第426話15-15終焉

 15-15終焉



 『クロエっ!!』


 

 

 地面に落ちながらコクが叫ぶ。

 女神をも焼き尽くすその炎がクロエさんに迫る!


 『へっ? でいやがります??』


 最後にクロエさんが放った言葉は赤竜の炎に包まれてしまった!




 『させるかぁッ!!』


 しかしその炎がクロエさんの黒龍にぶつかる寸前にティアナの初号機が割って入る。

 ティアナは自身も【対炎魔法】を発動させ初号機の盾でその炎を遮る。



 『なんと!? 我が炎に耐えるか!?』



 『エルハイミの作ったこの初号機は伊達じゃないっ!』


 そう叫びティアナは連結型魔晶石核をフルドライブさせ背中の飛行器を全開にして赤竜に飛び込む。



 『はぁあっ! ガレント流剣技九の型、九頭閃光ぉ!!』



 王族にのみ伝わるというガレントの秘剣、その最終型九頭閃光。

 一瞬にして八方向切りと突きを繰り出す剣技の究極の技。

 剣としての最大最強の打撃を誇る。


 

 カッ!



 まるで九つの光が放たれたかのように赤竜にその一撃が迫る。



 『おのれぇっ! 【絶対防御】!! 』


 追い詰められた赤竜はとっさに魔法で防御を試みる。



 ええぇっ!?

 赤竜って魔法使えるの!?



 驚くあたしが見たのはそれでもティアナの放った一撃が赤竜の【絶対防壁】を破壊しその一撃を赤竜の体に叩き込んだ。



 バキィーンッ!!



 ドガガガガガガガガっ!

 ガンっ!



 見事赤竜の胴体に届いた一撃だったが【絶対防壁】でかなり威力が落ちてしまったようだ。

 しかし赤竜に届いたその一撃はあの硬い鱗を突き破り赤竜に傷を負わせた!



 『がはっ! 馬鹿な!! 我に傷を負わせるだと!? ありえん、ありえんっ!!』


 空中で血をまき散らしながら赤竜は慌てて【回復魔法】でその傷を塞ぐ。

 しかしそれでも完全に傷は回復できず胸に米印の様な傷を残す。



 『その首もらったぁっ! ガレント流剣技四の型、疾風っ!!』



 赤竜が回復をしている隙にティアナの初号機は空中で回転をしてその遠心力を剣に乗せ赤竜の首を狙う!



 『舐めるなぁっ! ゆけっ! 我が鎧ども!!』



 赤竜がそう叫ぶと赤竜の背中から十数個の鱗がはがれまるでミサイルかのように初号機に飛来する。

 初号機はその一撃を振る寸前に上下左右から飛来した赤竜の鱗に弾かれる。



 『くあぁっ!』


 『にゃぁあああぁあっ!!』



 ティアナとマリアの悲鳴を残し初号機は大きく向こうに弾かれてしまった。



 「ティアナっ!」



 「エルハイミ、どいてっ! いけぇっ! 大地の精霊よ!!」


 あたしが弾かれた初号機のティアナを心配しているとシェルが作り上げていた大量の岩の礫を一気に赤竜に向けて放った。


 それは先ほどの赤竜の鱗を弾き飛ばし赤竜の体に雨あられの様にぶつかる。



 「エルハイミ! 今よ!!」



 『エルハイミ! もう一度【爆裂核魔法】よ! 魔力を!!』


 赤竜の足止めをしている間にシコちゃんが【爆裂核魔法】を使う為にあたしに魔力を要求する。

 あたしはすぐにシコちゃんに魔力を注ぎ込みシコちゃんを構え究極の爆裂魔法をシコちゃんと共に放つ。



 「『いっけぇっ!【爆裂核魔法】っ!! みんなの全ての思いを吐き出せぇ!』」



 あたしとシコちゃんの声が重なり赤竜とあたしたちの間にあの赤い光が集まっていく。

 そしてその光が臨界に達した瞬間にすべてを破壊する本流となる。




 カッ!




 どがぁががががががががあぁがぁぁっ!!!!




 核爆発かの様にその光は赤竜を飲み込む!



 今度こそやったか!?


 光が収まるその向こうにもうもうとする煙があった。

 そしてあり得ない光景があたしたちの前に現れる。




 『肉体があるから‥‥‥ 肉体があるからやれるのだぁっ!!』


  

 【爆裂核魔法】の威力でかなり向こうに押されたけど赤竜は顔の前両手を交差させ体中に傷を負いながらもその姿を保っていた。



 『嘘っ! 【爆裂核魔法】の直撃よ!? 女神だってただじゃすまないはずなのに!?』


 シコちゃんが驚愕の声をあげる。



 あの一撃を耐えた!?



 誰だって信じられない。

 【爆裂核魔法】だってあたしが魔力を沢山注ぎ込んだから通常より破壊力が増しているはず。

 それなのに耐えたの!?



