第176話7-14ユエナの街

 7-14ユエナの街



 王都ガルザイルから東に四日間馬車に揺られながら移動する。

 


 あたしたちは冒険者かの如く衣服を変えて衛星都市ユエナに移動していた。

 

 「やっと着いたわね、いくら目立たない様にとか言ってももう少し良い馬車は無かったの?お尻が痛くなっちゃったじゃない!」


 文句を言っているシェル。

 確かにこの馬車の椅子はただの木材なのでずっと座っているとお尻が痛くなる。


 「だったら向こうのアイミたちを隠している藁の荷台に行っていればいいじゃない?」


 「あっちは日差し避けも無いじゃない!熱くて死ぬわ!!」


 「そのまま肌焼けしてダークエルフになればいいんじゃない?」


 「なんですってぇ!!」


 がるるるっ!

 ふしゃーっ、ふしゃーっ!!



 だいぶ退屈だったのだろうティアナとシェルがじゃれている。

 

 「二人ともその辺にしておけ、所でサージ君、俺たちが隠れる場所は何処になる?」

 

 馬のたずなを引きながらショーゴさんが質問する。


 「はい、貿易ギルドの所有しているキャラバン用の宿が有ります。そこを拠点としてアコード様たちを待ちます。」


 そう、あたしたちは先に冒険者に護衛されているキャラバンのふりをしてこの街に来ているのである。


 

 衛星都市ユエナ、ガレント王国の東になりすぐ近くは海が有る。

 昔からリゾート地で工芸品や装飾品が有名な芸術の街。

 細工品はドワーフ族が作るそれにも引けを取らないとの評判だ。

 なのでこうして貿易ギルドが繁盛している。

 特に王都ガルザイル向けの工芸品はここがほとんどでその独特なデザインや貝やサンゴを使った装飾品は貴婦人に好まれる。


 さてと、あたしたちは貿易ギルドの近くまで来てからちょっと準備をする。


 今回あたしたちの偽装キャラバンは馬車が五つあるそこそこ大きいキャラバンに装している。

 先頭の馬車にあたしたちが乗り込み後続にアコード様の部隊が乗り込んでいる。


 冒険者風の格好をしたティアナやシェルにはフードをかぶってもらいマリアにはポーチに隠れてもらう。

 ロクドナルさんも冒険者のような格好して似合わな付け髭をつけているが、やはり同じようにフードをかぶってもらう。

 あたしは髪の毛を頭の上に結い上げてメガネをかけキャラバンの会計係のような格好をしている。

 ショーゴさんは帽子を目深にかぶった商人風の格好だが長袖に皮の手袋をしてもらって義手と分からない様にしてもらっている。 

 サージ君は頭にバンダナをかぶってもらって荷運び夫のような格好をしている。

 

 メインのこの馬車には貴重品を、後ろのアコード様の部隊には穀物やワインなどを偽装で運んでもらっている。

  

 そして偽装キャラバンはこの街の貿易ギルドに到着する。


 

 荷馬車を止めてあたしとショーゴさん、ティアナの三人でギルドの中へ入っていく。

 あたしは渡された貿易ギルドマスター宛の親書を取り出しカウンターへ向かう。



 「失礼しますわ、急用でこの親書をギルドマスターにお渡し願いたいのですわ。」


 すると受付嬢がいぶかしげにあたしを値踏みするように見ながら親書を受け取る。

 そして裏側の蝋の封印を見て小さく驚く。

 無言で小さく首を縦に振ってからすぐにその親書をもって奥に行く。



 待つことしばし、恰幅のいいおっさんと先程の受付嬢が戻ってきた。



 「これはこれはようこそおいでになられた、あちらの応接間にお越しくださいますかな?」


 「外にキャラバンを待たせてありますわ。そちらはどうしましょうですわ?」


 恰幅のいい男はちらりを外の様子を見る。


 「わかりました、では使いの者に隣の宿を案内させましょう。お三方はこちらへ。」


 そう言って応接間に案内される。

 落ち着いた感じのそこはそこそこの広さがある部屋だった。


 「どうぞおかけください。おい、この方たちにお茶をお入れしろ。」


 先ほどの受付嬢にそう言って部屋を出るのを待ってから恰幅のいい男は話し始める。


 「私はレギニオンと申しましてギルドマスターの補佐をやっているものです。ギルドマスターはもう少しでお戻りになられますのでしばしお待ちいただけますかな?」


 そう言って先ほどの親書を取り出す。


 「どのくらいでお戻りになられますか?」


 フードを下げ、真っ赤な髪のがあらわになるティアナを見てレギニオンは驚く。


 「まさか、殿下が自らおこしとは!!と言うとまさかこちらの女性は『雷龍の魔女』ですか!?」


 なんか最近二つ名の方が有名になっているような?

