──第8話──

あれから時は流れ、俺は三歳になった。


初めて自分の身体を動かせる様になった時は感動ものだった。

走り回るっているとすぐに、ライアかカインに捕まったけど。


俺の食事も変わった。

母乳期間が終わった時にはライアが大変だった。

なだめるカインも大変だっただろう。


気分を落ち着かせた後、俺の食事を作る、と張り切るライアだったが、ライアが作る離乳食はそれはもう酷いものだった。


何が酷いって。

あれは食べ物じゃない。


黒っぽいけど色々と混ざりあって、よく分からない色をした液体は食べ物じゃないと信じたい。

一番当てはまりそうな言葉はヘドロ。


一口食べたカインは暫くの間、魂がどっか行っていたと思う。


その姿を見て、食べられる勇気があるなら是非とも分けて欲しい。


そして、言葉を少しずつ話せる様になった俺はカインから色々と教わったりもした。


ステータスの見方だったり、神狼族の役目だったり。


俺自身、まだ理解出来ていない事は多いけど、その内に分かるとカインが言うので、その内分かるんだろう。


試しにカインのステータスを【鑑定】したり、自分のステータスを見たりしていたが、レベルの差に驚いた。


カインはレベルが700越え、ライアは800越え……


強すぎるだろ。


神狼族は長生きだから、強いと言われたが。


そんな強い二人の溺愛っぷりは凄かった。


自分で言うのも恥ずかしいが、凄く可愛がってくれた。


一言で言うと、超親バカ。


カインは外へ出掛ける度にお土産を大量に買って帰ってくる。

洋服やおもちゃ、お菓子など。

ライアは、それはもう俺をでるはでる。

しまいには俺専用の部屋を増築し、カインのお土産を詰め込む部屋が出来上がった。


二人とも無駄遣いはやめようぜ。

止めても聞いてはくれなさそうだが。


そんな濃厚な約二年間を過ごしてきた。




今日はいつも遊んでいるラルフの家に行く。


もちろんライアも一緒だ。


俺は一人で家を出れないからな。

物理的に。


三歳の子供が木の上から飛び降りたら死ぬと思うんだ。

人間は。


神狼族は子供は飛び降りた位じゃ死なないんだけどね。

着地がちゃんと出来るから。


いつもラルフの家に行く時はライアに抱っこされているが、早く自分で出入り出来る様になりたいものだ。


ラルフに出来て、俺が出来ないのは何か嫌だ。


ラルフの家に着き、ノックをするとイリーナが笑顔で出迎えてくれた。

促されるまま、中へ入るとラルフは元気良く出迎えてくれる。


『ルディ!きょう、なにする!?』


『……おひるね?』


『やーだー!うごくのがいい!』


俺の午後からのんびりお昼寝タイムの提案はあっさり却下された。


分かってたけどな。


何をして遊ぶか協議している横ではライアとイリーナがこちらを暖かく見守りながら会話を楽しんでいる。




─────数分後。


俺は走る。


全速力で家の中を走り回る。


なんでこうなったんだろう?


気が付いたらテンションの上がったラルフが狼の姿になり俺を追いかけ回している。


ラルフの目は獲物を逃さんとばかりに、子供とは思えない程の鋭い目つきで俺を追ってくる。


そんな顔されたら逃げるよ。

ラルフ、本当に目が怖いよ!


『まてー!まてまてー!』


『ラルフ!いっかい、おちついて!』


『ルディがにげる、ぼくがおいかける!たのしーい!』


『おれはたのしくない!』


『ぼくはたのしーい!ルディもたのしーい!』


『ひとの、はなしを、きけ!』


息切れを起こしつつも必死に逃げる。


その勢いのまま噛まれたらたまったもんじゃない。


机の上に乗っては降り、椅子くぐったと見せ掛けては反対へ出たり。

ラルフに至っては壁を蹴って方向転換までしてくる。


鬼ごっこのレベルじゃない。


足がもつれ、その場で転んでしまう。

ラルフはその瞬間を見逃さず、スピードを上げ一気に詰め寄る。


────その瞬間頭に衝撃を受けた。


ガシャンッ!


『!?なんじゃ!?ルディ!』


来たときには机の中央にあった花瓶が、俺達が暴れまわる事により徐々にずれ、終いには俺の頭の上に落ちて来たのだ。


自業自得だな、これは。


『ルディ!大丈夫かの!ルディ!!』


焦った様子でライアがかかえる。


自分のステータスを確認してもHPはまだ一割あった。


大丈夫。


ライアを安心させようと起き上がろうとしても身体に力が入らなかった。


『ルディがしんじゃったー!』


ラルフは涙を流しながら俺の横に座り込んでいる。


いや、勝手に殺すな。

俺は死んじゃいないぞ。


『ライア!薬を持って来たわよ。』


『ありがとう、イリーナ。』


頭から血を流していたのか、頭に当てられた布はみるみる内に赤く染まっていく。


『ルディ!しんじゃやだー!!』


号泣しだしたラルフをイリーナはなだめる。


だから、勝手に殺すなって。

俺が死んだらラルフが殺した事になるだろ。

それは……やだなぁ。


懸命に手当てをしてくれるライアに、ほっと安堵する。


ライアが手当てをしてくれているんだから大丈夫だろう。


その安心感は育ててくれている親だから、だろうか。

ライアに任せて置けば大丈夫だと思ってしまう自分に笑いが出そうになる。


俺はライアを信頼してるんだろうな。


眠くなる意識の中、ライアそしてカインに対して俺は自分の親だと感じている事にむず痒さを感じる。


そして、俺は意識を手放した──────。








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