第271話10-13美しきもの
10-13美しきもの
あたしたちは次なる詰め所へと向かっていた。
しかしその向かう詰め所へとは何故か床一面にどくだみの花が散らばっている。
「なんでこんなところにどくだみの花が散らばっているのよ?」
駆けながらシェルはそう言う。
もちろんあたしだってそんなのは知らない。
一応同調して感知魔法を働かせてみるけど特に害は無い様だ。
「悪魔の考える事、十分に注意してください、主様!」
後ろからついて来るコクはそう警戒をする。
「お姉さま、見えてきました!」
見ると階段を登り切った所に次なる詰め所が見えてきた。
クロさんやクロエさんの姿が見えないところを見るともう中に入ったか?
ほどなくあたしたちは詰め所の扉に辿り着く。
そしてショーゴさんがその扉を開けた。
『あらぁ、次のお客さんかしらん?』
野太い声なのに妙にしなりの有る声が聞こえてきた。
そして見ると‥‥‥
そこに化け物がいた!!
『ようこそ来たわねぇん、愚かなる人間どもよ、さあ、美しいあたしが相手してあ・げ・る♡』
筋肉隆々の髭面のおっさんがマリ〇ンモンローのような髪型で体のラインがはっきりと出るドレスを着こんでしなっている。
ご丁寧にセリフの最後には片目ウィンクで投げキッスまでしてくる。
「ぐっ!! 主様、これは耐えられません!!」
そう言ってコクはその場で倒れる!?
よくよく見ればあたしたちの前には同じくクロさんとクロエさんも倒れている!?
「コク、クロさん、クロエさんですわ!!」
『うふっ、私の美貌にみんな、い・ち・こ・ろ・よ』
コクを抱きかかえるあたしだが、コクは魂が抜けたかのように目の焦点が合っていない。
そして小声で変態、変態、変態と繰り返している。
「うげぇ、エルハイミ、あたしもちょっとタンマ!」
「お、お姉さまこわいぃっ!!」
「ぐ、これはきついな。見ておれん」
シェルは手を口に壁の向こうに行って嘔吐始めてしまった。
イオマもあたしにしがみつき、まるでこの世の終わりのような顔をしている。
ショーゴさんでさえ心底嫌そうな顔をしている。
「あなたは一体何者なのですの?」
『あらぁん、あたしにはかなわないけど結構かわいい子ね? あたしは美の悪魔よぉ。あら、そちらのお兄さん好いお・と・こ♡』
あたしの質問に最後にはショーゴさんに向けて回答しながら腰をくねらせる。
何故かショーゴさんは両手でお尻を隠すが、どうも防衛本能が働いたようだ。
「あ、主よ、こいつは危険だ、ものすごく危険だ! 俺の第六感どころか第七感までもが危険信号を発しているぞ!!」
あー、確かに男性のショーゴさんは身の危険を感じるかもしれない。
でもそうするとクロさんは大丈夫だったのかな?
『うふっ、久しぶりの好い男だわねぇ。やっぱり若い男はいいわぁ、美味しく頂いちゃおうかしらぁん。あ、でもでもぉ~女には用がないからさっくりと殺してあげるわねぇ~』
そう言って両手を広げどくだみの花を舞い散らす!
その花吹雪は渦を巻きあたしたちに迫ってくる。
あたしは慌てて【絶対防壁】を展開した。
『あらぁん、生意気にあたしの攻撃を遮ったのぉ? いけない子ねぇ、悪い子には特別なお仕置きしちゃうわよぉん!』
そう言って両手を床に着く。
すると今度は床から無数の触手が伸び出た!!
「ひっ! お、お姉さまっ!!」
イオマがさらにしがみついてくる。
シェルも青ざめて壁を背に隅っこで固まっている。
『さあ、女どもはこの触手で壊してあげるわよぉ~ 男はあたしがどんどんと楽しんであ・げ・る、どん、どん!』
そう言ってショーゴさんを見ながら膨らんだ股間を前後にふる。
「いやぁぁっ!! 変態ぃっ!!」
そのあまりにも衝撃的な光景にイオマも口から煙を吐いて気絶する。
ショーゴさんもなぎなたソードを構えた手をお尻に持って行き二歩三歩下がる。
「ぐっ、どういう事だ力が入らない。そしてこの背筋を走る悪寒はなんだ!?」
頬に一筋の汗を流しながらショーゴさんはこの悪魔を睨む。
うねうねと動く触手はお約束通りぬるぬるとした液体をたずさえている。
こんなのにつかまったらどう考えても乙女のピンチだ!
