第227話8-29命に代えても

 8-29命に代えても



 「させない! させませんわぁ!!」




 あたしはそう叫び暗黒の渦の中に飛び込む。


 「エルハイミ!」


 「主よ!!」


 あたしを追ってシェルやショーゴさんも飛び込んできたようだ!?


 しかしあたしはそれよりなによりティアナを探す。

 


 「エルハイミ! 駄目来ちゃ!!」


 「ティアナ!!」



 あたしは何とかティアナにたどり着き抱きしめる!


 『参ったわね、これってどこに続くのよ!?』


 シコちゃんがあたしたちに聞いて来るけどもちろんあたしだって知らない。


 右も左も上も下もよく分からない空間。

 ただそこで抱き合っているあたしとティアナ。


 「失敗しちゃったね、エルハイミ。ごめん、巻き込んじゃった‥‥‥」


 「違いますわ! グランドアイミの胸部クリスタルにひびが入っていましたわ!! おそらく巨人に殴られた時にダメージを負っていて四連型のフルバーストに耐えられなかったのですわ!! この暴走はティアナのせいではありませんわ!!」


 「エルハイミ‥‥‥」


 あたしの必至なその言い草にそれでもティアナは済まなさそうな表情をする。

  


 「エルハイミ!!」


 「主よ!」



 声のした方を見るとシェルとショーゴさんだ。


 

 「なにしてるのよシェル、ショーゴ!! あなたたちまで来ちゃだめでしょう!!」


 怒るティアナ。

 しかしシェルもショーゴさんも気にした風ではない。


 「怒ってる場合じゃないわよ! それよりまだ入り口が見える! 何とかみんなであそこにたどり着けないの!?」


 あたしは言われた方を見る。

 確かに飛び込んだ入り口がまだ光っている。

 しかしどうやら入り口が小さくなっているのかあたしたちが入り口から離れていくのか分からないけどその光は徐々に小さくなっていく。


 あたしは周りを見る。


 何もない真っ暗な空間。

 幸い空気はあるが無重力と表現して間違いない感じ。



 そうなるとあそこまで行くには何かであたしたちを押さなければならない。


 

 「シェル、風の魔法は使えまして?」


 「駄目ね、精霊のセの字も感じないわ」


 「ショーゴさん、アサルトモードであの光と反対方向に光弾を発射してみてくださいですわ!」


 「わかった! アサルトモード! 行くぞ、はっ!!」


 ショーゴさんの両肩から発射された魔光弾は実体が無いのでやはりその反動で押し出される事は無かった。

 ではあとは爆破か何かさせてその反動で‥‥‥



 だめだ、四人の質量が大きすぎる。

 四人分のの質量が動くほどの爆発では体がもたない、ケガをしてしまう。


 あたしは考える何か土台があればそれを基準に反発する力であたしたちを押し出せるのに‥‥‥


 「エルハイミ‥‥‥」


 ティアナが心配そうにあたしの名を呼ぶ。


 そこであたしは決断をした。


 ティアナの顔を両手で押さえ口づけをする。

 無理やり舌をティアナに入れティアナの味を確かめる。

 驚いたティアナだがこんな時でもあたしを受け入れてくれる。


 うれしさがこみあげてくる。


 そしておもむろにティアナから離れる。

 あたしの唇とティアナの唇の間に唾液の橋がきらめき消えた。



 「なにしているのよ、あんたたち! こんな時に!!」


 シェルが文句を言うがあたしは生前に見た映画のワンシーンを思い出していた。

 あの方法ならいけるはず。


 「シェル、ショーゴさんあそこへ行く方法がありますわ。私を押さえてくださいですわ」


 そう言ってあたしはティアナを光の方向へ向ける。


 「ティアナ、この方法であそこまで行けるはずですわ!」


 「本当!? あたしたち助かるの!?」


 「ええ、勿論ですわ! シェル、ショーゴさん準備は良いですの?」


 あたしはあたしの背に着いたシェルとショーゴさんを見る。

 既に二人はあたしを押さえるような格好で構えてくれる。



 よしっ!



 あたしはもう一度ティアナにキスをした。

 今度は軽く、唇が触れるだけのキス。


 「エルハイミ?」


 キスが終わってティアナは怪訝そうにあたしを見る。

 そしてあたしは‥‥‥




 ドンっ!




 ティアナを光に向かって押し出した。


 「えっ?」


 いきなり押し出されたティアナはあたしたちから離れていく。


 「ちょ、ちょっとエルハイミ? これってどういう事よ!!!?」


 「ごめんなさいですわティアナ、ティアナが助かる方法はこれしかないのですわ‥‥‥」


 じたばたと手や足を動かしているティアナ。

 しかしその距離はどんどん離れていく。

 

 「ちょっと! うそでしょ!? やだ!! エ、エルハイミっ!!」


 「ティアナ、私は大丈夫ですわ。 だからお願い生きて。 生きてくださいですわ。 きっと私は戻ってきますわ、ティアナのもとに‥‥‥ だから、お願い、生きてくださいですわ!!」


 既にあたしの周りにはあたしが流した涙が浮いている。


 「嘘よっ!! だめっ!! そんなの嫌だっ!! お願いエルハイミ! 戻って来てぇっ!!」


 もがくティアナは既にみていられないほど錯乱して涙を流している。

 しかし残酷な物理の法則は質量の多いあたしたちを基軸に質量の軽いティアナを押し出しどんどん離れていく。

 

 「シコちゃん、ティアナの事お願いしますわよ?」


 『……わかった。 ティアナの事は任せて』


 「シコちゃん! 魔法で何とかしてよ!! できるでしょ!! 早くっ! お願い!!」


 シコちゃんを握りしめ涙ながらに言うティアナ……


 ああ、もうティアナがあんなに小さくなっている。

 もう少しで出口に届くかな?



 「ごめんなさいですわ、シェル、ショーゴさん。騙すようなことをしてしまって‥‥‥」



 「やっぱりね、仕方ないわよ。エルハイミが死んでもあたしが死んでもあたしたちは一蓮托生で両方とも死んじゃうんだからね。ま、ティアナだけでも助かったのは良しとしましょう」


 「主よ、俺の命は主の為に使うと決めた。主の為なら何という事は無い」


 シェルもショーゴさんもそう言ってくれる。

 それはこんな空間に投げ出されたあたしにとってものすごくうれしい事でありそしてものすごくすまない事であった。



 「エルハイミぃ!!」



 遠くティアナの叫び声が聞こえる。

 もうじき出口に着くだろう、ティアナをあたしは最後まで見届ける。

 

 そしてどうやら出口にたどり着いたようなティアナ。

 なんか叫びながらまた飛び込もうとしているのが垣間見えたけど誰かに止められている。

 それを最後にその光は完全に消えてティアナの姿が見えなくなった。



 良かった、これでティアナは無事生き残れる。



 あたしがそう思った時だった。

 唯一この空間に存在している空気が流れ始める感じがする。


 いよいよこれが最後かぁ。

 短い人生だったけど結構いい思いが出来たかな?

 ティアナのその後は心配だけどきっと何とかなるわよね?

 



 あたしたちは暗闇の中どこかへ流されていくのであった‥‥‥


 

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