第205話8-7弟

 8-7弟


 

 庭先に出たパパンとバティック、カルロスは模擬戦用の刃の無い剣を構えていた。



 「二人同時出かかってきなさい!」


 そう言って身構えるパパン。

 バティックもカルロスも同じように剣を身構える。

 あたしはハラハラしながら二人の弟を見守る。


 じりじりと間合いを詰め先にパパンが動く!!


 

 流石に元冒険者、その動きは無駄も無く横なぎの一閃を二人に入れる!!


 しかしその動きは大ぶりの為二人は簡単に数歩下がって避ける。

 しかしそれを見越したかのようにパパンの剣は勢いを殺さず頭上で回転させ更に威力と速度を増してからもう一度二人を横なぎに切り裂く!!?


 その一閃を二人は見事にバティックは上に、カルロスは下に避け二人同時に剣を突き立てる!


 パパンはそれをバックステップで避けるが二人は今度は突き出した剣をそのままにバティックがカルロスの背に乗るとくるりと回って上下の横なぎの切れ込みを放つ!!


 流石にこれにはパパンも慌てて二本同時に剣で受けるがこんな攻撃普通は避けられない!


 

 パパンもかなりの使い手だ。



 「今のは悪くない、しかしまだまだだ!!」


 そう言っているパパンだが心なしか汗をかいているような?



 「カルロス!」

 

 「はい、兄さん!!」



 バティックとカルロスは今度は左右に走ったかと思ったらなんと呪文詠唱が始まった!!?


 唱えている呪文は身体強化の呪文!?

 呪文が完成すると同時に二人は一気にパパンに切り込んでいく!!



 「うおっ!!こ、なくそぉっ!!!」



 パパンはカルロスの突きを鞘ではじきバティックの上段からの一撃を剣で受け流し大きく下がった!!


 大きく下がったパパンは肩で息をしている。

 対して二人は息が全く乱れていない。



 なにこれ!?

 パパンがある程度強いのは知っていたけど、バティックとカルロスのあの動き!

 並の戦士じゃ対応しきれないわよ!?



 「ふむ、まあ合格だな。言われた通り鍛錬は続けていたようだな?」


 「勿論です、先生!」

 

 「先生に教わった『操魔剣』は毎日やってます!!」



 何それ!?

 「操魔剣」って何!?



 「ショーゴさん、一体二人に何を教えたのですの!?」


 「ああ、あれは俺が昔いた小国の武術でな、基本は剣技だがその威力を増すために強化魔法だけを覚え体の一部分を一時的に強化して攻撃する戦法だ。瞬間的な強化だから詠唱も短く、使用魔力も少ない。」



 それであの速度と打撃が出せるのか!!?


 

 「剣の振り方も教えた通り八つの基本をちゃんとやっているようだ。八方切りと言って上下、左右、右上下、左上下の八つの切り込みが基本となる。馬鹿にするやつらもいるがこれがちゃんと出来ない奴の方が多いのだ。どの体勢でもこれが打ち出せるようになって一人前なんだがな。二人はまだ体が小さすぎるようだ。剣の重さに少し振り回され気味だな?」


 見ると徐々にパパンが押され始めている。

 あの二人あたしよりずっと剣では強いんじゃないの!!?



 「くっ!!このおおぉぉっ!!!」



 既に防御になっているだけのパパン。

 パパンは剣と鞘の両方で対応している二刀流だ。

 元来二刀流って難しいはずなのに器用に左右からくる攻撃をかわしている。



 「ちょっ!ちょっとタンマ!!」



 大きく下がったパパンは大声を張り上げる。



 「ぜぇぜぇ、な、なかなかやるように、はぁはぁ、なったなお前たち!し、しかし、ぜぇぜぇ、あれだけやってまだ私に一本も入れ・・・ はぁはぁ、られ無いか!!?こ、これでは戦場ではすぐにやられて、はぁはぁ、しまうぞ!!」



 いや、やられちゃうのはパパンでしょうに!?

