第346話13-3アンナの子供


 13-3アンナの子供



 挨拶もそこそこ、あたしはアンナさんの子供を見ている。


 まだ生後数か月で首もよく座っていない。

 でもどことなくアンナさんに似ていて非常に可愛らしい。


 「エルハイミちゃん、本当に良かった。最初知らせを聞いたときは耳を疑いました」


 「アンナさん、今私は自分の目を疑ってますわ! いつの間にお子さんを? それにお相手はどなたですの?」


 確かにアンナさんの年齢で誰とも一緒になていないというのであれば問題でもあるが、これは個人の問題であたしがとやかく言う筋合いはない。



 しかし子供はどうなっているかは気になるじゃない!



 お相手は誰!?

 未婚の母なんて事は無いでしょうね?

 まさか、望まぬ妊娠だったとか!?

 だとしたらその相手を聞き出しアンナさんの前に引きづり出して土下座させ責任を取らさせなければ!!



 あたしが勝手に興奮しているとマース教授が訪ねてきた。


 「エルハイミ君が戻ってきたと聞きました。学園長、こちらですかな?」


 相変わらずの様子だったけどだいぶ髪の毛に白いものが増えて顔のしわも増えていた。

 久方ぶりに合う教授にあたしは挨拶をしてみんなを簡単に紹介する。



 「あなたもこちらへ来たのですか? 研究の方は?」


 「ああ、お前もここに居たのか。研究は引き続き学生に資料を取らせているよ。それよりルイズは寝たのかね?」


 

 ちょっとマテ。

 いまアンナさん「あなた」って言った?

 しかもマース教授も「お前」とか「ルイズ」って?



 「あ、あの、アンナさん?」

 

 思わず挙動不審になってしまうあたし

 そんなあたしに師匠は説明をする。


 「エルハイミ落ち着きなさい。アンナのその子は名をルイズ。女の子です。そしてアンナとマース教授は夫婦としていま『女神の杖』である『暗黒の杖』研究しているのですよ」



 師匠のその言葉にあたしは額にびっしり脂汗をかきながらアンナさんとマース教授を見る!



 「え”え”ええええぇぇぇぇぇぇっですわっ!?」



 「エルハイミ君、相変わらず失礼だな。君は今私とアンナが一緒になった事に驚いているだろう?」


 苦虫をかみつぶしたようなマース教授は面白くなさそうにあたしにそう言う。


 「だ、だってお二人が一緒になるなんて!?」


 「そんなにおかしいですか? マースはとても良い人ですよ?」


 いやいやいや、アンナさんガレントの宮廷魔術師だし、いくら師匠の許可を得てボヘーミャに研究室持っていてもまさか年の離れたマース教授と!?



 と、やっと寝かしつけたルイズちゃんがまたぐずりだす。


 「ふぇっ、ふぇぇえええぇぇぇんっ!!」


 「わわわっ、ルイズどうしたのです? いきなり泣き出すなんて??」


 必死になってあやすアンナさんだがそれでもルイズちゃんは泣き止まない。

 

 「ちょっとよろしいですか、アンナさん?」


 「はい?」


 あたしは人差し指をルイズちゃんの口の近くに近づける。

 するとルイズちゃんは指に吸い付こうとする。


 「アンナさん、ルイズちゃんはお腹が減っているのですわ。早くおっぱいをあげてくださいですわ」


 「そ、そうだったんですね。ごめんねルイズ、今おっぱいをあげますからね」


 そう言ってアンナさんはこの場で授乳を始めようとする。


 「アンナさん! ここではだめですわっ!」


 「お前、人前では注意しろとあれほど言っているのに」


 「え、えっ? あ、そうでした! ごめんなさい!!」


 そう言って慌ててアンナさんはこの部屋を後にしたのだった。




 * * *



 「と言う事なんだよ。理解してもらえてたかね、エルハイミ君」



 「‥‥‥は、はいですわ」


 まさかマース教授がここまで達弁になるとは!?

 

 アンナさんとマース教授の事を聞いたのが失敗だった。

 何がうれしいのやらなれそめから始まりルイズちゃんがどれだけかわいいかの話が始まり皆魂が抜けるほど同じような話を何度も何度も聞かされ白くなっている人までいる。


 

 「マース教授、個人的なお話はそのくらいで。それよりエルハイミ、『女神の杖』についてお話を」


 「そ、そうでしたわ! マース教授これを見てくださいですわ!」


 

 あたしはそう言って白くなっているシェルを叩き起こしポーチから女神の杖を取り出した。


 「これは私たちが今まで回収できた『女神の杖』ですわ。ファーナ様の杖、フェリス様の杖、そしてノーシィー様の杖ですわ」


 あたしが並べた「女神の杖」にマース教授は大いに驚いた。  


 

 「なんと言う事だ、これは他の女神の杖なのかね?」



 「ええ、そしてドワーフの国で魔法王ガーベルの試練を受ける際にこの杖は『狂気の巨人』を封印するのに使われたと言う事を魔法王ガーベルの記憶から聞きましたわ」


 あたしがそう言うとマース教授はまた大いに驚いた。


 「相変わらず君には驚かされる事ばかりだよ。やはり私の研究は合っていたようだね。これらの杖自体はその女神に由来する奇跡を起こす力に非常に優れていた。優秀なのはさることながら最大の目的が何かを押さえるという役目だと言う事が分かっていたのだよ。そしてその目的が君の話ではっきりと分かった。これは間違いなく封印の鍵で逆に言えば封印を解く鍵でもあるわけだ」



 ここにきてあたしたちの推測は確信に変わった。



 やはり秘密結社ジュメルは『狂気の巨人』を復活させるつもりだ。

 それは今のこの世界が終わってしまう事を意味する。



 「師匠、ジュメルはやはり‥‥‥」



 「これで間違いありませんね。この事を大々的に連合に知らせ何としても『女神の杖』をジュメルに渡さず私たちの手に入れる必要が有りますね」



 

 師匠はそう言って立ち上がった。


 「エルハイミ、試験場に来なさい。久しぶりに手合わせをします」


 「は? し、師匠と手合わせですの!?」


 「この間にあなたがどれほど成長したか見極めます」




 そう言って師匠はあたしを試験場に引き連れていくのだった。 

  


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