第390話14-15帰宅

 14-15帰宅



 新制連合軍が準備出来て「第一軍」と「第二軍」がガレント内の巡視を始めた翌日あたしたちは闘技場での「第三軍」の訓練様子を見ていた。




 「よぉしぃ、十五分の休憩だ!」



 ルノマンさんのその掛け声で闘技場で訓練していた者たちはそん場で座りこんでいた。


 「やはり第三軍は団体行動が苦手ですね。一人一人の技量はそこそこなのですが」


 その様子を見ていたティアナは資料をめくっている。

 ロクドナルさんはそんなティアナに新たに資料を手渡してきた。


 「ここしばらく鍛えた結果この者たちが適正かと思います」


 ティアナは受け取った新しい資料に目を通す。

 そしてルノマンさんを呼ぶ。


 「ルノマン、この者たちは大戦の経験が有るのですか?」

 

 ルノマンさんは渡された資料を見てしばし考えこむ。



 「そうだな、ここに書かれているほとんどの者は経験者だな。古いやつは『北陸戦争』の経験者だ」


 「第三軍」この部隊は冒険者や傭兵の寄せ集め部隊だ。

 なので基本的な軍事訓練を受けていない。

 しかしジュメルによる何らかの過去を持つものが多くジュメル打倒に力を貸してくれて連合軍に参加を申し出てきた者たちばかりだ。

 

 ルノマンさん自体も長い間傭兵生活をしていたらしい。

 


 「では彼らに小部隊の隊長を任せたいと思うのです。想定は魔獣たちとの戦いです」


 「魔獣?」



 ルノマンさんはそう言われ首をかしげる。

 連合軍の相手はジュメルであって魔獣ではない。

 しかしティアナはそのまま話を続ける。


 「昨今のジュメルは聖騎士団壊滅と共に魔怪人を主体とする戦闘方法に変わってきています。その動きは先日のユグリアの攻防ではっきりとしています。死を恐れず連携もとらず個々に襲い来るその戦闘姿は正しく魔獣そのもの。普通の軍隊と同じように規律を保ちながら戦術を繰り出すことは有りません。となれば戦い方自体も変わってくる恐れがあります」


 そこまで言ってティアナはルノマンさんを見る。


 「『第一軍』、『第二軍』では魔獣に対しての臨機応変な動きが出来ない可能性があります。ですから『第三軍』はそれを補う柔軟性が必要となります」


 「まあ、むしろその方が俺らにとってはやりやすいか。わかった、ティアナ将軍の言う通りこいつらを小部隊の頭にして編成と戦闘形態を変えてみよう」


 ルノマンさんはそう言って休憩の終了を宣言してティアナに言われた部隊編成を始める。



 「ティアナ、ロックゴーレムで良いですかですわ?」


 「ええ、お願いします。各小隊ごとにお願いします」



 ティアナの糸をくみ取ってあたしは訓練用のロックゴーレムを作り出す。

 そしてルノマンさんが編成をお終わった小隊ごとにそのロックゴーレムを配置して模擬戦を始める。



 「いいか、お前らのやりたいようにそのゴーレムを叩き潰せ! 始めるぞ!!」



 ルノマンさんのその掛け声に水を得た魚の様に隊員たちは動き始めた。

 それはあたしたちの予想以上。

 小隊長を中心に即興の部隊は見事な連携を始めて前衛、後衛の役割をこなしながら次々とロックゴーレムを倒していく。



 「ほぉっ、これはなかなか!」



 ロクドナルさんはその動きを見ながらうなった。

 今までの訓練の時のような硬さは無くなって各個が自分の役割に徹して見事な連携がなされている。


 「これは冒険者のパーティーみたいなものね。みんなの動きが生き生きしているわ」


 横で見ていたイパネマさんは唇に人差し指を当てながらそう言う。

 そのしぐさがやたらと色っぽくてあたしはつい見とれてしまった。



 「エルハイミ、何見てんのよ!」

 

 『相変わらずね、エルハイミは』



 シェルやシコちゃんにつっこみを食らうあたし。

 良いじゃない、見とれたって!



 「やはりこの方が良いようですね。ロクドナル卿この編成でもう少し鍛えてやってください。イパネマさんはロックゴーレムの作成は?」


 「ああ、ロックゴーレムくらいなら簡単にできるわよ?」


 「では訓練に協力してもらえますか?」


 「ええ良いわよ」


 そうにっこりとほほ笑んであたしを見る。



 どきっ!



 なんであたしを見る?