 既に肩で大きく息をついている。



 「流石お父様、僕らの攻撃を全部かわすなんて!!」


 「兄さん、お父様相手なら本気で行っても大丈夫だよね!!?」



 「ちょっと待てっ!まだ本気じゃないのかっ!?」



 全く息の乱れていない二人にパパンがちょっとマテをする!!

 パパンは既にグロッキー寸前。


 パパンは剣をしまって咳払いをする。


 「ま、まあまあだが、これだけやって私に一本も入れられないのであればもう駄目だな!戦場で出し惜しみするようではどんなに素晴らしい技を持っていても意味がない!!そうだ、ショーゴ殿!こいつらに稽古をつけてやってくれないか!?お前たち、ショーゴ殿に一本でも入れられれば認めてやるぞ!!?」



 うわっ!?

 丸投げしたよパパン!!?

 汗だくだくで何とか平静を装っているけど多分もう限界なのね?



 ショーゴさんに有無を言わさず剣を預け、メイドに言って水を持ってこさせる。


 「先生が相手なの?」


 「カルロス、一本くらいなら先生に入れられるかもしれないぞ!!」


 そう言って二人はショーゴさんに対峙する。


 「やれやれ、しかしいい機会だ。どれだけ成長したか見てやろう。二人共、同時でいいぞ?」


 「「はいっ!」」


 そう言っていきなり二人ともショーゴさんに襲いかかる。

 しかしショーゴさんは一歩も動かず二人の攻撃を剣ではじいている。



 「流石先生!!魔力が尽きる、時間がない!カルロス、あれやるぞ!!」


 「うん、分かった!兄さん!!」



 そう言って二人は手と手を握りそこを中心に回転を始めた!!?

 ぐるぐる回るその速度は既に肉眼でははっきりと見えない!!

 竜巻のように周りの空気さえ吸い上げてそれはショーゴさんに襲いかかる。



 「ふむ、遠心力を使って威力を増したか?悪くないが実戦では使えんぞ?」



 そう言って二人の高速回転コマはショーゴさんにぶつかる!?

 と、その瞬間にショーゴさんは軽々飛び上がり二人の中心、握っている手に軽く蹴りを入れる!


 とたんに二人は反対方向に飛んでいき、生け垣や地面に叩きつけられる。


 「発想は悪くないが隙も大きい、弱点も丸見えだ。二人ともまだまだだな。」


 そう言って剣を鞘にしまう。



 「バティック!カルロス!!」



 あたしは慌てて二人のもとへ行く。

 全身泥だらけ、もしくは葉っぱだらけの二人。



 「いててて、負けちゃった。」


 「くそう、先生にも通用すると思ったのに!!」



 ケガのほどはそれほどひどく無い様だ。

 あたしはすぐさま【回復魔法】をかけて二人のすり傷を治す。

 

 「大丈夫ですの二人とも?」


 「姉さま、ごめんなさい負けてしまいました。」


 「やっぱり先生は強いなぁ、ごめんね、姉さま。」



 あたしは思わず二人を抱きしめる。



 「全く、いつの間にこんなに強くなってですわ!良かった、大きなけがが無くてですわ!」



  

 「はっはっはっはっはっ、残念だったなバティック、カルロス!まだまだのようだ!お前たちは大人しく家で鍛錬を積みなさい!!」


 復活したパパンが偉そうにやってくる。

 あたしはジト目でパパンを見る。


 「な、なんだねエルハイミ、そんな目をして。」


 「まあ、二人には確かに戦場には来てもらいたくないですわ。バティック、カルロス約束通り大人しくここで鍛錬を積みなさいですわ。いいですわね?」


 二人を見ると悔しそうにしているがあたしに言われ小さな声で「はい」と言う。

 仕方ないなぁ。


 

 「だいぶ汚れてしまいましたわね、さっさとお風呂に入りましょうですわ!」


 そう言ってあたしは二人を引っ張っていく。


 「え?姉さま??」

 

 「お風呂なの?姉さま??」


 あたしはこの場を後に二人をお風呂へと連行するのであった。


 

 * * * * *



 「いい加減に観念なさいですわ!!」


 「ですからせめて前だけでも隠してください、姉さま!!」


 「うわー、前よりぼいんぼいんだぁ!姉さま、またおっぱい大きくなった!」


 あたしは二人の服を引っぺがしお風呂に入れる。

 なんかバティックはものすごく抵抗していたけど汚れたままじゃ落ち着けない!

