第365話13-22ガーベル

 13-22ガーベル



「ふっ、愚かなやりなさい!」




 ボーンズ神父のその一声に最古の長老たちが精霊魔法を発動させる。

 大地の槍が、疾風の刃が、そして水の槍がベルトバッツさんを襲う。



 「【絶対防壁】!」



 あたしが慌てて飛び込むベルトバッツさんに防壁の魔法をかけるけど四方からの攻撃をカバーしきれない!



 ぐさっ!



 大地から伸びた地槍がベルトバッツさんの右肩に刺さる。

 

 「ぐぁっでござるっ!」


 その大地の槍は深々とベルトバッツさんの右肩に突き刺さり彼を飛び込んだ瞬間の姿のまま空中に縫い付ける。



 「ベルトバッツさん!」



 あたしが悲鳴を上げるがベルトバッツさんはなんと右肩の血肉がちぎれるのも構わずそのままそこからメル長老に飛び込む。


 「しぶといやつ! やれっ!!」


 ダークエルフのベスがそう指示すると更に何処からか数人のダークエルフが湧き出てベルトバッツさんにナイフを投げつける。




 どっ!

 どっっ!!



 いくつものナイフを身に突き刺されてもベルトバッツさんは止まらない。

 そしてあと少しでメル長老に届くと思ったその時だった。



 「しつこいですねぇ、しかしその強靭な肉体は素晴らしい。我が方に役立ててあげましょう。やりなさいメル長老!」



 ボーンズ神父がそう言うとメル長老はベルトバッツさんに向かって精霊魔法を放つ。

 その強力な精霊魔法はベルトバッツさんを淡い光で包むとベルトバッツさんは地面に着くと同時に倒れた。

 どうやら精神に働く魔法のようでベルトバッツさんは倒れたまま身動き一つしない。



 「はーっはっはっはっはっはっ、流石エルフの長老! 素晴らしい精霊魔法だ。さあ、その強靭な肉体を我が下に捧げるのです!」



 そう言ってボーンズ神父は懐から種のようなものを出してベルトバッツさんの額に付け呪文を唱える。

 

 「ぐぅぉおおおおぉぉぉでござぁるっ!!」


 意識を失っていたはずのベルトバッツさんが苦痛の声を上げる。

 そして額に付けられた種のようなものはどんどんと伸びて行きベルトバッツさんの体を包み込んでいく。



 「ベルトバッツよ!」



 コクが叫んでもベルトバッツさんは反応をしなくなってしまった。

 そしてゆっくりと立ち上がったその姿は魔怪人となってしまっていた。



 「お、長が‥‥‥」


 「く、こうなってしまってはでござる!」

 

 「黒龍様、お下がりくださいでござる!」


 残ったローグの民もコクを取り囲むように守りの陣に入る。




 「これはなかなかなモノになりましたね? よろしい、その強靭な肉体を使ってエルハイミさんたちを捕まえなさい! メル長老も引き続きおやりなさい!!」



 何と言う事だ!

 ベルトバッツさんは今や完全に自我を奪われ魔怪人のような姿になって操られていた。




 「まさか、今まで私たちが倒してきた魔怪人は‥‥‥」


 「ええ、そうですよ! このユグリアの近隣の住民やここの市民を取り込み我が方の先兵に仕立てたのです! 我がジュメルが新たに見つけ出した実に素晴らしい古代魔法王国の遺産でしょう? まだまだ種は生み出せます。我が先兵は人間さえいればどんどん増やせるのですよ!」


 ボーンズ神父がそう言い切るや否やベルトバッツさんだった魔怪人はあたしたちに襲いかかって来た!


 その動きはベルトバッツさんだった頃と変わらぬ素早さ。

 ダークエルフを切り伏せたショーゴさんが異形の兜の戦士に変身しながらベルトバッツさんの前に立ちふさがる。


 ベルトバッツさんは両手から延ばした爪でショーゴさんを襲うけどショーゴさんも既になぎなたソードと短剣で応対をしている。




 「【拘束魔法】バインド!!」



 あたしはメル長老や他の最古の長老たちに【拘束魔法】バインドを放つ。

 しかしそんなものはあっさりと大地からせり上がった岩の壁や植物のゴーレムのようなもので邪魔される。



 「仕方ありません!」


 師匠はそう言ってメル長老の攻撃魔法が一瞬止んだ隙に分裂をして一気にメル長老に詰め寄る。




 「これは驚きですね! しかし二人に別れたくらいでは足りませんよ?」



 ボーンズ神父がそう言うと片方の師匠に炎の上級精霊が、そしてもう片方に風の上級精霊の魔法が最古の長老たちから放たれる。

 そして目標だったメル長老も一度に二体の上級精霊を操り疾風の刃と大地の槍を次々と二人の師匠に放つ。


 「くっ!」


 師匠は短く唸り炎と風の魔法が向かった師匠を消し風と地槍の方の師匠に魔法が当たる瞬間更に分裂をしてメル長老に飛び込む。


 しかしそこにダークエルフたちが躍り出て行く手を阻む。


 「邪魔です!」

 

 師匠はダークエルフたちの投げナイフをかわしながら【氷の矢】を放ち魔法のダメージを食らった分身を消し更にそこから分裂をする。

 しかし分裂した師匠はかなりのダメージを受けた師匠だった。

 その師匠はダークエルフたちを相手にしてもう一人の無傷の師匠がメル長老に迫る。



 今度こそは!