 『しかし赤竜よ、いくらお前も無事では済んでいまいっ!』


 そう叫びながらコクの幼竜が一気に赤竜に駆け上がる。

 それはどんどんスピードを増していきまるで一閃の矢のようになる。



 『例えこの身が幼竜でも我とて黒龍! これくらいはできる!!』



 そう言ってコクは全身を黒く光らせながら赤竜の羽根を狙って体当たりをする。

 その体当たりは本体ばかり気にしていた赤竜には意外だったらしく、コクは一気に赤竜の羽根を貫き破った!




 『なんだとっ!?』



 しかしこれが効いたようだ。

 赤竜は空中でバランスを崩しよろよろと羽ばたくがうまく飛べず徐々に地面へと降りてくる。



 『おのれ黒龍! ちょこざいな!! しかしたとえ飛べずとも貴様ら等蹴散らしてくれるわ!!』


 そう言ってドラゴンブレスを上空を飛ぶコクやクロさん、クロエさんに吐き出す。

 コクたちも距離を取り、そのブレスをかわし、ドラゴンブレスを吐くが赤竜には大したダメージを与えられない。



 「地上に降りたならば!」


 そう言ってショーゴさんは異形の兜の戦士に変身してオリハルコンのライトプロテクターを身に着けなぎなたソードを引き抜き赤竜に切り込む。

 そしてショーゴさんのその刃はあの硬い赤竜の鱗を貫く。



 『ぐぉっ!? 我に傷をつける人間がここにもいるのか!? ええぃっ! 貴様らぁ!!』



 徐々にではあるが赤竜にダメージが出始めている。

 あの太古の竜が今ここであたしたちによって傷ついていたのだ。



 「チャンスですわ!」



 あたしは身に着けていた魔導士のライトプロテクターの両肩アーマーから二枚の板を取り外し腰に付けていた発射台を引っ張り出し取り付ける。


 懐からあの超高圧圧縮金属ミスリルの弾丸を取り出し台に設置する。

 一点集中のこれの威力は【絶対防壁】すら貫く。

 あたしは赤竜の胸、心臓を狙ってそれを撃ち出す。



 「【超電導雷撃】!!」



  爆発するかの如く二本のレールにプラズマの火花を散らせながら光の矢となって赤竜に吸い込まれていく。



 カッ!   



 『なにぃっ!?』


 赤竜はあたしの放ったプラズマをまとうその弾丸に驚き身をかわすが避け切れない。




 どがぁぁあああああぁぁぁぁんんっ!!


 


 あたしのその弾丸が赤竜に着弾して大爆発を起こす。

 それは赤竜の血肉を吹き飛ばし避けてはいたものの左の肩を大きくえぐり向こう側が見えるほどの穴を穿っていた!



 『ぐはぁっ!! 何だこれは!? 魔力を感じぬだとっ!?』



 

 「うぉぉおおおおぉぉぉっ! 【爆炎拳】!!」


 赤竜にとりついたショーゴさんが赤竜の足に必殺技を叩き込む。

 それは零距離で 当たった瞬間に中国拳法の発勁のようにそこから力がはじけ爆発するかのように赤竜の鱗が溶解してはじける!     


 そしてその威力はそれだけに止まらず赤竜の足の鱗ににひびを入れていく!!



 ぼぉんんっ!!



 そしてその鱗ごと内部から弾けるように爆発する。



 『ぐわぁっ! き、貴様ぁっ!!』


 右の足をショーゴさんにやられ赤竜は体を支えられなくなりその巨体を倒す。




 どぉおおおぉぉぉんんっ!




 『よし、やったぁ!! エルハイミ、もう一度【爆裂核魔法】を撃つわ! 魔力をちょうだい!』


 シコちゃんが【爆裂核魔法】を放つためにあたしに魔力補給を要請する。



 よし、あと少し! 



 とあたしがシコちゃんに魔力を注入しようとしたその時だった。




 『させるかっ! ゆけっ! 我が鎧ども!!』



 赤竜がまたあの鱗を発射してあたしに向けて解き放つ。


 

 しまった!

 魔力注入中ですぐに【絶対防壁】が張れない!!


 

 あたしが死の匂いを濃く感じた瞬間だった。




 『やらせるかぁッ!!』



 どんっ!



 いきなり初号機が降って来てその全身を使い鱗のミサイルを受け止める。



 『くぅぅううううぅぅっ!』


 『ティアナがんばれっ!』


 ティアナが全ての鱗を押さえマリアが叫ぶ。

 そして連結型魔晶石核を二台フルドライブさせティアナの初号機はその鱗を押し返す。

 


 『今のうちよエルハイミ! 行くわよ【爆裂かくぅ‥‥‥ 』


 シコちゃんが呪文を発動させる瞬間だった。



 

 ごぼぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!




 目の前に赤竜が吐いたあのドラゴンブレスが迫っていた!!



 しまったっ!

 間に合わない!!



 「【絶対ぼぉへぇ‥‥‥ 」



 あたしも何とか【絶対防壁】を展開しようとしたけどもう炎は目の前に迫っていた。

 それはまるでスローモーションのようにゆっくりとあたしに迫る。



 ああ、これはだめだ。


 流石に間に合わない。

 頭の片隅であたしがそう言っている。


 唯一気がかりはティアナだけど初号機に乗っているなら何とか一回くらいはあのドラゴンブレスに耐えてくれるだろう。



 ごめん、ティアナ。

 あたしはここまで見たい。

 


 そうあたしが諦めた瞬間だった!




