──第77話──
少年は俺のローブの裾を引っ張ろうとしていた様で、その体勢のまま固まっていた。
え!?
この前の子だったのか!?
あー……
驚かせてごめんよ……。
おい!
ネロもラルフも気付いてただろ!!
笑いを堪えてないで 教えといてくれよ!!
怖がらせちゃったじゃん!!
ネロとラルフの位置からなら、入り口から入って来た人物が誰だったか分かった筈だ。
俺は入り口に背を向けた状態で、二人は俺の正面に座っている。
だから、俺は二人が何の行動も警戒もしなかったので、気にする必要が無いと判断したのだ。
それでも近付いて来る気配が何か分からなかったので、その気配に攻撃をせずに
結果、少年を怖がらせる事に……。
「あー……ごめんな?えー、と……」
俺は少年を怖がらせ無い様に優しく語りかけると、少年は ハッ とした後、首を横に ふるふる と振った。
え、それはどっち?
謝罪を受け取らないってこと?
それとも、大丈夫だってこと?
俺はそう考えていると、そういえば少年の名前を聞いていない事を思い出した。
「名前、教えて貰っても良い?」
俺の問い掛けに少年は こくり と頷くと口を開いた。
「……ショーン。ショーン=フローレンス……。」
「んぁ?フローレンスっつーのか?」
少年……ショーンの言葉に反応したのはネロだった。
ネロの言葉にショーンは こくり と頷くとネロは何やら難しい顔になる。
だが、そんな様子を気にする事無くラルフはショーンに言葉を掛ける。
「前に言ってたみたいに遊びに来たんだよねっ!何か食べる?」
ラルフはショーンに椅子を進め、ショーンは座りながら こくり と頷いた。
ラルフがショーンにメニューを渡すと、ショーンは甘いモノの欄をキラキラとした顔で見ていた。
やっぱり甘いモノって子供は好きだよな。
だが、徐々にショーンの顔色が暗くなって言った。
今度は何だ!?
「どうかしたのか?」
俺がそう聞くと、ショーンの瞳が俺に向けられる。
ショーンは手に持っているメニューの一つを指で示しながらゆっくりと口を開いた。
「……やっぱり、高いなぁ、って……」
「あはは!気にする事ないよ!ルディが払ってくれるから!!」
それに答えたのは俺ではなくラルフ。
いや、払うけどさ!?
この前のお詫びだし!!
でも、それ言うのラルフじゃなくて俺だよね!?
お・れっ!!
その間、ネロはショーンが指で示したデザートを注文していた。
注文し終えたネロは意地悪な笑みを浮かべて俺に言葉を放つ。
「ルディはこれから稼ぐんだから、これ位問題無いだろ?」
「あ、あぁ……そうだな。」
そう、なるのか?
「……これから、かせぐ の?」
ネロの言葉に首を傾げたのはショーンだった。
ショーンの質問にラルフは笑顔を向けた。
「そうだよ!今度、ルディが薬草を取りに行くんだって!」
「やく、そう?」
「そう!ほら、元気の出る薬を作るやつだよ!」
「……ぼくも、ついてって良い?」
ショーンの質問にラルフは悩み、俺の方を見てきた。
え、そこで俺に振る?
俺は仕方なくショーンに言葉を掛ける。
「薬草を取りたいのか?」
「……うん。」
「俺は国の外に出るから、危険もあるんだぞ?」
「……それでも…………最近、疲れてるみたい、だから……。」
誰が!?
何が!?
この子には主語と言うものは無いのか!?
俺は少し考え、その考えを口にする。
「もしかして、家の人が疲れてるから薬草を取りに行きたいのか?」
俺の言葉にショーンは こくりと頷いた。
凄くいい子じゃん……。
疲れてる家の人の為に何か疲れが取れるモノを渡したいなんて。
健気だなぁ。
「最近……お仕事がうまく、いかないって……家にも、あまり帰ってきてくれない、から……元気になったら、また……いっしょに、いられるかな……?」
「どうだろ……?でも、そうだと良いな。危険もあるけど、一緒に行くか?」
俺がショーンの頭を優しく叩くと、眩しい笑顔が返って来た。
ショーンを連れて行くとして……
俺もこの辺りの地形は詳しく無いから下見が必要だな。
後は、薬草がある所を探して……
「ショーンは三日後に何か予定でもある?」
「……ううん。だいじょうぶ。」
「そう……なら、三日後のお昼に、また ここに来てくれるかな?その日に一緒に行こうか。」
「……うん!ありがとう、おにーさん。」
「どーいたしまして。」
俺とショーンが笑い合っていると、タイミング良くショーンのデザートが運ばれてきた。
ショーンは俺に視線で食べても良いか、確認してから恐る恐る口にする。
その様子を見ていたネロが、不意に言葉を口にする。
「ルディが子守りをするなんてな……」
「ネロ、発言が親父臭いぞ。」
俺がネロに突っ込みを入れると、ネロは鼻で笑い意地悪な笑みを浮かべてきた。
「…………俺もルディにご馳走して貰おうかな。」
「は!?何でそうなるんだよ!!」
「そうなの!?なら、僕もー!!」
「ラルフまで!?」
俺が今、金が無いって知ってるよね!?
何でそうなるかな!?
俺の思いは虚しく、その場の支払いは全て俺が払う事になってしまった。
その後、ラルフとネロは先に部屋に戻り、俺はショーンを見送る。
「それじゃ、三日後な。」
「うん!ありがとう、おにーさん。」
そう言ってショーンは手を振りながら帰って行った。
俺が部屋に戻るとネロとラルフはベッドに腰掛けながら雑談している。
俺もベッドに腰掛けようとすると、ベッドの上には銀貨が置かれていた。
俺は銀貨を拾い上げながら二人に聞く。
「これは?」
「知らん。」
「さあねー!」
知らないと言う二人だが、恐らくネロとラルフが置いたものだろう。
じゃないと逆に怖い。
ネロは照れ臭そうにし、ラルフはにこにこと笑顔で俺の事を見ている。
そこに置かれていた銀貨は、食堂で支払った額よりも多く置かれていた。
俺が素直に受け取らないからって……。
全く……。
回りくどい事するなぁ。
俺は緩む顔を抑えながら二人に礼を言う。
「ありがとう、二人とも。」
「何の事だ。」
「あはは!不思議だねぇー!」
そんな二人の様子に抑えていた笑いが溢れていく。
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