──第6話──
長い一本道を抜けた先には、カインとライアが俺達が離れた時と同じ体勢で待っていた。
ずっと同じ体勢って疲れないのかな。
『そ、それで長老。どうだったのかの……?』
不安そうに瞳を揺らしながらライアは問いかけた。
長老は穏やかな笑みを浮かべる。
『大丈夫だったぞ。無事に加護を貰い、【鑑定】も授かった。』
『長老……ありがとう、ございます。』
カインが頭を下げ、ライアは喜びのあまり泣いていた。
『カインよ。くれぐれも……くれぐれも頼んだぞ。』
『はい。』
何で二回も言うんだ。
カインも分かってます、て感じで苦笑を浮かべてるし。
俺、不安しかないんだけど。
『して、この子の名前は決まったのか?』
『はい、『ルディ』と。』
『そうか、良い名前だな。……カイン、そしてライア。里の者達にこの子を紹介せねばならん。
『分かりました。』
ライアが名前を答え、カインが返事をすると二匹の狼は物凄いスピードで部屋から出て行った。
一瞬で目の前から消えたんだけど……
俺、あのスピードで運ばれてたんだな。
そら、怖いはずだ。
それと、人間の姿が怖いって誤解は……うん、諦めよう。
『ルディ、お前はもう里の一員だ。何か困った事があったらすぐに言うんだぞ。…………特にライアの、事とかな。』
オーケー。
ここは駆け込み寺として利用しよう。
俺の身体が自由に動ける様になったら!
遠い眼差しをしている長老に、俺は心の中で返事をした。
「うーっ!」
と、思ったら声が出た。
長老は優しく笑い、カインとライアの帰りを待つ。
☆
そんなに待つこともなく、二匹は帰って来た。
一言、二言程の言葉を交わし、俺は長老に連れられ外へと向かう。
目にした光景は
百匹近くの白銀の狼がこちらを見ていた。
広間の様な場所にいる者や、木の上の小屋から顔を出している者、岩の上に座っている者など、数多くの狼がそこにいた。
空は茜色に染まり、白銀の毛並みが照らされ光輝いている。
長老がその場で腰を降ろし、咥えていた俺も降ろされた。
前を見据えている姿は『長』と言う名に相応しい姿をしている。
『皆の者、よく集まってくれた。急な出来事
長老は一度言葉を切り辺りを見回す。
長老の左右に分かれ座っているカインとライアは胸をはり前を向いていた。
狼達から少しざわつきがあったものの、すぐに静かになった。
『この人間の子供、名はルディ。神獣王様とサンルーク様にも認められ我がエルモアの里、神狼族の家族として迎え入れる事となった。ルディはこれからギルバート夫妻が面倒を見ていくが、皆で協力し育てて貰いたい。』
『人間をこの里に招くのかっ!』
『人間と我らが分かりあえる訳がない!』
『神狼族としての
数匹の狼が牙を剥き出しにし、声を荒げる。
長老はその狼達に向かい牙を出す。
『静まれっ!!この結果に意を唱えると言うことは、神獣王様並びにサンルーク様に意を唱える事と思えっ!』
長老……怖いです。
威圧感がはんぱないっす。
少しでも声を出したら殺されるんじゃないかなって思う程怖いっす。
長老は怒らせない様にしよう……
長老の発言で反感していた狼達は黙り、辺りは静かになった。
誰も何も発言をせず、次の言葉を待つ。
『異論は無いな。……では、新たなる家族に祝福を!』
『『『『『新たなる家族に祝福を!』』』』』
長老の言葉に続き、百匹近くの狼が声を揃える。
里の中に狼の遠吠えが響き渡る。
音が
『宴の準備を頼む。急な話だが、
狼がそれぞれ返事をし、準備にとりかかった。
『カイン、ライア。ルディを頼んだぞ。』
『お任せ下さい。』
俺を咥えた長老は、カインへと渡した。
そこでライアに渡さないのは察しよう。
☆
数時間後。
森は真っ暗になっていたが、里の中は明るかった。
拳程の大きさの光の珠が
宴が始まり、和気あいあいと飲んで食べて騒いでいる。
俺も飲みたい。
『あ~、ライア~っ!こっちこっち。』
少し丸いフォルムの狼が手招きしている。
ライアは俺を咥え、手招きしている狼の元へ歩いていった。
ちなみにカインは狼の男衆に連れ去られ、飲まされている。
羨ましい。
『イリーナ、場所を取ってくれたのか?』
『そうよ?ふふふ』
人数(狼数?)が多く、騒ぎ暴れている所もある。
イリーナと呼ばれた狼の周りは、その
ライアはイリーナの近くに腰を降ろすとイリーナな俺を覗きこんできた。
『この子がルディくん?よろしくね、ルディくん。こっちの子はラルフって言うの。生まれてまだ一ヶ月だから仲良くしてね。』
優しい音色でイリーナは語りかけてくる。
そのすぐ側には俺より一回りだけ大きな男の子が耳と尻尾をつけていた。
あれ?
ライア達の時は耳と尻尾が無かったはずだけど。
『ライア、ごめんなさいね。まだこの子は【人化】を上手く使えないの。大丈夫かしら?』
『ふむ。そういえばルディも泣いておらぬの。獣人の様な姿ならば大丈夫かもしれぬの。』
うん、だって人間の姿は怖くないからねっ!
タイミングがいつも悪いだけだからさ。
『ふふふ、良かったわ。ルディくんは、もうご飯を食べたのかしら?』
『そういえばまだじゃった!すぐに母乳を与えなくてはの!』
俺の空腹をすっかり忘れていたライアは慌て、次には耳と尻尾のついた人間の姿になっていた。
俺もお腹空いてたの忘れてたわ。
なんか、もう、色々とありすぎて。
『おお、ルディが泣かぬ。ほれ、沢山飲むのだぞ?』
ライアは服をはだけさせ、俺を抱えると
ちょ、ちょっと待って!
中身は成人済み男性だから!
年齢=彼女無しの人間には刺激が強い!!
……言ってて悲しい。
目をぎゅっと瞑り、顔を背ける。
それでもなお、近付いてくる空気を感じたので、両手を精一杯持ち上げ押し返そうとした。
柔らかい……。
ち、違う!
誰に否定してんのか分かんないけど!
『イリーナ……ルディが飲まないのだが……獣人の姿でも駄目なのかの……』
そんな悲しそうな声を出さないでっ。
ライアは全然悪くない!
これは、俺との戦いだから!
何の戦いだよ、もう頭が混乱する。
『そうねぇ~。私は、神狼の姿で飲ませているわよ?ライアもやってみてはどうかしら?』
『う、うむ。』
狼の姿に戻ったライアは、横に寝そべり俺を胸の所に寄せた。
これならまだ耐えられる……。
恥ずかしいのは恥ずかしいんだけど。
何度か
『イリーナ!飲んでくれたぞ!』
嬉しそうに声を弾ませるライアに、イリーナは優しい笑い声で答え、暖かくライアを見守っている。
『ルディ……これから、よろしくの。可愛い我が子よ。』
前足を俺の頭に乗せ、ゆっくりと撫でる。
は、はやく母乳期間終わらねぇかな……。
今でも恥ずか死ねる…………。
お腹一杯になった俺が眠っても、宴は続いていた。
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