──第72話──
ネロとクリスを見送った俺とラルフはローブの人……いや、今はローブを着てないから“もどき”としよう。
目の前の椅子に固定された“もどき”を見ながら、俺はラルフに問う。
「……えっ、と。ラルフ、この“もどき”はどーするんだ?」
「んー?そうだねー……あ、ルディに渡したの、どこ置いたー?」
「あぁ、ごめん。ここに入れてた。」
ラルフは床に並べた道具を見ながら俺に聞く。
俺はポケットに入れてしまっていた……そのよく分からない道具をラルフに渡した。
「これこれ!ありがとー!」
「どーいたしまして……?」
笑顔で受け取ったラルフは、
そこでラルフは一つ悩むと俺に声を掛ける。
「ルディー!ちょっと手伝ってー!」
「……う、うん。何を……?」
「この人の口を開いて固定して欲しいなっ!」
「……分かった。」
俺は“もどき”に近付くと、“もどき”は「フーッ!フーッ!」と鼻息荒くしていた。
うへぇ……。
あの時は
冷静に考えると、なぁ?
……いや、やるけどさ!
俺は
ラルフは開いた事を確認すると、口に
「ルディ!もう、いいよー!」
ラルフの合図で俺は手を離すと、あのよく分からない道具で“もどき”は口も歯も閉じられずに、口の中がよく見える状態になっていた。
ラルフは左右についている万力を操作すると“もどき”の口がさらに大きく開かれる。
え、ちょ。
これモザイクいるんじゃない?
つーか、俺、そんな道具をポケットに入れてたのか!?
まじかよ!?
使い方言っといてくれよ!!
そしたらポケットに入れなかったのに!!
ラルフは口の大きく開かれた“もどき”を覗き込む。
歯医者みたいだな。
いや、そんな平和なもんじゃないけど。
「ねぇ、ルディ。この人の奥歯に小さい……魔法陣みたいなのがあるんだけど、抜いて良いかなー?」
抜く!?
そのまま抜くの!?
うん。
考えたら痛そうだから考えない様にしよう……。
「あー……ちょっと待て。何か連動する系の魔法陣なら片方抜いたら発動する可能性があるぞ。」
前にサンルークから魔術を習った時に聞いた事がある。
確か、二つの魔法陣を合わせる事で魔法が発動出来る様になる魔術で……罠なんかに使うとか。
その魔法陣は
「えー!?そーなのー?んーと、じゃあ、この魔法陣を写すから紙とペン持ってきてー!」
「どこにあるんだ?」
「床に置いたー!」
俺はラルフの言葉で床を見るが……。
よく分からない道具から知っている道具……色々な物が置かれていた。
ペンチとか
……うん。
使い方は考えないようにしよう。
さっきから、現実逃避率が高いな……。
俺は目当てのモノを見つけると、ラルフに渡した。
ラルフはそれを受け取ると“もどき”の口を覗きながら、紙に二つの魔法陣を描く。
「小さくって見えにくかったんだけど……多分コレで合ってると思うよ!!……ルディ、何の魔術か分かる?」
「ちょっと待ってくれ。」
ラルフからその紙を受け取り、二つの魔法陣を眺める。
やはり、と言ってはなんだが、連動系の魔法陣だった。
片方の魔法陣だけだと何の意味もなさないが、二つが合わさる事によって魔法陣が完成され発動する様になっている。
罠等によく使う回路だが、内容が……罠とは違う内容になっていた。
簡易版だけど、よく奥歯なんて小さい場所にこれだけ複雑な魔法陣を描けるな……。
「ラルフ、この魔方陣は……魔力増量、魔法速度上昇、魔力制限解除……が主な内容だな。すげぇ、危険な組み合わせだ……。」
「どーゆーこと?」
ラルフは聞き覚えの無い言葉だった様子で首を傾げて聞いてきた。
俺はどう言えば伝わるか少し悩んでから口にする。
「……そうだな。……魔術によって、魔力量を増やして、魔法を使う時のスピードを上げて、一度に放てる魔力量を増やすって感じかな?」
「?? 魔力量を増やすのと、一度に放てる魔力量を増やすのって重複してない?」
俺の説明が悪かったかな。
伝えるのって難しいな。
ラルフの問いに俺は習った事を口にする。
「いや、違うぞ?一つは体内にある魔力の全体量を上げるのに対して、もう一つは放出
「そーなのー?」
「そうなんだよ。実力以上の魔力を放つと自分も怪我をしたりするからな。俺達の身体はそれを理解していて、実力以上の魔力を放たないようになってる……らしいんだ。ただ、魔力増量と魔力制限解除の両方をつけるのは……危ない。」
「……どう、危ないの?」
「魔力の制限も無くなるから、無限に魔力が上がる事になる。」
「え!?そうなると危なくない!?」
「だから、危ないんだってばっ。さらには、魔力を
「それって……魔力の暴走を意図的にしてるって事??」
「そーなるな……。」
幼少期、ノアから初めて魔法を教わる時に体験した、あれだ。
あれはキツいんだよな……。
二度とやられたくない
「危ないじゃん!?」
「危ないんだって!!」
だから!
俺 最初に言ったじゃん!!
俺の言葉聞いてた!?
ラルフが驚いた様な声を出し、俺も同じように声を出してしまった。
本来、こう言った魔術には制限を付ける回路を組み込む。
魔力増量の場合、自分の持っている魔力の何%以上は上がらない様にするとか……。
他にも制限を付けないといけないのに、それすらも無いんだから危険過ぎる。
数秒の沈黙の後にラルフが感心した様子で声を上げる。
「……ルディ凄いねー!そんな事まで分かっちゃうなんて!!」
ラルフは笑顔で俺を称えてくれた。
俺は少し照れ臭くなり、それを隠す様に言葉にする。
「俺はただ教えて貰った事をそのまま言ってるだけだ。凄いのは俺じゃないさ。」
そう言った俺に、ラルフはニコニコと笑っていた。
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