第181話7-19討伐の後に

 7-19討伐の後に



 「【治癒魔法】!!」



 あたしとティアナがヨハンさんたちに回復の魔法をかけまわっている。

 しかし残念ながら間に合わなかった人もいる。


 「ぐっ、すみません、取り逃がしてしまいました・・・」


 ヨハンさんにあたしは追加で【治癒魔法】をかけている。

 それほど彼の傷は深かった。


 「もうよい、それよりこちらの被害は?」


 アコード様はヨハンさんたち隠密部隊の面々を見る。

 どうにか一命をとりとめた者や軽傷な者もいるが全員が傷だらけだった。


 「特殊部隊五名、隠密は・・・七名死亡です。重傷者は後三人、魔法だけでは回復しきれません。」


 部隊長の人が被害報告をしてくる。


 「神殿には火が放たれ重要機密は処分されたようです。鎮火させてますが多分大した情報は得られないでしょう。」


 もう一人の魔法騎士が報告に来る。


 「この拠点を破壊するのがやっとだったか。重傷者の搬出を手伝ってやれ。ヨハン、動けるか?」


 「はい、大丈夫です。」


 しかしあたしはヨハンさんの袖を引っ張る。


 「嘘はだめですわ、まだ傷口がふさがっただけですわ、もう一度【治癒魔法】をかけますから大人しくしてくださいですわ!」


 あたしがそう言うとアコード様は深く息を吐いた。


 「お前にはまだまだはやってもらわねばならない事が有る、今は無理をするな。エルハイミ殿、治療の方頼みます。」


 そう言ってヨハンさんの肩に軽く手を叩いてアコード様は神殿の方に行ってしまった。


 「ヨハン、死んじゃ駄目よ!エルハイミにちゃんと治してもらいなさい!」


 ティアナも他の人たちを回復さてこちらに来る。

 ヨハンさんは困った顔をしていたけど「わかりました」とだけ言って大人しく座る。

 あたしは【治癒魔法】をもう一度かけてヨハンさんを回復させる。



 「エルハイミ、はいこれ。」


 シェルが水筒をよこしてくれる。

 あたしはそれを受け取り乾ききった喉にその中身を流し込む。


 生き返る。


 ふたを閉めてシェルに戻すとシェルアそのままティアナに渡す。

 ティアナも同じにのどを潤してから水筒を返す。



 「予想していた以上だったわね。まさか怪人が融合することによって双備型並みの力を発揮するなんて。」


 「それについてはアンナさんに後で報告しましょうですわ。」


 「あんなの相手にしてたら命がいくらあっても足らないわよ?あたしの矢が全く効かないんだもの!」


 シェルはまだ使えそうな矢を回収していた。

 矢じりの切っ先を見ながら憤慨していた。 


 『どちらにしろあのジュメルってのもずいぶんと研究と強化をしているって事ね。あの双備型マシンドールはガレントの量産より性能が高かったんじゃない?』


 確かに背中の触手から攻撃魔法を連続で打ち出して来るとは予想外だった。

 うちの量産型では連射は出来ない。


 「かなり無理に双備型を使っているのでしょうですわ。あれでは双備型がすぐにダメになってしまいますわ。」


 あたしなりの推測と感想を述べる。


 「どちらにせよもうここは制圧済み、この街の拠点はつぶしたわね!」


 「でもまだ他の街にもあるんじゃない?」


 ティアナはシェルを見て唸る。

 

 「う~、そうかもしれないけど、国内のは確実に一つづ潰すしか無いじゃない!」


 まあ、その通りなんだけどね。


 ただ今回のような大規模の拠点はそうそう無いだろう。

 マシンドールも二体破壊できたし、残る行方不明な双備型はあと二個。



 とにかく疲れた。


 丁度ロクドナルさんとショーゴさんも戻ってきた。

 どうやらむこうも片付いてきたようだ。


 「とりあえず地上に出ますかな?あとはこの街の衛兵が処理してくれるそうです。」


 「そう言えば海の抜け道の方の衛兵たちは?」


 「全滅です。」


 ロクドナルさんは目線をそらし静かに言う。

 逃げ出したのが女幹部二名と融合怪人三体、それと魔怪人が一体か・・・

 それだけで隠密が壊滅、街の衛兵も全滅。

 

 あたしたちの予想以上の戦力だ。



 * * * * *



 地上に出てみると既に日が昇っていた。


 昨晩に衛兵たちが動いていたので今朝は街があわただしく朝から住民が興味本位で衛兵たちが何をしているのか見物に来ていた。


 そんな中、あたしたちは冒険者風の格好のおかげで民衆につかまることなく宿近くまで戻れた。

 

 「おや?あなたはエルハイミさんでは無いですか?」


 声のした方を見るとあの神父様が立っていた。

 にこやかにこのイケメンの神父さんは挨拶してくる。


 「おはようございます、皆さん冒険か何かの後ですか?」


 「おはようございますですわ。その様なものですわ、ヨハネス神父様こそこんなに朝早くから如何なさいましたの?」


 神父様は人だかりの方を見て「どうも何かが有ったみたいですので気になりまして。」と言った。


 「ヨハネス?エルハイミ、今ヨハネスって言った?」


 ティアナがあたしに小声で聞いてくる。

 んー、そう言えば言ったかな?


 「ティアナ、紹介いたしますわ。昨日乗合馬車の事を話した神父様ですわ!」


 「これはこれは他の方には挨拶がまだでしたね、ヨハネスと申します。」


 神父様は頭を下げて挨拶をしてくる。

 ティアナたちも挨拶しながら簡単に自己紹介をする。


 「ティアナさんにロクドナルさん?はて、どこかでお聞きしたような名前ですね?」


 「どこにでもあるような名前ですよ。」


 正体がばれるとまずいのに思わず本名言っちゃった。

 まあガレントのお姫様や剣聖がこんな所をふらふらする事は普通無いので白を切るしかない。


 「それより、ヨハネスさんの名前って前にどこかで聞いたような・・・」


 「それこそ私のような名前は沢山ありますよ。しかし、何が有ったのでしょうね?」


 もう一度人だかりを見ながらヨハネス神父様はつぶやく。

 あたしたちは乾いた笑いをしながら冒険帰りで疲れたので宿に戻りますと言ってその場を離れた。



 * * * * *



 「お父様たちはアマデウス伯爵の所へ行っているらしいわ。あたしたちは明日回収したアイミたちとガルザイルに戻る事になったわ。」


 「今度は少しはまともな馬車なんでしょうね?」


 シェルが自分のお尻をさすりながら言う。


 「残念ながら来た時と同じよ。今回の件はすぐには公表出来ないらしわ。」


 えーっ!とシェルが不満の声を上げる。


 しかしすぐに公表できないとはまだ何かあるのかな?

 その辺はアコード様とヨハンさんが動いているみたいだからその結果を待つしかないだろう。


 そんな事を思いながら装備を外してふと見るとティアナもシェルもうとうとし始めていた。

 あたしも緊張がほぐれたのか眠気がする。


 仕方なしに二人をベッドに連れて【浄化魔法】をかけてから寝かせる。



 そして当然のごとくあたしはティアナのベットに潜り込むのであった。

 

 

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