第十三章

第344話13-1精霊都市ユグリアで

 13-1精霊都市ユグリアで



 あたしたちは精霊都市ユグリアの「緑樹の塔」にいた。



 「おう、エルハイミの嬢ちゃん久しぶりだな! ずいぶんとでかくなったもんだ。もう立派なおねえちゃんだな!! ところで聞いた話だとそこのシェルちゃんと一緒になったってのは本当かい? なら祝いの料理でも作ってやらなきゃだが」


 「イチロウさん! 違いますわ!! 従者ですわ、従者!!」


 「あら、そうだったの? エルフの村では婚姻の儀をしたって聞いていましたけど?」


 エルフなのに巨乳のアレッタさんが不思議そうにあたしたちを見ている。

 あたしはため息をついてから説明をした。



 * * *



 「なるほどねぇ、エルハイミの嬢ちゃんも苦労してんだ」


 「シェル、本当に良いの?」


 「うん? あたしは大丈夫よ? 気長にエルハイミがあたしを好きになってくれるまで待つから」


 シェルはいつも通りにケタケタと笑っている。

 全く人の気も知らないで。


 イチロウさんがあたしの話を聞きアレッタさんはシェルに確認をしている。

 とりあえずは誤解は解けたようだけど、ファイナス市長経由で変な噂が流れないようしてもらわないと。

 あたしはそんな事を思いながら悩んでいた。


 するとふくれたイオマとコクがあたしに文句を言ってくる。 



 「お姉さまがいけないんです!」


 「主様のお望みとならば致し方ありませんが、それでもエルフ如きに主様の操を渡すわけにはいきませんよ!?」




 いやいや、あんたたち二人だって大概でしょうに!!


 

 あの時酔った勢いでこの二人にも唇を奪われた。

 それはもう盛大に。

 

 周りも酔っ払っていてそれがヒュームの挨拶だとか言い出した輩まで現れたのであの後更に大騒ぎになった。


 翌日なんか魔法かけなきゃ二日酔いでみんな死んでいたほどだったし、シェルなんか二人っきりになるとやたら甘えてきて唇奪われそうになるし‥‥‥


   

 「さてエルハイミさん、これが風のメッセンジャーです。ボヘーミャにユカにつながりますよ」


 ファイナス市長はあたしに風のメッセンジャーを使わせてくれている。

 あたしはさっそくそのメッセンジャーを起動して学園都市ボヘーミャの師匠に連絡をする。


 そしてしばらく待っていると返信のメッセージが届いたようだ。



 『エルハイミ、よくぞここまで戻りました。あなたがここまで戻って来てくれたのは本当にうれしく思います。ティアナはまだ戻っていませんが先ずはボヘーミャに戻ってきなさい。詳しく色々と聞きたい事も有ります。あなたが無事戻ってくることを皆待っていますよ』


 そこまで言って師匠のメッセージは切れた。



 「まだティアナは戻っていないのですのね‥‥‥」


 「エルハイミ‥‥‥」


 「お姉さま‥‥‥」


 シェルとイオマが心配そうにしているあたしを見ている。

 あたしだって理解はしている。

 

 ティアナは今連合軍の将軍職を受け、ジュメル討伐に各国を飛び回っているのだ。

 ティアナは必ずボヘーミャに来ると言っていたらしい。

 不安がない訳ではないけどあたしはティアナを信じている。


 だからまずは師匠に言われた通りボヘーミャに戻ろう。



 「ファイナス市長、ありがとうございましたですわ。師匠に言われた通りまずはボヘーミャに行きますわ。そしてティアナを待ちますわ」


 「そうですね、それが良いでしょう。出発は何時しますか?」


 本当はすぐにでもボヘーミャに行きたいけどティアナがいないのでは急いでも仕方ない。

 

 「そうですわね、明日にでも出発しようと思いますの」


 「そう来なきゃな! よし、エルハイミの嬢ちゃんが好きなモン食わせてやるからな!」


 イチロウさんはそう言って大笑いする。

 数少ない元同郷のこの人の作る日本料理は本当に美味しい。

 あたしはその言葉に甘える事にした。



 * * * * *


 

 「お、お姉さま、これ生きてるんですか!?」


 「なんと面妖なものなのでしょう!? 長く生きていましたが人間とはこのような不思議なものを食べるのですか、主様?」


 「なんでも食べる主様が好みそうな悪趣味でいやがりますね?」


 「ふむ、しかし面白い。これだけ薄いのに動けるとはな」


 焼うどんを初めてみるイオマやコク、クロエさんにクロさんは焼うどんの上にかけられた鰹節が熱気でゆらゆら動いているのに驚いていた。


 「さあ、他にもいろいろあるから沢山食ってくれ。エルハミの嬢ちゃんよ、ほぼ向こうの世界の味と同じに出来上がったぞ。試してくれ」


 イチロウさんはそう言ってにかっと笑う。

 かなり自信が有るのだろう。


 あたしは久々に箸を使ってその焼うどんを食べ始める。



 「!!」



 こ、これはっ!

 まさしく焼うどん醤油味!!