 あたしもちょっと汗かいたし、せっかくだから一緒に入ることにした。


 真っ赤になっているバティック、あたしの胸を突いて大きい大きい言ってるカルロス。


 「カルロス、私だからいいですけど他の人の胸を勝手に触ってはいけませんわよ?」


 「うん、分かってます、姉さま!」


 そう言ってまた突いてくる。

 この辺はおっぱい好きのパパン似なのかな?

 まあ、弟たちに触られるくらいなんともないんだけどね。


 それよりもまずは軽く汚れを流さないと!


 あたしは念動魔法で湯船のお湯を洗面器分二つ程こちらに持ってきて二人の頭からお湯をかける。


 「ぷはっ!!いきなりお湯をかけないでください!姉さま」


 「ちょっと熱いよ~!!」


 「いいから先ずは湯船に入りますわよ!!」


 あたしはそう言って自分もお湯をかぶってから嫌がるバティックを捕まえて一緒に湯船に入る。

 湯船に入ってもなおも逃げようとするバティック。

 あたしは後ろから羽交い絞めにして動けないようにする。


 「駄目ですわ!肩までつかって百数えなければ放してあげませんわ!!」


 「数えます、数えますから放してください!!姉さま当たってるんですよ、背中に思いっきり!!」


 何が当たってると言うのよ?

 そんな戯言で逃げられるとでも思っているの?

 バティックはお風呂ギライみたいだからこの際徹底的にお風呂の良さを教え込まなければ!!


 「いいなぁ、兄さん。姉さまに抱っこされて!」


 そう言ってやってくるカルロス。

 大人しく肩までつかるという約束でバティックを放して今度はカルロスを抱っこする。

 カルロスは嬉しそうにあたしに寄りかかってくる。

 

 まだまだあたしより小さなこの二人がちょっと見ない間にあんなに強くなっているのは驚いた。

 しかもあたしの為だって。



 思わずにやけてしまう。



 「ありがとうですわ、カルロス。」


 そう言ってあたしはカルロスのほっぺたにキスをする。


 「なっ!カルロスずるいっ!!」


 それを見ていたバティックが思わず立ち上がる!


 ざばっ! 


 ・・・・あらぁ、かわいいぞうさん。


 まじまじと見るあたしの視線に気づいたバティックは思わず股間を手で隠しまた湯船に座り込む。


 あたしはそっとバティックの横に行って抱きしめる。


 「うわっ!姉さま何やってるんですか!!当たってるんですよ!!!」


 「バティックもありがとうですわ!」


 そう言ってバティックの頬にもキスをする。

 一瞬バティックはびくっとなるけどその後は真っ赤になって大人しくなる。



 「あらあらあら~いいわねえぇ~二人とも大好きなお姉ちゃんに甘えて~。お母様ちょっと嫉妬しちゃうわよぉ~。二人とも私には全然甘えてくれないんだからぁ~。」



 三人も生んでいるというのにこの人はどうなっているのだろう?

 あたしよりずっと大きいモノをブルンブルン震わせてママンはお風呂に入ってくる。

 

 くっそう~、ママンがあれほどなんだ、あたしだって成人する頃にはきっとあのくらいにはなるはず!!



 「なんで母様まで入ってくるんですか!!?」


 「うわー、お母様、姉さまよりぼんぼいんだぁ!!」


 「あらあらあら~たまには親子水入らずでお風呂も良いでしょう~。せっかくだからみんなで洗いっこしましょう~」



 ママン参入でますますにぎやかになるハミルトン家のお風呂。

 たまにはこういうのもいいわよね~。



 あたしはひと時の幸せに浸かっているのであった。




















 

 あ、そう言えばパパンほったらかしだ。

 でも流石にこの年になると一緒にお風呂は無理だよね?

 可哀そうだから後で肩でも揉んであげるかな?


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