第261話10-3首なしの騎士

 10-3首なしの騎士


 

 丘の上から見える町は静かだった。


 

 あたしたちはこれから眼下に見える町に攻め込む。

 事前情報では住民は全滅、今あの町にいるのは死したる動く屍たち。

 

 「ふっふっふっ、黒龍様、ここは私めにお任せください。完膚なきまでに叩き潰してご覧にいれましょう」


 そう言ってクロさんはずいっと一歩前に出た。

 いよいよ攻め込むのか!


 あたしは気持ちを落ち着かせてクロさんが動き出すのを待った。


 しかしクロさんは意外な事にそこから動かず大きく息を吸い込んだ。

 そして……



 ぶごぉぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉっぅぅぅぅっ!!!!!



 いきなりドラゴンブレスを吐き出したぁ!?

 その業火は一瞬で眼下の町を焼き尽くす!



 「えーと、エルハイミこれってあたしたちいる意味あるの?」


 「クロ様容赦ないですね~」


 「クロ様流石ですがあの大きな屋敷が残ってしまいましたよ? 次は私が」


 「クロご苦労様です。さあ主様リッチを始末しに行きましょう!」



 炎に焼かれ動き回っていたゾンビやグールたちは既に動かない屍、いや消し炭になっている。


 

 もしかして終わっちゃった??

 


 あたしは呆然としていると唯一焼き残った館から馬に乗った何かが慌ててこちらに向かってきた。  


  

 どどどどどどどどどっ



 『どこのどいつだぁっ!! いきなり町に爆炎魔法ぶち込みやがったのはっ!?』



 それは大声で叫びながらこちらにやってきた。

 よくよく見ると全身を鎧に包んだ騎士だがその頭は小脇に抱えられている。

 そう、彼こそが首なし騎士のデュラハンだ!


 「いや、あれはドラゴンブレスであって爆炎魔法じゃないわよ?」

 

 シェルが律義にデュラハンに答える。

 デュラハンは掲げる頭をシェルに向ける。



 『ドラゴンブレスだとぉ!? あんなに爆発的なモン黒龍でも無ければできんだろぅ!? と言うか、お前ら何モンだ!?』



 なんかずいぶんと元気な奴ね?



 「黒龍ならここにいます。デュラハンよ道を開けなさい、私はリッチに用があるのです!」


 コクがそう言ってデュラハンを睨む。

 デュラハンはシェルの時と同じく文字通り頭だけコクに向ける。

 

 『どこに黒龍がいるというのだ? 何だこのちんちくりんなガキは!?』



 びきっ!



 あ、クロエさんの額におこのマークが‥‥‥


 あたしがそう思うと同時にクロエさんは目にも止まらないスピードでデュラハンにとびかかりスカートを翻しながら見事な蹴りを入れる。



 ぼごぉん!

 どがぁんんっ!



 デュラハンは馬から蹴り飛ばされ盛大に転がりながら土煙をあげて地面にめり込んだ。



 『ぶはっ! いきなり何しやがるんだ!?』



 「貴様こそ黒龍様に対する無礼、万死に値するでいやがります!」


 頭だけ先に地面から覗かせて文句を言うデュラハンにクロエさんは再度とびかかりまたもやスカートを翻しデュラハンの頭を蹴り飛ばす!



 『あーっ! やめんかっ! 何お約束な頭だけ蹴飛ばすんだぁ!! ぶぅっ!』



 ぼごぉ!



 見事に頭だけ蹴飛ばしされたデュラハンは頭を地面に何度もはねさせる!

 それを地面から抜け出した体が必死に取り戻そうと動き回る。


 そしてやっとの思いで頭をキャッチした体はなぜか肩で息をしながら頭の埃を払いこちらに頭を掲げる。



 『くっ、黒い下着をちらつかせて私の気を引いても無駄だぞ! わが身は不死身! この程度の物理攻撃など何らダメージになどなっておらんぞ!』



 「誰が下着のただ見を許しやがりました?」



 そう言ってクロエさんはいつの間にかデュラハンの後ろに立っていて言うや否やぼっこぼこにデュラハンを殴り始めサンドバック状態にする。



 『くはっ、こ、この程度のパンチ効かんぞっ! ってちょっとマテ鎧がへこむじゃないかっ! ぐはっ! そこはだめだってっ! ぐぼっ! ちょっ、ちょいタンマっ!!』



 えーと、物理ダメージがほとんど効かないんじゃなかったっけ?



 哀れデュラハンはクロエさんにボコられながら鎧の形を変形させていく。

 ひとしきりボコられたデュラハンは最後にクロエさんのアッパーを喰らって宙に舞ってから頭ともども地面に落ちる。



 『ぜぇぜぇっ、な、なんで物理攻撃なのにダメージがっ!?』



 ぼろぼろになりながらもなんとか立ち上がるデュラハン。

 既に鎧はぼこぼこにひしゃげている。


 「ふんっ、私の拳には魔力付加がされているのでいやがります。いくら貴様が物理攻撃に強くても魔力付加された拳の前ではダメージを受けるのは当然でいやがります」


 クロエさんはそう言ってシュッと拳をデュラハンに向ける。


 『お、おのれっ! 貴様らこうなったら呪ってやるぞ! 貴様らはこのデュラハンの呪いで死ぬのだ!! この俺が指さし呪いをかければもう死から逃れることは出来んぞ! どうだ参ったか! 怖いだろ、恐れおののきながら恐怖の淵に死にゆくがいい!』


 そう言ってデュラハンはクロエさんやあたしたちを指さす。

 とたんに体に何か重いものがのしかかったような感じがする。 

 

 『はっはっはっはっ! 呪てやったぞ! もうこれでお前らは逃げられん! いい気味だ、ざまーみろ!』


 大笑いして勝利宣言をしているデュラハン。

 しかし‥‥‥



 「【解除魔法】」



 あたしのその一言でその呪いはあっさりと消えた。



 『へっ?』



 更にクロエさんが自分の手のひらに自分の拳をパンっと打ち鳴らしながらデュラハンの前に立つ。


 「その程度の呪い怖くも何ともないでいやがります。それに貴様をぶち殺せば呪いは解除されやがりますしね、もっとも主様がさっさと呪いを解除しちまいやがりました、全く余計な事をしやがります」



 『えっ、ちょっとまて、なんでそんなに簡単に俺の呪いが解除されるんだ!? おいこら、人の話聞けよ! 待て待てこっち来るなよ、お前の拳は痛いんだって!! ちょっ、ちょい待ちっ! や、やめろ、やめてっ! いやぁああああぁっ!!』



 ぼごんっ!



 クロエさんのストレートが奇麗に決まってデュラハンは見事に消滅してしまった。



 えーと‥‥‥



 「ふんっ、黒龍様を馬鹿にしやがるからです。思い知りやがりましたか!」


 そう言ってクロエさんはこっちに戻ってきた。





 開始からわずか約三十分、あたしたちはデュラハンの守るこの町を消滅させたのだった‥‥‥

  

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