 しかもこの風味、これは‥‥‥



 「イ、イチロウさん、この磯の香りは青のりですわね!?」


 「おおっ? 気付いたかい? そうだ、青のりだよ。ボヘーミャで青のりやわかめ、昆布と言った乾燥海産物が作られるようになったんだよ。そうだ、こいつも試してみてくれ!」


 そう言ってイチロウさんはあたしにお重を見せる。


 こ、これは!?

 中には田舎寿司、そう、助六ずしが詰まっていたのだった!!


 「ま、まさか海苔巻きやお稲荷さんが食べれるなんてですわ!!」


 「そうそう、醤油もいいのが出来たんだぜ、生醤油だ!」


 そう言ってイチロウさんはあたしに醤油の小皿を渡して来る。

 あたしは小指にその醤油をちょんと付け口に運ぶ。



 「!!」



 またしても驚かされる。

 まろみのある上品な味わい。

 ただ塩辛いのでは無く深い旨味もある。


 あたしはさっそく海苔巻きを箸で取りお醤油を少しつけ口に運ぶ。

 そしてまたまた驚く。


 「か、完璧ですわ! この海苔巻きは正しくあの海苔巻きの味ですわ!!」



 「さっきから何を驚いているのか分からないでいやがりますがこれは一体何なんでいやがりますか?」


 あたしがひとしきり感動しているとクロエさんは海苔巻きをひょいっと手で持ち上げてしげしげと見ている。


 「お姉さま、何なんですかこれって? この黒い紙みたいなものと白いつぶつぶ、あ、切れ口はきれいですけどこれって食べれるんですか?」


 「主様、先ほどの面妖な薄いものが動かなくなりました。死んだのでしょうか?」


 初めて見るのなら仕方ないよね?

 あたしは思わず笑いそうになってしまうのをこらえながら説明をした。



 「かくがくしかじかで、これは異世界の料理ですのよ!」



 「なんと異世界ですと?」


 「主様、それは本当ですか?」


 「そ、そんな危険物を黒龍様に喰わそうとしたのでいやがりますか!?」


 「お姉さま、まさかこれら全部異世界から来たのですか!?」



 あたしはびっと人差し指を立てながら説明を始める。



 「そうではないのですわ、これはかくがくしかじかでイチロウ=ホンダさんがこの世界の食材で苦労して再現したものなのですわ!」




 「「「う~む」」」


 

 みんな思わずうなってしまっている。

 

 「とにかく騙されたと思って食べてみてくださいですわ!」


 するとみんな仕方なくフォークでこれらの食べ物をつつき始める。

 しかし口に運ぶと‥‥‥




 「「「!?」」」




 「なんですかこれ? お、美味しい」


 「これは、今までに口にした事の無いような味ですね。しかし悪くはない」


 「ふむ、これは良いものだな。我らの口にも合う」


 「くっ、主様が好む物だからきっとすごい変な味だと思っていやがりましたのに‥‥‥ 旨いでいやがります」



 みんなイチロウさんの料理に驚いている。


 「へへっ、まだまだあるぜ! ほら天ぷらにニシンの煮つけ、ゴボウきんぴらに黒豆の煮つけ、まだまだあるぞ!」


 あたしは更に出されたお重に歓喜する。



 「ほんと、エルハイミって異世界の変な食べ物好きよねぇ~」


 「主は昔から普通ではないからな」


 なんかシェルもショーゴさんも変な事言ってるけど、ちゃんと美味しいでしょうに!

 この二人もしっかりとイチロウさんの料理を楽しんでいる。



 「そうそう、そう言えばユカさんからこんなものも届いているんだぜ!」



 そう言ってイチロウさんは一升瓶を取り出した。

 あたしはそれを見て驚く。


 「イ、イチロウさん、それってまさかですわ!?」


 「おう、そのまさかで清酒だ! ユカさんがとうとう作り上げたんだよ」


 そう言ってその日本酒をみんなに配り始める。

 みんなはその香りを楽しんでから一口。



 「この酒は面白いですね、主様?」


 「ふむ、透明ながら甘みもありこれはこれで美味いですな」


 「なんなんでいやがります? この香りは甘くそして飲みやすいでいやがります」


 「お姉さま、これ美味しいですね!? 果実酒より清々しくてそれでいて甘い」



 あああ、みんなそんなにかかぽかぽ飲んだら‥‥‥




 「にへへへぇ~、エルハイミぃ~」


 「え? シェル?」


 既に真っ赤になったシェルが酒臭い息を吐きながらあたしのそばにやって来た。



 「ねえ、あたしたち夫婦なんだからいいよねぇ~」



 そう言っていきなりあたしの唇を奪おうとする。



 「ちょ、ちょっと、シェル何をするのですの!?」


 「よいではないか~、よいではないかぁ~」



 こいつ完全に酔っぱらっている!?



 「あ、シェルさんずるい! 私もです! お姉さまぁ!」


 「主様の唇は誰にも渡しません! 主様私も!!」


 三人に迫られるあたし。



 「ちょ、ちょっとぉですわぁ!!」



 酔っ払い三人は留まることなくあたしに迫って来るのだった。

 そしてお約束通りあたしの悲鳴が今日もこだまするのだった。

















 「なあ、イチロウ殿。このぬめぬめしたもの美味いな。何なのだ?」


 「おう、それはイカの塩辛ってやつだ。日本酒によく合うだろ?」





 あ、あたしもそれ食べたかった‥‥‥


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