 まあ、ゾナーが言っていたもう一つの名前よりは数段良いけど。


 「これは驚きましたな。失礼、ギルドマスターはアマデウス伯爵の所へ行っておりましてもう戻ってくる頃です。」


 そう言っているとちょうどお茶が運ばれてきた。

 と同時に年の頃四十くらいの髭面のおっさんが入ってきた。


 「私に客が来ているだと?こちらの方か? ・・・で、殿下!?」


 ティアナを見てその男は驚く。

 

 「これはこれはよくこのような所までお越しいただきました、殿下。ギルドマスターのソル=バーニングスです。先日の成人お誕生会にはお邪魔させていただいておりました。」


 そう言って正式な挨拶をしてくる。

 ティアナも立ち上がり返礼をしてから話始める。


 「詳細は親書に書いてありますが、しばらく貿易ギルドの宿を拠点に内密な行動がしたいのです。ご協力をお願いしたい。」


 「勿論でございます、お話は既にきております。我々にできる事が有ればどうぞご遠慮なく申してください。」


 「ご協力感謝します。」


 そう言ってティアナは座って運ばれたお茶を口にする。


 「ところでソル殿、先程アマデウス伯爵の所へ行かれていたようですが、どのようなお話で?」

 

 「はい、実は最近この街の流通に問題が有りましてね、どうも正規の流通以外、特に北方の品物が出回っているらしく我が貿易ギルドを通さない流通が出来始めているようなのです。この街の流通は我がギルドがアマデウス伯爵より許可を取っているのですから他に勝手な流通を作られては困ると相談に行ったのですよ。」


 貿易ギルドは各街に存在していて国や領主からその流通にかかわる許可を取っている。

 自由市や個人販売は街に入る時に税金を納めれば問題無いが、大型の流通はそうもいかない。税金が安くなるかわりに必ず貿易ギルドを通さなければならないのだ。


 しかし、少量ではなくそこそこの物品が流れるとなると組織的な動きが必要だ。


 「関所が有るところ以外から大量の物品が流れていると言う事ですね?」


 「はい、そうなります。しかしこの街のどういった所をそれほどの物品が出入りしているのか全く見当がつかず、困り果ててアマデウス伯爵の所に相談に行ったわけです。」


 通常は先ほどのあたしたちのようなキャラバンが大量に荷物を運び入れるが陸路以外となるとあとは海上くらいしかない。

 しかしいくら海が近いとは言え一番近い漁村でさえこのユエナの街から一キロ以上離れている。船で街に入ることは出来ないし河川敷を小舟で移動すればすぐに見つかるだろう。


 「北の物品と言っていましたが具体的にはどの辺の品物ですの?」


 「それが、ホリゾン帝国の近辺の品物らしいのです。」



 うあーっ!!

 いきなりですか!?

 と言う事は紛れもなく活動資金の確保のための物流か何かな訳だ。

 まだヨハンさんからの連絡は無いけど、これは確実にここに大型拠点が有ると考えて間違えが無いだろう。



 「そうですか、今回の件、もしかするとそれにも関わっているかもしれません。今後ともによろしくお願いします。それとこれらの事は無い密に願います。先ほどの受付嬢も。」

 

 ティアナはそう言って立ち上がる。


 「はっ、心得ました。」


 ギルドマスターソルさんはそう言って一礼する。

 あたしたちはティアナについてこの場を後にしてシェルたちが先に行っているキャラバン用の宿に向かう。

 

 * * *


 宿は貿易ギルドのすぐ横の建物で一階が荷を下ろしたり馬車や馬を休ませたりする施設になっている。

 中庭の方には馬宿もある。

 二階から上が宿になっているがそこを数部屋間借りしている。

 

 「シェル、こちらに居ましたの?ロクドナルさんたちはどうしましたの?」


 「お帰り、ロクドナルたちは男部屋で装備の確認と布に包んだアイミたちの搬入してるわ。ところで女部屋ってあたしも一緒な訳?あなたたち夜は控えてよね、眠れなくなるから!」


 見ると部屋にはベットが三つ。

 仕方ないけどシェルも一緒になる。


 と、いきなり声がする。


 「殿下、お待ちしておりました。」


 「ヨハンですか?」


 静かにだがいきなり声がするのであたしもシェルもびっくりしている。

 よくよく見ると部屋の観葉植物の後ろから黒ずめ姿で目だけ出した頭巾の男がひっそりと立っていた。

 あたしどころかシェルさえ気づかせずに忍び寄るなんて、流石ヨハンさん!


 「殿下、アコード様たちは半日後に冒険者に扮装してこちらにやってきます。この街のジュリ教ですが地下神殿がございます。どうやらそこが拠点になっているようですが厄介なことに海への抜け道が有ります。」


 「地下神殿?それでジュメルとの関りは?」


 「はい、完全に黒です。黒ずくめや怪人までおりました。どうやらこのユエナがガレントでの奴らの拠点のようです。」


 それを聞いたティアナは唸った。

 

 「先ほどギルドマスターソル殿から北からの密輸物資が入っていると聞きました。その地下神殿がその受け口になっているのですか?」


 「多分そうでしょう。定期的に海からの抜け道より大量の物資が流れています。それとマシンドールですがどうやら双備型魔晶石核と共に神殿内で改造を受けているようです。」


 やはりそこに有ったか!?



 しかし改造だって?

 双備型や記憶魔晶石はブラックボックスだからそうそう簡単には解析できないだろうけど、マシンドール自体は解析できるし改造も施せる。

 まずいな、ブラックボックス以外の技術は完全に渡ったと見て間違いないだろう。



 「マシンドールまで。わかりましたお父様到着後にすぐに行動に移りましょう。一網打尽にするためにはその海への抜け道についてももう少し詳しく調べてください。場合によってはそちらからも攻め入ります。」


 「御意。」


 そう言ってヨハンさんはすうっと消え去った。

 

 ええっ? 

 今のどうやったの??

 ヨハンさん魔法は得意じゃないはずなのに?


 「ふう、とりあえずお腹すいたわ、エルハイミ、シェル、マリアご飯にしましょ!」


 ティアナはそう言ってまたフードをかぶってあたしたちに向き直る。

 

 情報は入った。

 まずはこの事をみんなに伝えてアコード様の到着を待とう。


 

 あたしたちはティアナについて食事に向かうのだった。 


 

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