 「ベス、おやりなさい」


 「はい、ボーンズ神父様」


 ダークエルフのベスは飛び込む師匠に投げナイフを投じながら闇の精霊魔法を放つ。

 師匠はナイフを刀ではじくが闇の精霊にまとわりつかれその場で足を止めてしまった。

 そこへ最古の長老たちから上級精霊魔法を食らい弾き飛ばされてしまった。



 「師匠!」




 「ぐあっ!」


 「ソルガ兄さん! くっ! このぉ!!」


 「お姉さま!」


 あたしが師匠に気を取られている間にダークエルフたちの攻撃にソルガさんは負傷し、シェルはそのサポートで身に着けたライトプロテクターの自動防御で慣れない接近戦をしている。


 イオマも魔法を使いながら援護をしているけどやはり接近戦をされるとライトプロテクターの自動防御に頼り切りで防戦一方となってしまう。




 どがっ!


 

 そんな状況下で本気が出せないショーゴさんがベルトバッツさんに吹き飛ばされる。

 

 「くっ! ベルトバッツ殿目を覚ませ!!」



 

 『ダメだわエルハイミ! みんな動きが封じられる!』


 「分かっていますわ! 最古の長老たちさえ押さえられば!」



 シコちゃん言われあたしは一か八かあの魔法を使う。


 目の前に魔方陣を発生させ飛び込む。

 同時にメル長老のすぐ横に現れた魔法陣からあたしは躍り出てメル長老の眼鏡に手を伸ばす!



 「流石エルハイミさんだ! 素晴らしい魔術だ!!」


 しかしあたしは伸ばしたその手を横から伸び出たボーンズ神父の手に捕まれそのままボーンズ神父のもとへ引き寄せられてしまった。



 「エルハイミっ! 駄目っ!! 来なさいアイミぃっ!!!!」



 「ティアナっ! だめですわっ!!」


 ティアナがアイミを呼ぶと地面が割れそこから巨大なマシンドールが起き上がる。


 

 「【特殊技巧装着】!!」


 「ラジャーマムゥ」



 ティアナは叫びながらアイミの背中に走り、開いたアイミの背中に飛び込む。




 「なんですか、あれは!?」



 いきなりの事に驚くボーンズ神父、しかしあたしはティアナがあの力を使ってしまった事の方が衝撃で固まってしまった。


 一瞬結晶体の様な光がアイミを光らせたと思ったら胸の所が開いて全身甲冑をまとった女性のシルエットの騎士が飛び出してきた!




 「エルハイミを返せぇっ!」




 騎士姿のティアナは槍を展開しながら塞ぎ立つベルトバッツさんをあっさりと両断して更にこちらに跳躍してくる。



 「メル長老!!」


 ボーンズ神父のその声にあたしとボーンズ神父の前にメル長老が立ちふさがる。

 そして上級精霊魔法を放つがティアナには一切効かない。

 ティアナはその切っ先をそのままメル長老へと向ける。



 「駄目ですわっ! ティアナぁっ!!」



 あたしのその叫びにティアナの切っ先はメル長老の鼻先で止まる。

 と、そこへ横から突風が吹きティアナを吹き飛ばす。



 「ティアナぁっ!」



 「危ない、危ない。よくやりました最古の長老たち。さあ、エルハイミさんもこのメガネを」


 「い、いやぁですわぁっ!」

 

 あたしの抵抗むなしくあたしはボーンズ神父に眼鏡をかけられる。



 しまった!

 意識がだんだん‥‥‥





 「全く、久しぶりに墓参りに来てみれば。俺の女に手ぇ出しているのはお前か?」




 消えゆく意識の中であたしはどこかで聞いた事のある声を聴いた。

 


 「へっ?」


 「消えろ」



 そしていきなりボーンズ神父は何かの衝撃を受けあたしを離す。

 離されたあたしはその場に倒れ、同時に眼鏡も外れ急激に意識が覚醒する。



 あたしは何が起こったのか分からずボーンズ神父を見ると一刀両断に引き裂かれていた。



 な、何が起こったの?




 「ボーンズ神父! いやぁっ! あなたぁっ!!」


 ベスが慌ててこちらにやって来るけどそのベスも途中でいきなり上半身と下半身が引き裂かれる。

 そして飛び散る上半身が空中をもがきながら半分に切断されたボーンズ神父の近くに落ちそのまま動かなくなる。



 あたしは周りを見渡す。

 すると髭面のライトプロテクターを身に着けた、がっしりとしたおっさんが肩に大きな剣を担いだままメル長老を抱き寄せ眼鏡を取り外す。



 そして意識を取り戻したメル長老がいきなり涙目でその髭面おっさんに抱き着き口づけをして叫ぶ。


 「ガーベル様ぁじゃぁぁっ!」   




 

 あたしは倒れたまましばし呆然とその光景を見るのだった。

 

 

 

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