ポイポイと、俺のベッドの上に投げてくる。


銀の鏡に銀の匙、銀の鈴や銀の時計、銀の皿と銀の鍋……


俺のベッドが銀色に埋め尽くされていく。


どこで こういうのって売ってるんだろうな。

そういえば、三人で街に出てる時も色々買ってたな。

……てか、何で俺のベッドの上なんだよ。

寝る場所ねぇじゃん。


全部出し終えたラルフは両手を広げて笑顔で言葉にする。


「これ ぜーんぶ反応無かったから、いらなーいっ!ルディにあげるーっ!!」


「は!?俺だっていらねぇよ!」


「だって僕の鞄は容量が決まってるもん!ルディにあげるからしまっといてー!」


俺は荷物入れかよ。

【収納】なら入ると思うけどさ、ったく。


俺はため息を吐いてから、ベッドの上に積み上げられた銀色のモノを【収納】へしまう。

その間、ネロは腕を組み、何かを悩んでから口にする。


「じゃあ、銀色で反応したのはルディだけって事か?」


「んー……そうでもないんだよねー。」


「「??」」


「僕がこの魔道具を外して銀髪になったら、すっごく暴れたよ?」


「ルディ以外にも反応するのか……。」


「うん。それでー、獣人みたいに耳と尻尾がついてても暴れたしー、狼の姿でも暴れたよー??」


「銀色の毛並みに反応するのか??」


「多分ねー!人工物には反応しないみたい!」


「じゃ、後は異物の撤去だな。」


「うん!!もう少しで出来そうだよ!!」


俺、ネロ、ラルフはこれからの段取りを確認してから眠りについた。





























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