僕や私の天使と悪魔
虹色
第1話 待ち時間と僕
失敗した。
名古屋駅周辺の混み具合を想定に入れていないかった。
よもや、ここまで混んでいようとは。
時刻は11時15分。
彼女が来るまであと15分。
列に並んでいる人間の数は二人、四人、六人ーー数えても減る訳ではない。
とりあえず、ぱっと理解できるのは15分では僕の順番に回って来ないということだ。
口コミサイトで上位ということもあり、その人気の程度は相当なものらしい。
それに加えて、
日曜日というふぁくたー。
土日のご飯屋さんは混むのである。
程度の差はあれ、混むという前提で事に臨むべきだったと自省した。
「すみません、後1時間くらいお待ちいただく可能性があるのですが、よろしいでしょうか」
爽やかイケメン風の店員が僕に言う。
1時間、それは60分。
15分引いても45分。
それは、不味いな。
それは、良くないな。
それは、予定外だ。
「だ、大丈夫、です」
「ありがとうございます」
絞り出した、嘘の言葉。
だけれど、今から店を変更する方がリスクが高い。
別の店に変更したら、新たなリスクが現れる。
計画にこだわり、状況に柔軟に対応しないのは戦場判断としては正しくないとは思う。
思うがーー僕は軍人ではないし、ここは戦場ではない。
それに、店を変えると言うことは、待ち合わせ場所の変更せざるおえない。
残り15分、それを実行するのは懸命とは言えない、
言えない、と思う。
これが逃げの判断かもしれない、
臆病者の考え方もしれない。
だけれど、動かないというのが最善手である可能性も否定できない。
動かない勇気、僕はそれを自身に言い聞かせ、時が過ぎるのを待った。
1分、
3分、
5分、
ーー列は進まない。
7分、
9分、
11分、
ーー後ろのカップルが帰った。
12分、
「お待たせ、凄い混んでるね。流石は名古屋駅!」
傘を右手に、
カバンを左肩に。
「うん、油断した」
苦笑する僕に彼女は笑いかける。
それは愛想笑いか、
それとも。
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