「う、うわぁっ!来ないでぇっ!!」
プレッシャーに耐えきれなくなったシェルが矢を放つ。
しかしその矢はあっさりと触手にはじかれ床に落ちる。
「うそっ! あたしの矢が刺さらない!?」
『危ないわねぇ~ 特別にローションをたっぷりと染み込ませているから触手ちゃんには傷一つ付けられないわよぉ~ さあ、お前たちやっておあげなさい!』
その一言で無数の触手が襲い来る!!
あたしはもう一度【絶対防壁】を展開しながら【炎の矢】を作って打ち出す。
しかし【炎の矢】は触手に簡単にかき消されてしまう、そうあのぬめぬめした液体で!!
あたしも心底ぞっとする。
ショーゴさんも片手でお尻を押さえながら襲い来る触手を切り落としているが数が多い。
と、クロさんとクロエさんが触手にからめとられる!?
触手はぬめぬめとクロさんとクロエさんの両手両足や体を絡め取り宙吊りにする。
ああっ!
やばいっ!!
クロエさんもそうだけどクロさんの襲われる様子は更に見たくない!
くうっ、こうなったら!
あたしはシェルやショーゴさん、クロさんクロエさんにも絶対防壁をかけて一気に勝負に出る。
「【雷龍逆鱗】!」
あたしの魔法が発動して部屋いっぱいの魔法陣が天井に現れる。
そしてそこから容赦ない落雷の豪雨が降り注ぐ!
どがあがががががぁぁぁんっ!
どうだ!?
落雷を受けたこの部屋はうすい靄がかかっている。
見れば触手たちは動きを止めている?
やったかっ!?
あたしがそう思った次の瞬間だった。
「にょぇえええぇえぇぇっ!!」
「シェルっ!?」
壁際にいたシェルがいきなり悲鳴を上げて触手にからめとられている!?
「ぐおぉおぉぉおおおおぉっ!!」
今度はショーゴさん!?
『あっぶないわねぇ~ 触手を展開していなかったら流石のあたしも黒焦げだったわぁん。あなた、なんて危ない子なのかしら? いいわ、あなたは特に念入りに壊してあげるわぁ』
見れば触手に包まれていたあの変態悪魔は触手を避雷針代わりに難を逃れた?
まだあの悪魔にまとわりついている触手の表面はぱちぱちと電気が流れている。
止まっていた触手も動き出しあたしに殺到する!
「ひょえぇえぇぇぇぇぇっ!! 【絶対防壁】!!」
あたしはコクとイオマを抱えたまま防御魔法で迫りくる触手を防ぐ。
「いっ、いやぁぁあああぁぁっ!」
悲鳴の先を見るとシェルが触手に蹂躙され始めた!?
ぬるぬるとうごめくそれはシェルの体を絡めとり、服の中に入り込み始めている!
見ればそれはクロさんやクロエさんにも始まっている。
や、やばいっ!
シェルやクロエさんの乙女がぴーんちっ!
『あらぁ、あなたはこっちよぉ~ んふ、本当にいい男ねぇ~♡』
「うわぁっ! や、やめろぉぉおおおおぉっ!!」
ショーゴさんの本気の悲鳴をあたしは初めて聞いた。
「もぐぉおっ!!」
シェルは既に口を触手でふさがれている。
ぬめぬめとしたそれは止まることを知らずシェルの足に、太ももに絡まり始める!?
『エルハイミっ! 早く何とかしてぇ!! 本気でやばぁいっ!!』
たまらずシェルは念話であたしに助けを求めてくる。
「ううっでいやがります‥‥‥」
「ぬおぉぉ‥‥‥」
クロエさんなんか既にスカートの中に触手がぁ!!
クロさんもだんだんと服をはぎ取られていく!?
きゃぁーっ!
本当にピンチよぉっ!!
「しょ、召喚獣ぅっ!!」
あたしがパニクっているとイオマがいつの間にやら【召喚魔法】を唱えていた。
そしてその召喚獣はあの変態悪魔の目の前に姿を現す。
みょーん、ぽんっ!
『って、何々これぇっ!! いやぁあぁああああぁっ! あたしは大の虫嫌いなのよぉっ!!』
イオマが召喚したそれはロックキャタピラだった。
あの見た目の気持ち悪いけど電撃でこの芋虫を焼くと蝦みたいなプリプリな触感で甘みのある味、そしてあたしの黒歴史。
ボテっと床に落ちたそれは普通のロックキャタピラより小さいがそれはもそもそと変態悪魔ににじり寄って糸を吐いた。
『いやぁあぁぁあああっ! 気持ち悪いわぁっ!』
いや、あんたの方が数万倍気持ち悪いわよ!!