 しかしその後すぐにティアナが別件が有るとか言い出してあたしを引き連れて部屋へと戻って行く。


 あたしはティアナに引っ張られたままこの場を後にするのだった。



 * * *



 「駄目よ、エルハイミは私のなんだからね!」


 引っ張られていたあたしは部屋に戻ると同時にティアナにそう言われて唇を奪われる。

 それは大人のキス。

 

 それはそれは激しくされて頭がぼうっとするほどだった。



 「ぷはぁっ、ダメよエルハイミは誰にも渡さないからね! エルハイミもイパネマさんに見とれちゃだめよっ!」


 どうやらあたしがイパネマさんを見ていたことがばれていたようだ。

 やばい、このままだとティアナに襲われちゃいそう‥‥‥



 『結局あたしがこの役かぁ。 はいはい、夜まで待ちなさいよ。ティアナも急用が有るんじゃなかったの?』


 シコちゃんにそう言われティアナはあたしの腰からシコちゃんを引き抜く。


 「一回ティナの町に戻ろうと思うの。その、そろそろ仕入れないと予備も無くなってきたし」



 へ?

 仕入れる?

 何を?



 「エ、エルハイミだって呪いのせいで今の下着じゃサイズがきついでしょう?」



 ぶっ!

 ティアナ、何の話をっ!?



 「それにこれからの行動ですぐには予備も手に入らないだろうし、やっぱり一度シルクの心地よさを味わうと他のがダメなのよ」


 ちょっと顔を赤くしてティアナはそう言う。


 「エルハイミと一緒になってから下着も汚れやすいしね‥‥‥////」



 うおぃっ!

 ティアナぁ!!

 だめっ!

 そんな事言われたらあたしが我慢できなくなっちゃう!!



 「ティ、ティアナぁ‥‥‥」


 「エルハイミぃ‥‥‥」


 近づくあたしたちの顔。




 ばんっ!




 「あたしも行くわよ!」


 「ティアナ様、私たちも行きます!」


 「ティアナ様、私たちにも新しいの買ってくださいよ!」


 「お母様、下着とはこれの事ですか?」


 シェルやセレにミアムが乱入してコクはゴスロリのスカートを持ち上げてカボチャパンツをあたしに見せる。



 こ、こいつら扉の外で様子をうかがっていたわね!!



 あたしは顔を赤くしながら襟元を直しティアナに聞く。  

 

 「ティアナここをしばらく空けても大丈夫ですの?」


 するとティアナは平然と言い放つ。

 

 「既に予定表は渡しました。三日ほどティナの町に戻る事が出来ます。ちょうど七日目の休日も挟まる事ですし良い機会と思います」


 さてはずっと考えていたなティアナ?

 しかし前回はジルに近隣の村を案内してもらっていた最中の呼び出し。

 そしてそのまま戦闘やいろいろな用事が出来てしまってなかなかティナの町に帰れなかった。

 こういう機会は大事にしないといけないのかもしれない。


 「わかりましたわ。ではティナの町に一時帰宅しましょうですわ」


 あたしはそう言ってハッと気づく。

 そう、帰宅。

 あそこはあたしとティアナの愛の巣。

 自分たちの家なのだ。


 なんとなくあたしはにへらぁ~としてしまう。

 うん、帰宅かぁ。

 良い響きだわ!

 部屋に戻ったらティアナに裸エプロンさせて‥‥‥


 ゆ、夢が膨らむわね!!



 こうしてあたしたちは明後日以降三日間ティナの町に一時帰宅する事となった。



 * * * * *



 「えーと、なんでこの人たちがついて来るのです?」


 「そう言わないでくれ、セレ。私たちだって北のティナの町に行った事は無い。是非一緒に連れて行ってくれ!」


 「アラージュはあなたたちに可愛い下着をプレゼントするって張り切っているのよねぇ~」


 「あ、こらカーミラ! 余計な事言うんじゃない!」

 

 相変わらずぶれないアラージュさん。

 セレやミアムにちょっかい出しまくっている。


 「ティナの町ね? 前から興味はあったのよね。私もぜひ行ってみたかったのよね」



 イパネマさんまでついて来るつもりだ。



 「あー、エルハイミさっさと帰ろうよ! ジルたちにもお土産買ったしあたしもエルハイミに穿かせたい新作考えてあるんだから!」



 おいシェル、何故あんたが考える?



 「そう言えばもうじき収穫祭の時期ではないか、主よ?」


 ショーゴさんに言われてみればそろそろそんな時期だ。

 だったらティナの町は今行けばにぎわっている頃かもしれない。

 



 ちょっとした帰郷気分であたしはゲートを起動させるのだった。

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