第237話9-9試練の道

 9-9試練の道



 「さあ、ついたでござるよ!」



 エリッツウィンさんのその声にあたしたちは心底安堵の息を吐く。

 ちょっと予定より遅れたけどあたしたちはいよいよ『試練の道』の入り口に着いた。



 長かった。

 本当に長かった。



 シェルのマスクのおかげで頭もはっきりしていたので後半戦の一ヵ月近くは今まで以上に物事がはっきりしていたので余計に長く感じた。


 しかしそれも終わりが見えた。

 いよいよ『試練の道』の入り口があたしたちの目の前に現れたのだ。



 「でも驚きですわ。この入り口ってあからさまに人の手が加わっていますわ」



 紛れもない人口のそれは床どころか壁、天井まできれいにブロックで作り込まれている。

 なんかお城か何かの通路みたいな感じがする。



 「それでは儂はこれにて失礼するでござるよ、エルハイミ殿たちもこの先お気をつけて。ご武運をでござる」



 エリッツウィンさんはそう言って踵を返す。

 あたしたちはお礼を言って彼を見送る。


 これからあの道を二ヵ月もかけて帰るのかぁ。

 ほんと、ありがとねエリッツウィンさん。




 さて。


 あたしたちは『試練の道』に向かう。

 名前からしてきっと何か試されるのだろう。

 あたしたちは気を引き締めてその人工の床に踏み入ったのだった。 



 * * * * *



 「明かりよ」


 あたしは明かりの魔法を発動させていた。

 この通路に入って少しするとあのぽわぽわの植物は無くなっていて普通の迷宮ぽくなってきた。

 いきなり何かに襲われるのは嫌なので感知魔法も発動させながら用心して歩いていく。



 すると‥‥‥



 『汝、これより先暗黒の女神ディメルモ様の居城と知っての到来か?』



 頭の中に直接その声は聞こえてきた。


 「はい、承知の上で参りましたわ!」


 あたしは声に出してそれに応える。

 するとまたあの声が頭に聞こえてきた。



 『なればそれにふさわしき者か試させてもらう。自信がなければ引き返すがよかろう。その意志ある者のみ前に進め』



 声はそう言って途切れた。

 あたしたちは無言でうなずきあいその先に進み始めた。


 しばらくするといきなり床や壁や天所が光り始めた。

 いよいよ試練の始まりか?


 その光はあたしたちを完全に包み込む。

 まばゆいその光に思わず目をつむる。

 そしてあたしたちは‥‥‥



 * * *



 ふと気が付くとあたしは和やかな雰囲気の中あたしの誕生日を祝ってくれる人々の挨拶に追われていて疲れているところだった。


 もう三桁以上の人と会っている。

 流石にもう名前と顔を覚えるのが嫌になってきている時だった。


 あたしの前に真っ赤な髪の色で元気そうな女の子が現れる。

 あたしと同じ碧眼で美しいその顔立ちは紛れもない、ティアナだ!



 「あっ」



 「あなたがエルハイミね? まずはお誕生日おめでとう! 私は貴女の親戚でティアナと言うものよ!」


 彼女はそう言って握手の為手を出してきた。

 思わずその手を取ろうとしたあたしは、はたと思いとどまる。

 お忍びで来た陛下の孫娘であるティアナ殿下にちゃんとした挨拶をしなきゃいけない。

 

 「お祝いのお言葉、ありがとうございますわ。ティアナ様、本日は私めの誕生日会にご出席いただき誠にありがとうございますわ。どうぞ、楽しんでいったくださいまし。」


 ほかの人よりやや丁寧に挨拶をしておく。

 そして作法通りにスカートの裾を持ち上げ軽く頭を下げる。



 「‥‥‥そんな他人行事なことしなくてくれなくてもよかったのに。あたしは貴女とお友達になりたかったのよ」



 え?

 お辞儀から顔を上げるとティアナは冷めた目であたしを見ていた。

 

 「ティ、ティアナ?」

 

 あたしは慌ててティアナが引っ込めようとした手を取ろうとする。

 するとティアナがいきなり光り出して思わずそのまぶしさに目をつむる。



 * * *



 「あ、あの私は一体‥‥‥」

 

 その言葉はあたしの口から出たモノだった。

 見ると目の前に涙を流しているティアナがいた。


  「エルハイミ、あなた本当に危なかったのよ! 私に全魔力を注ぎ込み続け、さらにイフリートをゴーレムと一体化して安定させるために大量の魔力を注ぎ込み足らない分をあなた自身の生命力を魔力に変えてたのよ!」


 衝撃の真実!

 あたしはそう、ティアナの為にアイミを作り出したのだった!


 ベッドからティアナに助けられて座っていたけどそう、大魔導士杯の決勝戦であたしは命を魔力に変えてまでティアナの為に勝とうとしていたんだっけ。


 「え、ええと‥‥‥」



 「余計な事よ‥‥‥ 自分が死んだら意味が無いじゃない?」



 「えっ?」


 ティアナを見るとまた冷めた氷のような目であたしを見ている。


 「ティアナ?」


 あたしが思わずティアナに振り向き話しかけようとするとまたティアナがまばゆく光る!