心で突っ込みを入れたあたしだったがこれのおかげで触手の動きが止まった。
ちゃーんす!!
あたしは魔導士ライトプロテクターの両肩についていた長めの板を二本はずし腰から片手の発射台を取り出す。
そしてその二枚の板を発射台に取り付け懐からあの超高圧圧縮金属ミスリルと他の金属をくっつけたモノを取り出し発射台に固定する。
そしてあの変態悪魔に向かってあたしはそれを撃ち出す!
「【超電導雷撃】!!」
それは爆発するかの如く二本のレールにプラズマの火花を散らせながら光の矢となって変態悪魔にに吸い込まれていく。
カッ!
どがぁぁあああああぁぁぁぁんんっ!!
『ひあぁぁあああああぁっっ!! だめぇっ、逝っちゃうぅぅぅぅっ!!』
変な悲鳴をあげながら変態悪魔は大爆発の中、詰め所の壁ごと天高く吹き飛ばされ燃え尽きる。
ぶはぁっ。
あたしは心底嫌な気持ちを思い切りお腹の中から息と一緒に吐き出した。
そしてシェルの元へ駆けつける。
「シェル、大丈夫ですの!?」
ちぎれた触手を吐き出しシェルは泣き出した。
「ううっえぇっ、え、エルハイミ、あた、あたしぃ~」
ええっ?
まさか、シェル!?
あたしは慌ててシェルの太ももを見る。
するとそこには赤い何かが!!!?
「ま、まさかシェル!? ど、どうしましょうですわぁ!! と、とにかく【回復魔法】い、いえ、【治療魔法】じゃなくて!!」
慌てるあたし、しかしシェルは泣きながら小さな小袋を取り出す。
「うえぇぇええん、せっかく楽しみに取っておいたラズベリーの袋つぶされたぁ!! あれが最後だったのにぃ!!」
ら、ラズベリー??
よくよく見るとシェルの太もも付近についている赤っぽいものはジャムだった。
お、おいっ!
あたしのこの驚きをどうしてくれるの!!
心底、本当に今回は心配したって言うのに!
怒り半分安堵半分、あたしはシェルに浄化魔法をかけてぬめぬめともども奇麗にしてやる。
そしてクロさんとクロエさんの所へ行く。
「ふう、全くシェルには驚かされましたわ。クロさん、クロエさん大丈夫ですの?」
あたしはそう言いながら触手を取り外していく。
クロさんはまだましだったがクロエさんはスカートの中にまで触手が入り込んでいた。
あたしはそれらを無造作に引っ張っていく。
ずるっ
ずるっ
ずっ‥‥‥
ぽんっ!
「ああぁんっ!!」
最後のなかなか抜けにくい触手を引っ張たら変な音がしていきなりクロエさんがよがった声をあげる!?
「ク、クロエさん、まさかですわっ!?」
「ううっ、大丈夫でいやがります。不幸中の幸いで、う、後ろでいやがりますです。」
え?
う、後ろって‥‥‥
あたしは呆然としてしまったがクロエさんはこちらを向いてほほを染めながら真っ赤になっている。
そしてやたらと熱っぽい視線であたしを見ている。
「あ、主様が強引にするから何かに目覚めてしまいましたでいやがります‥‥‥ せ、責任を取れでいやがります!」
せ、責任って‥‥‥
何かに目覚めるって‥‥‥
え”え”ええぇぇぇぇぇっ!?
「お姉さま、ひどいです! 私頑張ったのにクロエさんだけご褒美なんて!」
「う~ん、変態ぃ~」
「うっくっ、最後だったのにぃ~」
文句を言いながら抱き着いてくるイオマ。
まだ気絶しながら唸っているコク。
泣き止まないシェル。
そして‥‥‥
「か、体は許しても心までは許さないでいやがります! ‥‥‥で、でもたまにならして欲しいかもでいやがります (ぽッ)」
クロエさんまでなんか変になっちゃってるぅ!?
「うむ、大丈夫かショーゴよ?」
「う、うおっ!? ク、クロ様そんな格好で俺に何をしようとしているんだ!?」
触手に上半身裸にされた初老の細マッチョなクロさんは触手に絡め捕られていたショーゴさんをを助け出すがなぜかショーゴさんは触れられるたびにびくびくと怯えている。
どうすんのよこの状態‥‥‥
あたしはもう一度心底嫌な溜息を吐くのだった。
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