──第13話──

『なんだ、ネロか。』


俺はその少年を見てため息をつく。


神狼族は見た目に騙されてはいけない。


この世界での成人は十五歳で、神狼族の【人化】は十五歳を過ぎた辺りから年を取りにくくなるそうだ。

なので、見た目が十五歳でも俺よりも遥かに長生きしている。


ネロは俺とラルフを除けば、この里の中で最年少になる。


最近、広間で訓練や遊ぶ様になってからと言うもの、何かにつけて突っ掛かってくる。


『『なんだ』とはなんだっ!人間がこの里にいる事自体おかしいだろ。しかも、こんな弱い奴がよ。』


ちらりとジョセフを見ると寝ている様に見えるが耳がぴこぴこと動いている。


あれは起きてるな。


『ネロは、ひまなのか?』


『ひまなの!?いっしょにあそぶー??』


何でこんな奴を誘うのかね、ラルフよ。


俺の上からラルフは退くとネロに向かって尻尾を振っている。


『はっ。誰がお前ら何かと遊ぶかよ。』


俺が立ち上がると、ネロは俺の前に飛び降り、金と紅の瞳が交差する。


『お前等が弱すぎて相手にもなんねぇよ。』


見下ろしてくる金の瞳に苛立ちを覚える。


何で突っ掛かってくんだよ。

嫌いなら視界に入れなきゃ良いだろ。


『なら、あそぼー!!』


ラルフ、空気を読もうぜ。

何に対しての『なら』なんだよ。


そうだな……うん。


俺は近くにいるネロの肩に……届かなかったので腕をがっしりと掴む。


『な、なんだ?やるのか?』


少し焦ったネロだが、すぐに立て直し睨み付けてくる。


『あ!こんどは、ネロがおいかけるばんだー!!』


ラルフが叫ぶとその場からピューと走り出す。


『そういうこと。』


にこりと笑い、ネロに言ってからラルフと同じ方向へ駆け出す。


『…………お前等、ふざけやがってっ!』


一瞬呆気に取られたかと思うと、額に青筋を立てて怒り出す。


おー、怖。


遠吠えをあげながら狼の姿になると一気に俺の方へ向かってくる。


防御をすると負けてしまうので、ひたすらに攻撃を避ける。


最初の突進は上へ。

ネロの後ろに着地すると、すぐにネロは方向転換し俺に向き直る。

もう一度俺に向かって突進する……途中で【人化】を使い、ネロの右手の拳を右に避け、左足の蹴りをしゃがんで回避する。


なるほど、【人化】はそういう使い方も出来るのか。


『くそっ!ちょこまかとっ!!』


暴言を吐きながら攻撃してくるネロの一撃一撃を紙一重に避ける。


防御しないって結構キツいな……っ!


大きく振りかぶった蹴りを後ろへ飛んで回避し、そのままラルフの元へ走る。


『お前っ!逃げるのかっ!』


『そういうルールだからね。』


別に律儀に攻撃を回避する事も無いので、ラルフの背中に跨がる。


『よし、ラルフ!にげるぞっ!』


『わかったー!たのしーねー!』


一定の距離を取ったラルフは、ネロの方を向き、その動きを観察している。


『お前等がその気ならっ!!』


その瞬間、ネロがその場から消えたかと思うと、すぐ目の前まで来ていた。

俺には見えていなかったが、ラルフは見えていたようで走り出していた。


広間の端の方にある木を使い、方向転換する。

ネロもその動きに迷い無く着いてきていた。


俺はしがみつくのに必死だけどな。


少し余裕が出来た所で後ろを振り返る。


『ラルフ!うしろにネロがいない!』


『うそー!』


一度止まり、周りを見渡すがネロの姿は無かった。


『どこいっちゃったんだろうねー?』


不思議そうにラルフは首を傾げる。


嫌になって帰ったかな。


『だから、お前等は弱ぇんだよ!』


ネロの声が聞こえ、その方向を見ると目を開けられない程の光が襲ってきた。


『まぶしーーっ!』


『────っ!』


気が付いた時には俺はラルフから引きずり下ろされ背中に衝撃を感じた。


襟元を捕まれ、息がしにくくなる。


『はい、そこまでだな。』


俺が地面に仰向けになり、ネロがその上に乗ってさらに攻撃を仕掛けようとした所でジョセフから制止の合図がかかった。


『はぁ!?なんでだよっ!』


ネロはジョセフに向かい声を荒げるが、ジョセフは大声で笑った後、真剣な眼差しでネロを見つめた。


『それ以上は遊びじゃなくなるからな。遊びの範疇なら、俺は止めはしない。だが、ネロ。それはやりすぎだ。』


『────ちっ!!』


ネロは舌打ちをすると、掴んでいた襟元を乱暴に投げ捨て、そのままどこかへ行ってしまった。


『ルディも、挑発するなら実力差位分かるようにならないとなっ!』


挑発してたのバレてたか。


がはは、と笑うジョセフに曖昧に返事をするしか出来なかった。


『ねえ、おとうさん。さっきの、なーにー?』


ラルフが先程あった強い光が気になり、ジョセフに問い掛ける。


俺も気になっていた。


『あれは、光の魔法だな。』


『へぇ。』


なるほど。

ずっと肉弾戦しかしてなかったから、魔法を使う戦術は対策に入れてなかったな。


『おれたちもつかえる?』


『ああ、ルディ達も使えるぞ。魔法は本来個人に合った適正の魔法があるんだが、大精霊様に加護を貰ったりすると、その大精霊様の属性の魔法が使える様になるんだ。だから、この里の奴等は全員サンルーク様から加護を貰っているから、光の魔法は使える様になるぞ。』


『つかいたーいっ!』


『すぐに、つかえるようになる?』


『がはは!魔法を教えるタイミングは家庭に任せられているからな!ラルフは俺が少しずつ教えてやれん事も無いが、ルディは……まずはカインか、ライアに相談してみな。』


『わーいっ!まほう!まほう!』


『うん、わかった。そうだんしてみる。ありがとう。』


ジョセフにお礼を言い、俺は家へと走り出す。


ジョセフが止めてくれなきゃ、ネロに負けていた。

いや、すでに負けているが、怪我をしていただろう。


悔しさにさいなまれながら俺は魔法を習得する事を誓った。


次は絶対に負けない─────っ!










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