異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

序章

──第1話──

目が覚めると知らない天井……

ではなく、青い空、白い雲、生き生きとした緑。

風に吹かれ、木の葉が擦れる音が心地よく感じる。

冷たい風が頬を撫で、つい目を瞑る。

そして、和やかに時が過ぎ、動物の鳴き声が……


「ギャァァァオ!」

「ガウッ!ガウッ!ガルルルルルルルル」


うん、動物……だよな。

例え野太い声が聞こえようが、耳が痛くなる様な声が聞こえたとしても、動物……だと思う事にしよう。そうしよう。


さて、何故、俺がこんな所にいるのかは大体想像が出来る。


簡単に言うと、


転生前に神様(と名乗る変人)とケンカしたら堕とされた。


以上。


五人の転生者として選ばれた

とか

俺が一番この世界に合う魂だった

とか

神様の願いを叶える為に転生を行う

などなど。


神様が叶えられない願いってなんぞや。

悪い予感しかしねぇ。

面倒事に巻き込まれて、勇者が勇者として勇者する感じしかない。


前世は前世で色々とあったり……思い出すのツラい。

やめよう。涙が出ちゃう。


で、俺は神様(と名乗る変人)に向かって、転生したくない意思を示した訳なんだが。

あれよあれよと神様(と名乗るry)と口論になり、勝手に堕とされた。

最後に、神様(ry)から、


『お前がすぐ死ねる所に送ってやるからなーっ!』


と、有難いお言葉を頂いた。

神が死ねって言葉を言うのはどうかと思うんだ、俺は。


ドシンッドシンッ


凄く重い足音が近くによってくる。

これはあれかな?転生したら即終了?マジかよ。


恐る恐る目を開け、顔を横に向ける。

そこで見えた動物(?)は、牛の様な顔に象みたいな身体。

口から唾液をダラダラと垂れ流し、荒い息をしている。


うぇ!?

なにこれ!?だれおまっ!?


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


驚くと同時に赤ん坊の鳴き声が耳に響く。


つか、この声俺じゃん!

え、なに!?俺、今、何歳設定!?


涙でボヤけた目で自分の手を見る。

指は成人男性とは思えない、ふわふわした指。

歩こうと力を入れるが立つことも出来ない。

首は座っているか座っていないか微妙な所。


ああ、これは……うん、間違いなく赤ん坊だな。

おそらく、一歳にもなってないんじゃないか?


考えている間にも動物(?)がすぐそこまで迫っている。


これは、マジでやばいかも。


動物(?)の鼻息がすぐそこまで迫り、ボタボタと落ちる唾液を振り撒きながら大きく口を開ける。


わぁ、歯並びがキレイ。


動かず、力のない身体。

自分の身体の数十倍の大きさの動物(?)に対してすでに現実逃避していた。


痛いのは嫌だなぁ。

さぁ!一思いにがぶっと丸飲みしてくれ!

いや、丸飲みだと意識はあるのか?

とりあえず、苦しまない様にしてくれ!


覚悟を決め、泣いていた声を止め目を瞑る。


「ワォーーーーーーーーーン!」


どこからともなく犬の様な声が聞こえた。


声を確認しようと目を開けた瞬間、目の前に迫っていた動物(?)が吹っ飛び、代わりに銀色に染まる美しい毛並みの犬……狼?がすぐそこにいた。


どうやら、この狼が先程の動物(?)に体当たりしたみたいだ。


一瞬狼と目が合ったかと思うとすぐさま狼は駆け出し動物(?)の喉元を食らい仕留めていた。


血のついた顔を毛繕いで落とし、俺へと近付いてくる。


まぁ、血は完全に落ちきっていないので野性味が半端なくあるんだけど。

野性味ってなんだ。


てか、これどちらにしろ俺の危機は変わってないよな。

ちょびっと延命出来た……て事で良しとしよう。


俺の真横に白銀の狼が腰をおろす。

犬で言うお座りの状態だ。

青い二つの瞳が俺を映す。


何故か、恐怖の感情が湧いてこない。


俺は近付いてきた狼の鼻をふわふわした手でぺたぺたと触る。

ちょっと湿った感触が手から伝わってくる。


狼は驚いた(様に見えた)様子で一瞬固まり、ゆっくりと鼻をほっぺたに近付け頬を舐められた。


生暖かいものが頬を何度も触れる。


くすぐったい。


「キャハハハハハハハッ」


俺の意識とは関係なく赤ん坊の笑い声が響く。

どうやら感情がそのまま声として出るようだ。


赤ん坊ならそんなものか。

というか、自分がそんな状態なのがどうにも恥ずかしい気持ちになるのはどうしたら良いんだろうか。


狼はゆっくりと顔を離す。


「ワォーーーーーーーーーン!!」


先程よりも大きく長い遠吠え。

声が聞こえなくなると暖かい光が俺を包み込む。


狼の身体も光だし、人の形になっていく。

人の形になると光は収まり、長い銀色の髪の綺麗な女性が姿を現した。


その両手を俺に向けゆっくりと抱き上げる。


ゆっくりと、俺の光も収まっていく。


《【神獣王の加護】を取得しました。》


大音量の音が脳内に響き渡る。


急に大きい音はビックリするからやめて欲しい。


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


ほら、ビックリしたから泣いちゃったじゃん。俺が。


『お、おい。なぜ泣くのだ?ひ、人か?人の姿がいけないのか?』


抱き上げた女性は焦った声でゆっくりと俺をおろした。

女性が光だすと、また狼の姿に戻る。


いや、そっちに驚いたんじゃないんだけどな。


『こ、これなら大丈夫か?ほれ、泣き止んでくれ。』


狼の顔が再び近付き、涙を拭う。

一定のリズムで舐められていると、徐々に落ち着いてきた。


『ふむ。人の姿が恐いのか。それは、すまぬ事をしたの。だが、馴れてもらわぬと……ゆっくり馴れてもらおうかの。』


何か色々と勘違いしている狼は、俺の下にあった布を器用に口で整え俺を運ぶ様だ。


『では、行くかの。』


そう言って狼は走り出す。


───一体どこへ?






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