第246話9-18休息

 9-18休息



 さすがに疲れたので今は休憩に入っている。


 

 とはいえ、一休みしたら黒龍様とやらの所へ行かなきゃだ。

 向こうの方を見るとクロさんとクロエさんがあの半透明の殻のようなものに辿り着いていた。


 「はい、エルハイミ」


 シェルがそう言って水筒を渡してきた。

 あたしはお礼を言ってからそれを飲む。



 あっ、これって果実のジュースだ。

 少し甘いので疲れた体にしみわたるぅ~。



 「ありがとうございますですわ、シェル。おかげで生き返りましたわ」


 あたしはそう言ってシェルに水筒を返す。

 シェルは今度はそれをイオマに渡す。


 「はぁはぁ、お、お姉さまが飲んだ水筒‥‥‥ か、間接キッス!?」


 そう言いながらイオマは舐め回すかのように水筒の口に自分の口をつけて中身を飲んでいく。


 「うわっ、イオマ、それあげるから返さなくていいわよ!」


 ドン引きのシェルだがイオマは嬉しそうにしている。

 あたしはその一連を生暖かい目で見てから修理が終わったショーゴさんの義手の様子を見る。


 「それで、どうですのショーゴさん、義手は問題無く動きまして?」


 「ああ、主のおかげですこぶる調子がいいぞ、これでまた戦える」


 あたしは安堵の息を吐いてからクロさんたちを見る。



 さて。


 

 「それでは私たちもむこうに行きましょうですわ」


 そう言って立ち上がる。

 ショーゴさんやシェルもあたしに倣って歩き出す。


 「うわ、お、お姉さまぁ~ おいて行かないでぇ~」


 あたしたちに少し遅れる事水筒を舐め回していたイオマもついて来る。



 * * *



 「来たか。少しは休めたか?」


 「はい、一息入れさせてもらいましたわ。それで状況はですわ?」


 クロさんは黒龍様が張っている結界を見ながら言う。


 「どうやら外界との遮断を目的とした結界のようだ。こちらから黒龍様に話しかけているが全く通じていないようだな」


 「外界と? 何故ですの?」


 クロさんは首を横にふりため息をつく。


 「皆目見当がつかん。我らの呼びかけにも全く反応をされないとは、一体何が起こっているのやら……」



 あたしは結界の中を見る。


 そこには真っ黒なうろこの大きな、多分百メートルは下らない大きさの黒い竜がうずくまっている。

 これが神代より生きながらえる最古の竜か!?

 年輪を重ねたそのうろこはまるで鉱石のように黒い輝きを称え美しく黒光りしている。

 大きな翼に長い尾尻、力強そうな後ろ脚。

 長い首を折り曲げ腕の上へと頭を乗せている。

 恐ろしくも精悍なその顔はまさしく神話に出てくる本の挿絵に書かれたものと同じだった。  


 あたしは驚きと興味からその巨体をまじまじと観察する。


 すると背中の一部が他の鱗と違う。

 よくよく見るとそこは腐っている?



 「クロ様、黒龍様はお怪我をしているのですの?」



 「いや、お怪我はないはずだ。ただあの忌々しい呪いが完全に解除されずその呪縛から逃れる為にこうして眠りについておられるはずだ」


 「そうしますと背中のあれはお怪我ではないのですの?」



 「なにっ?」



 あたしはクロさんに背中の腐っているようなところを示す。

 するとクロさんもクロエさんも驚いているようだ。


 「有り得ん。最近まではあのようなも無かったはず、一体どういう事だ!?」


 「クロ様、もしやあれが原因で黒龍様は結界を張られ鏡写し秘術をお使いになられたのでは?」


 どうやらクロさんたちも初めて気づいたようだ。

 その腐っているような場所を見ながら動揺している。



 となるとあの腐った所は最近始まったと言う事か?



 あたしがそんな事を考えているとシェルが寄ってきた。


 「ねえエルハイミ、あれってエルフの村で起こった呪いに似ていない?」


 シェルがあたしにそう言ってくる。

 でもエルフの村で起こった呪いは体が黒く変色していってエルフのみんなが徐々に弱っていくものだった。

 こういう風に腐ってはいないはず。


 「シェル、黒龍様は体の一部が腐敗を始めているようなのですわ。エルフの村の呪いとは‥‥‥」


 あたしはそこまで言ってシェルが言いたいことを理解した。

 そう、見た目の話ではなく「命の木」の世界でのことを言っているのだ。


 呪いとは単純に目に見える所だけでその効果を発揮するわけではない。

 場合によっては「命の木」の世界、精神世界のような場所でその影響を伸ばす場合もある。


 シェルは眉間にしわを寄せて言う。 


 「あたしにははっきりは分からないけどなんかそんな雰囲気がひしひしと伝わってくるのよね」


 シェルは両手で自分の腕を抱きぶるっと身震いする。

 しかしその直感は当たっているのかもしれない。



 あたしはすぐに同調をして感知魔法を発動させる。


 そしてあたしが見たものは巨大なマナと魔力の塊の黒龍に纏まり付く薄い靄のようなもの。

 しかし肉眼では見えないそれはこちらの世界のモノではない?



 「クロ様、亡者の王リッチがかけた呪いは確か従属の呪いとおっしゃってましたですわね? それはもしかして魂に対するモノでしょうかしら?」


 「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンよ、よく知っているな。その通りだ。肉体的束縛はたとえ亡者の王リッチと言えどままならん。なのでリッチは巧みに黒龍様を罠にとらえその魂からの浸食を試みている」



 やはりそうか!

 そうするとシェルの感は当たっている。

 だんだんと全容が見えてきた。



 あたしはさらにクロさんに質問をする。


 「クロ様、クロ様は精神世界へ行かれた事はございますの?」


 「いや、我らはそちらの世界に干渉する術を知らない。我らは暗黒の女神ディメルモ様とそのげぼくである黒龍様よりディメルモ様の居城を守ることを命として受けている。他の世界、精神世界に干渉する力は与えられていない」


 なるほど、目的に特化した力しか与えてられないのか。

 となるとあたしが今見ている事はどうやら正しい様だ。



 あの黒いモヤはたぶん呪いが漏れ出しているのだろう。

 精神世界、魂自体に束縛の呪いをかけて従属をさせ、こちらの世界の肉体の自由を奪おうとしている。

 亡者の王リッチがかけた呪い、多分この呪いは対象を徐々に弱らせ最後にはアンデットと化した肉体を従属させるもの。


 魂亡きアンデットと違い体が腐っても魂が残っているのでその力は通常のアンデットドラゴンの比ではない。

 腐った体でも魂との同調が出来るからだ。

 そして自分の体のダメージを気にしないで動き回るそれは脅威以外の何物でもない。




 あたしは皆を見渡し、あたしが見ていることを要約して話始めるのであった。   

   

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