 「【対炎魔法】ぉっ!!」



 ボンッ!!


 ごぼぉあぁぁぉぉおおおおおおおぉぉぉぉっ!!



 あたしと初号機を直撃した赤竜の女神をも焼き尽くすドラゴンブレスは間一髪イパネマさんの張った【対炎魔法】によりその脅威を退けた。






 「コクっ! これを使えっ!! 頭だっ!!」



 ショーゴさんが叫びなぎなたソードを空中に投げる。


 コクの幼竜はそれを器用に口でくわえそのまま赤竜がドラゴンブレスを放った後のわずかに動けない瞬間に飛び込む。




 ずんっ!!



 『赤竜! これで最後ですっ!!』


 コクは赤竜の硬い鱗をも貫くなぎなたソードを赤竜の頭に半ば刺したかと思うと裸の幼女の姿に戻り剣の柄に反対側に飛び出ている小さな刃を気にもせずその拳を叩きつける。



 「喰らえ! ドラゴン彗星掌!!」



 その掌はまるで彗星のように光り強烈な一撃を剣の柄に叩き込む!


 当然コクのその手にも刃が突き刺さり鮮血を飛ばすがコクはそんなことお構いなしに魔力全開でその拳を押し付ける。




 『ぐぅぅぁぁあああぁぁぁぁッっ!!』



 赤竜が悲鳴を上げその瞳の輝きを失う。




 どぉおぉおおおぉぉぉんっ!



 持ち上がっていた長い首を地面にたたきつけとうとう赤竜は動かなくなった。





 「お、終わったの‥‥‥? エ、エルハイミ! 大丈夫っ!?」


 シェルがよろよろとこちらにやって来る。

 あたしはところどころライトプロテクターや服、髪の毛が焦げているけど何とか大丈夫だ。

 それよりあたしは慌てて目の前にいる初号機に叫ぶ。



 「ティアナっ!」



 『大丈夫よ‥‥‥ でも初号機が動かなくなっちゃった』


 『うはぁぁあああぁぁっ! あの炎死んだかと思ったぁっ!』


 どうやらあたしをメインに張った【対炎魔法】のおかげで助かったけど初号機はほど良く赤竜のドラゴンブレスを受けた様だ。


 中にいるティアナとマリアは無事らしいので一安心。


  

 「ふう、もう魔力何て残ってないわよ。立っているのでさえ辛いわ、エルハイミさん?」


 そう言ってイパネマさんがやって来た。

 あの瞬間全ての魔力を【対炎魔法】に注ぎ込んであたしを助けてくれた。


 あれが無ければ今頃あたしは消し炭になっていただろう。



 『イパネマにも【対炎魔法】を教えておいて本っ当ぅに良かったわねぇっ! 流石にあたしも長い杖生終わったかと思ったわ』


 シコちゃんがそう言って思い切り安堵の息を吐いている様だ。





 「主よ!!」



 しかしショーゴさんの声がしてあたしたちに緊張が走る。


 見れば掌を叩きつけて止まっているコクの下へと赤竜がどんどんと縮まっていきやがて頭になぎなたソードが刺された赤髪の女性の姿へと変貌した。


 クロさんやクロエさんも地上に降りて来て人の姿に戻る。



 動かなかったコクだけどいきなりその女性の上から飛び退く。



 『くそう、もうこの体はだめだ‥‥‥ 黒龍、よくもやってくれたな‥‥‥』


 そう言ってその赤髪の女性は立ち上がる。

 真っ赤な髪の野性味の有る目じりがつり上がった巨乳美女だが額から血を流しながらなぎなたソードの刃が飛び出ている。

 

 

 「まだやるというのですか、赤竜よ!?」


 『ふん、悔しいが貴様の勝ちだ。この体はもうじき朽ち果てる。再生の秘術を使う。だがまあいいか、これで魔法王の束縛から解き放たれるか‥‥‥』


 そう言って器用に頭に刺さったなぎなたブレードを引き抜く。



 『おいそこの人間、名を何という?』


 赤竜の女性はあたしを睨んで名前を聞いてくる。



 「わ、私はエルハイミ、エルハイミ=ルド・シーナ・ガレントですわっ!」


 『ふん、エルハイミ‥‥‥ まあいい、お前の魔術は魔法王以上だった。我は再生の秘術を使う。もう二度と我を束縛するなよ?』



  そう言って赤竜は一声鳴くと体の周りに多重の魔法陣が現れる。

 その光輝く魔方陣たちは赤竜にまばゆい光を与えあたしたちの視界を奪っていく。



 「赤竜!」



 コクがそう叫んだ時に視界一杯の光があたしたちを包む。

 そしてその光は次の瞬間には止んで目の前にいた彼女の姿を消した。





 いなくなったその後には大きな卵が一つ置かれていたのだった。

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