──第74話──

「それで、ルディ?確認したい事は確認出来たー?」


気を取り直したラルフが俺に問い掛けてきた。


「ん?あぁ、出来たぞ。この“もどき”の首らへんに何か異物が入ってるみたいだ。」


“らへん”と言うのは、それが魔力を持っているせいか、魔術がほどこされているせいか分からないが、魔力を循環させた時に邪魔をされ、正確な位置がつかめなかった。


俺の言葉にラルフは思案すると、口を開く。


「首だと、全部……開けちゃうと、エヴァンに引き渡せなくなっちゃうから……ちょっと考えないとねー!」


「そ、そうだな。」


俺はラルフの言葉に同意を示した。

ラルフは両手をうえげて伸びをすると、俺に声を掛ける。


「もう疲れちゃったから休もっ!!」


「……だな。」


俺も徐々にだが、疲れが出始めていた。

食堂での乱闘で体力を消耗しょうもうし、地下では……色々あって精神的にも疲れた。


俺は“もどき”のいる部屋に結界を張り、ラルフと共に上にある俺達の部屋に戻る。




部屋に戻ると、既にネロが帰って来ていた。


「あれ?ネロ!おかえりー!」


ラルフはネロに笑顔で言葉を掛けると、ネロはため息をついた。


「ラルフ……この場合は、お前らの方が帰ってきてると思うんだけど……。」


「んー?でも、ネロは外にいて、僕達はずっと中にいたよー?」


「……はぁ、もう何でもいいか。」


ネロは珍しく疲れた様子を見せていた。

そんなネロを見てもラルフはいつもの調子で言葉を交わす。


「じゃあ!ネロおかえり!そして、ただいまー!!」


「…………。」


「…………。」


ラルフの言葉にネロは嫌そうな顔をする。

その間もラルフはネロからの言葉をずっと待ち、ネロが根負けした。


「…………はぁ…………ただいま。……ラルフ、ルディ、おかえり。」


「うん!」

「ただいま……?」


ラルフは満足そうに笑顔で頷いた。


いや、挨拶は大切だけどさ。

大切なんだけど……。

なんか違うよう、な……?


俺が困惑していると、ネロから指摘を受ける。


「お前ら何でまた汚くなってんだよ。」


俺はラルフを見、ラルフは俺を見る。

乱闘直後程では無いが、服に赤が飛んでいた。


いや、うん、まあ……。

色々ありすぎて、そこまで気が回らなかったわ。


ネロの言葉に俺は同意を示し、ラルフと俺の身体と服を綺麗にしてから、ネロも含めて治癒の魔法をかけた。


これで、少しは疲労が取れるだろう。


精神的な疲労は取れないけど。


少し顔色の良くなったネロに、俺はベッドに腰を掛けながら聞く。


「それで、そっちは何か分かったか?」


俺の問い掛けに、ネロは首を横に振ると口を開く。


「いや。今日は時間も無かったから大雑把おおざっぱにしか見て無いんだが……今の所は俺達の知ってる情報と変わらないな。」


「えー!!」


ラルフが声を上げてベッドに身体を投げ出した。

そんな様子のラルフを見て、ネロは苦笑しながらも話を続ける。


「また、近い内に細かい所も確認してみる。何か見落としてるのかもしれないしな。」


「ありがとう、ネロ。助かるよ。」


「…………何か気が狂う事でもあったのか?」


俺がお礼を言うと心配されてしまった。


っんでだよ!?

ちゃんと!

今までだってネロにお礼位言ってただろ!?

何でいつも俺が言うと素直に受け取らないんだよ!!


俺の感謝の気持ちをネロはたまにしか受け取らない。


確かに地下で色々あったけどさ!!

気が狂う程では無かったよ!

…………。

あー、もう!!


何と表していいか分からない気持ちになり、俺は身体をベッドに投げ出す。


…………。

……横になるって気持ちいい。


俺が睡魔すいまに負けそうになり、微睡まどろんでいると、ネロの声で現実に引き戻される。


「で、そっちは何か分かったのか?」


「あー……爆発の大まかな原因……かな?」


「そう!これー!!」


ラルフは上半身を起こすと、ネロに“もどき”の歯を見せる。


なんで持って来てんの!?


ネロはラルフから受け取り、ソレを観察していた。


「これが爆発の原因……?大まかなっつー事は他にも何かあるのか?」


ネロの問いに、俺も上半身を起こしてから答える。


「そうだな……体内に別の……何か指令を出す様なモノが入ってるみたいだから、それをラルフに取り出してもらわないと いけないって事と、細かい所の魔法陣の解読が出来てないから、俺はそっちをやろうと思ってるんだ。」


「そうか……なぁ、コレにルディの魔力を感じるんだけど、なんでだ?」


俺は、うーん、と少し悩んでから言葉にする。


「……ソレを洗った時かな?それが、どうかしたか?」


「いや、ルディ以外の魔力も感じるからな。」


「“もどき”の魔力じゃねーの?」


「“もどき”の魔力の質を覚えていないから何とも言えないが、ルディを除くと、微量だが……二人分ある様に感じるな。」


「じゃあ!もう一つは術を掛けた人って事かな!?」


ラルフの言葉にネロは頷いた。


「多分……な。ルディ、この魔力を追える魔術とかってあるのか?」


「え、どうだろう……?魔術は組み合わせ方によって色々と出来るから、なぁ……?」


ただ、今回の“もどき”に使われた魔術みたいな魔力の暴走を引き起こす様な事をしない為に、どんな効果があってどう抑制しなければならないかを考える必要がある。


「出来なくは無いんだな。じゃ、ルディはそれも やっといてくれ。」


「は!?」


俺が悩んでる間に、ネロはさも簡単な事の様に言ってのける。

ネロの言葉に俺が驚くと、いつものネロらしい笑みが返ってきた。


「ルディなら出来るだろ?」


「──~っ!……はぁ、やるだけやってみるよ。」


信用してくれるのは嬉しいんだけど。

それが、すげぇプレッシャー……。


俺の言葉に満足したネロは、もう遅いから休もう、と俺達に言う。


俺もラルフもその言葉に頷いて、長い一日がようやく終わった。
























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