 あたしはまたまたそのまぶしさに目を閉じてしまった。



 * * *


   

 あたしは全裸のティアナに覆いかぶさりながら最近大きくなったその胸に奉仕、いやマッサージしていた。


 「あああぁぁん! エルハイミぃ!」


 「ちゅぱっ! んんっ、はぁはぁ、ティアナぁ‥‥‥」


 そうだ、もうすぐゾナーとの勝負だった。

 もう充分に大きくなっていて勝利は確実のはず。

 でも勝負とは関係なくあたしの心はティアナを欲していた。



 「んふっ、エルハイミったらそんなにあたしが欲しいの? 勝負の為にあたしの胸を大きくするとか言って実はあたしの全てが欲しかったんでしょ? あたしをあなたのモノにしたくてしたくてしょうがないのでしょ?」



 え?

 あたしは口でティアナの胸に奉仕、マッサージしてたのをやめてティアナを見る。

 そこにはあの冷めた目が有った。



 「結局貴女は自分の為にあたしの体を欲していたのよ? 自分も気持ちよくなりたくて。胸を大きくするなんて良い口実よね?」



 ティアナはそう言って冷たい笑いをする。


 違うっ!


 あたしは心の奥底からそう思う。

 

 「ティアナ! 私はっ!!」


 そう言いティアナの顔の前にあたしは向かったその瞬間ティアナが光って思わずそのまぶしさにあたしは目をつむる。



 * * *  


 

 「エルハイミ! 駄目来ちゃ!!」


 「ティアナ!!」


 あたしはあの暗黒の渦の中に飛び込んでティアナを追っていた。

 考えるよりも何よりも先に体が動いていた。

 

 「させない! させませんわぁ!!」


 そう言いながら飛び込んだあたしはかろうじてティアナに追い付けた。

 そして抱き合うあたしとティアナ。


 「失敗しちゃったね、エルハイミ。ごめん、巻き込んじゃった‥‥‥」


 「違いますわ! グランドアイミの胸部クリスタルにひびが入っていましたわ!! おそらく巨人に殴られた時にダメージを負っていて四連型のフルバーストに耐えられなかったのですわ!! この暴走はティアナのせいではありませんわ!!」

 

 あたしはそう言いながらもう一度強くティアナを抱きしめる。

 こんなに不安な場所にいるのにティアナがいるだけでその不安がかき消される。



 「エルハイミ、どうしていつもいつもそうして無理をするの? あたしの事なんかほっておいて自分だけを大切にすればいいものを」



 「え?」


 あたしは驚いてティアナを見る。

 するとそこにはあの冷めた眼差しが。



 「何度も何度もあたしの為と言いながら本当は自分が悲劇のヒロインにでもなりたいんじゃないの? あたしの事なんか放っておけばもっと良い思いが出来たかもしれないのよ? なのに何故?」



 ティアナのその突き放すような物言いにあたしはショックを受ける。


 でも‥‥‥


 「私はそれでもティアナが好き! あなたの為なら例えこの身が滅びようとかまわないのですわ!!」


 あたしは心からそう思っている。

 するとティアナが笑った。



 『汝の思い聞き届けた。暗闇の中にもうずもれぬ汝の思い、その心意気に免じて前に進むことを許そう』



 頭の中にあの声が聞こえる。

 そして‥‥‥



 * * *

 

 

 あたしははたと気付くと大きな両開きの扉の前に立っていた。


 ちょっと頭がくらくらするけど他には問題無い様だ。

 なんとなく周りを見るとあたしの隣にシェルとショーゴさんが同じようにぼうっと立っていた。

 そして二人もはっと我を取り戻しあたし同様周りを見る。



 『心強き者たちよ、汝らに最後の試練を与える。暗黒の女神ディメルモ様の居城に踏み進む力があるか試させてもらう。準備が出来たらその扉をくぐるがいい』



 そう言ってその言葉は聞こえなくなった。


 「全く、なんて悪趣味なもの見せてくれるのよ!」


 「それについては同感だな」


 「お姉さまぁ~、怖かったぁ~」


 どうやらシェルもショーゴさんもイオマまでも同じよな目にあったようだ。

 確かにあれは悪趣味だ。


 「でも、お姉さまのああいう一面もそそられます~、 こ、今度もっといじめてくれてもいいんですよぉ~」


 なんか一人ご褒美になっているようなのがいるような‥‥‥


 「力があるか聞いていましたわね? そうなるとこの扉の向こうには‥‥‥」


 「ひと暴れ必要って事ね!」


 「準備はいつでもいいぞ、主よ」


 「え、え? もう行くんですか?? うう、お姉さま、おいていかないでぇ~」




 あたしたちは先ほどのうっ憤をぶちまける為に扉に手をかけるのであった  

  

      

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