第319話12-7お休み

 12-7お休み



 あたしたちは水上都市スィーフにいた。



 「なんか街にも簡単に入れたわね? 好いのあんなので??」


 シェルがそう言ってお財布の袋にお釣りの銅貨を入れていた。

 スィーフに入るのに人頭税とか言って一人当たり銅貨二十枚要求された。

 まあ、そのくらいは余裕が十分に有るのでさっさと支払って中に入ったのだがその際に検査も何も厳しい事は一切なかった。


 「その国々によって考え方は色々ですわ。そう言った意味ではスィーフは人頭税を払えば良いという考えなのでしょう」


 シェルは「そんなもんかねぇ~」とか言ってお財布をポーチにしまった。

 

 「主よ、もう少しで冒険者ギルドに着くだろう、荷物をまとめてくれ」


 先ほど人頭税を払う時に冒険者ギルドの場所を聞いておいたのでその通りならもうすぐ着くころだった。

 冒険者ギルドに付いたら今までお世話になっていたこの子たちを引き取ってもらわなければならない。

 あたしたちは少ない荷物をまとめ始めた。



 * * * 



 「やはりここから精霊都市ユグリアには遠回りのルートしかないみたいですわね」



 冒険者ギルドでオオトカゲたちを引き渡し、精霊都市ユグリアに行く方法ついて聞いたら遠回りのルートのキャラバンを紹介された。

 しかし迂回するキャラバンだと大幅に時間がかかる。

 あたしたちにはシェルがいるから「迷いの森」のエルフの村を通ってユグリアに辿り着ける。



 「達者でいるのですよ」

 

 コクがオオトカゲたちに挨拶をしている。

 オオトカゲたちはコクのその言葉に頷き返していた。

 なんかこの道中でだいぶ仲良くなっていたらしい。



 「さて、そうすると荷馬車を仕入れるか? 主よ」


 ショーゴさんはあたしにそう話しかけるが、「迷いの森」まで行ったら馬や馬車は森に入れない。


 「森に入ることを考えるとこの後は歩いていくしか無いですわ」


 「まあ、そうなるわね。森まで行ってまさか馬をそのまま放置したら可哀そうだものね」


 「でもそうすると移動には結構時間がかかるのではないですか、お姉さま?」


 シェルもイオマも理解はしてくれているようだけど確かに徒歩だと時間はかかる。

 しかしそれでも「迷いの森」を抜けるルートはかなりの時間短縮になる。


 「ここから歩いて『迷いの森』に行くには一月近くかかるらしい。主よ、いろいろと準備が必要だな」


 「そうですわね、ですからここでは十分に休息をとって準備をしましょうですわ」


 久しぶりにふかふかのベッドで寝れるし、もしかしたら湯浴みもできるかもしれない。

 あたしたちは浄化魔法で毎日奇麗にはしているがやはりお風呂は女の子にとってものすごく必要だ。

 このスィーフであたしは二、三日の間十分に休息をするつもりだ。


 オオトカゲを引き取ってもらったのでまだまだ懐には余裕がある。

 あたしたちは冒険者ギルドでよさそうな宿を紹介してもらうのであった。



 * * * * *


 

 あたしたちは冒険者ギルドで紹介された「水鏡亭」という酒場兼宿にやって来ていた。



 「あたしとエルハイミは切っても切れない関係なの、だから一緒の部屋はあたしよね!」


 「何言ってるんですか、シェルさん! 私はお姉さまにマッサージしてもらうんですよ、一緒の部屋は私です!」


 「主様は私が必要ですよね? 勿論私が主様と一緒ですよね?」



 カウンターでいきなりシェルとイオマ、それにコクまで参加して誰があたしと同室になるか言い争っている。

 五人部屋が無いので二人用の部屋分けでもめていたのだった。

 カウンターの向こうのおっちゃんも苦笑いしている。


 「何なら四人の大部屋も有るがどうするね?そっちの奇麗なお嬢さんは一人部屋になってしまうが」


 おっちゃんのその物言いに三人は一斉に異を唱える。



 「何言ってんのよ! エルフの村に行っても怪しまれない様に今から練習が必要なのよ、あたしは!」


 「ティアナさんに会うまでにたっぷりとお姉さまに甘えたいんですから、絶対に私です!」


 「何を言っているのですか? 魔力補給をしてもらわないと我ら黒龍の活動に支障が出ます。ここはやはり私が主様と一緒になるべきです!」



 みんなおっちゃんに喰いかかっている。

 おっちゃんは乾いた笑いをしながら先にクロさんとショーゴさんの部屋の鍵を渡す。



 「ご主人、こうなったら私たち女性陣が全員何とか入れるような部屋をお願いしますわ。このままではらちがあきませんわ」


 「うーん、四人部屋しかないんだがね、ああそうだ、そこのお嬢ちゃんはおまけしておいてやるから四人部屋で五人一緒ってのはどうだい? そこのお嬢ちゃんならだれかと添い寝できそうだしね」


 おっちゃんは面倒になってきたようでコクを指さしそう言う。

 まあ、コクならあたしと一緒のベッドでも大丈夫だろう。



 「それではその部屋でお願いしますわ」


 「あいよ、じゃあこれがカギだ」



 おっちゃんはそう言ってあたしに鍵を渡して来る。



 「ああーっ!」

 

 「お姉さまぁっ!」


 「主様、ベッドは一緒ですね? ならば私は文句がありません」



 シェルとイオマはだいぶ不服のようだが仕方ない。

 これで三部屋二人づつと一人言う面倒な組み分けはしなくて済む。

  

 ぶつぶつ言うシェルとイオマを引き連れて二階の部屋にあたしたちは行く。

 そして荷物を置き、四つ並んでいるベッドの真ん中にあたしとコク、その左右にシェルとイオマ、残った場所にクロエさんが寝ると言う事でとりあえずは渋々納得してもらった。



 「えへへへぇ、私は主様と一緒です♪」



 一人コクだけご機嫌だった。

 まあ、今までも何かあるとコクはあたしと一緒に寝ていたので自然とこうなる。


 「うう、せっかく親睦をさらに深めようと思ったのにぃ」


 「私だってお姉さまに思い切り甘えようと思ったのに」


 ぶつぶつ言っている二人を引き連れてあたしたちは下の酒場に戻ってきた。

 酒場には既にショーゴさんとクロさんが来ていた。

 まだ時間はちょっと早いけど今日は疲れたし、この宿にはシャワーがあるそうだか久々に湯浴みをしたい。

 なので早めに夕食をみんなで取る事にした。

 

 「とりあえず今日は久々にしっかりした食事をして早めに休みましょうですわ! 明日からこの先の旅に入り用な物なども買い入れなければなりませんわ」




 あたしはそう言って久々にちゃんとした料理を頼むのであった。  

   

 


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