第152話6-24 風の精霊


 6-24 風の精霊



 師匠と共に精霊都市ユグリアに向かうことになったあたしたちはゲートへと向かっていた。



 「しかしなぜ精霊都市に行かれるのですの?」

 

 素朴な疑問に師匠は「行けば分かります」とだけ言った。

 ずかずか歩く師匠はどことなく苛立っているように感じる。


 「ねえ、エルハイミ、師匠機嫌悪くない?」

 

 「ティアナもそう思いますの?」


 「きっと二日目なのよ!あれってどうしてもイライラしちゃうもんね!!」 


 あたしたちは小声で話し合っているがシェルはとんでもない事を言っている。



 ちなみに今回アンナさんとロクドナルさん、アイミやマリアは居残り。

 なんだかんだ言ってあたしたちがいない間にソルミナ教授の研究が全然進んでいないので泣きつかれたのだ。

 全くあの人は。

 今まで出来た事は黒板に予測結果の記入くらいしかやっていなかったらしい。

 しかもユグリア行くならこれ持って行ってとか言われてソルガさん宛てのラブレターが山ほどある。

 


 「主よ、二日目とはなんだ?」


 「「「ショーゴ(さん)は知らなくていいの(ですわ)!!」」」


 あたしたち三人の声がハモる。

 思わずたじろぐショーゴさん。


 「そ、そうか、分かった。」


 「何を遊んでいるのです?私は二日目ではありません。それよりゲートにつきました。エルハイミお願いします。」


 そう言って師匠はゲートに入る。

 慌ててあたしたちもゲートに入って起動する。



 光がおおったかと思うとすぐに消え、周りの風景が一変する。



 「英雄ユカ・コバヤシではないですか!?」


 声のした方を見るとソルガさんともう一人のエルフの男性。

 いきなりゲートが作動してあたしたちが来たので驚いている。


 「ソルガですか、先日はお世話になりました。急ぎファイナス市長に会いたいのです。」



 師匠の急ぎと言う言葉にソルガさんは慌ててあたしたちをファイナス市長の元に案内する。



 「と、ソルガさん、ソルミナ教授から預かりものですわ!」


 「エルハイミにティアナ、そしてショーゴか相変わらずのようだな。ソルミナから預かりものだと?」


 あたしは持ってきた袋をそのまま渡す。

 その袋はサンタクロースが背負っているくらいの大きさが有った。



 「エルハイミ、これはなんだ?」


 「見れば分かりますわ。一応くぎを刺しておきますがちゃんと見ないと女の子はものすごく不機嫌になりますわよ!」


 軽くウインクするあたし。

 ティアナはくすくす笑っている。

 シェルはあきらめ顔で苦笑いしている。


 きょとんとしたソルガさんだったが、「わかった」とだけ言いあたしたちを先導して「緑樹の塔」へと連れていく。

 そしていつものように受付で話をして応接で待っているよう言ってくる。


 「急な事なので済まんがここで待っていてくれ、すぐにファイナス市長に知らせてくる。」


 そうしてソルガさんはいそいそとファイナス市長の下へ行った。



 * * * * * * * 



 「ユカ、どうしたのです急に?」


 しばらくして応接間に入ってきたファイナス市長は師匠が来たと聞いたせいか慌てた様子でここへ来た。


 「ファイナス市長、お手数をおかけします。行商と渡りにすぐにでも連絡を入れ情報を集めていただきたいのです。」


 「われらエルフの行商と渡りにですか?それほどまで緊急とは何が起こったのです?」


 「はい実は・・・」


 それから師匠は分かっている事実と推測の領分を鮮明に分けて説明をした。

 師匠から説明を聞いたファイナス市長は大きなため息をついた。



 「流石と言うべきですねユカ。こんな短期間でよくもそこまでの情報と推測を集めたものです。こちらでわかったことはそのジュメルと言う輩が古代遺跡のある所を中心に襲撃を繰り返しているらしいということくらいですね。」


 「古代遺跡ですか?」


 「ええ、ほとんどが魔法王国時代の又はそれ以上古い時代のモノらしいですね。」


 ファイナス市長の話ではエルフの中には見聞を広めたがっている変わり者がいて、その中に八大長老に親しいものや仲間想いのエルフもいるらしい。


 彼らは世界を転々と回っていてある者は行商を、ある者は冒険者として、そしてまたある者は現地を気に入ってかりそめの居住をするものいるらしい。


 長寿のエルフだから出来る事なのだが、だからこそ外界との接触がなく独自の生活圏を作り上げたエルフたちは外界の情報を重視していた。



 完全把握はしていないがエルフの村から出て行ったエルフたちにはネットワークが出来ている。


 それが風の精霊を使ったメッセンジャーのネットワークだ。


 このメッセンジャーは短い内容の意志を風の精霊に乗せ運んでもらう事によって外界に出回っているエルフたちに連絡が行きとどくシステムで、逆に外界にいるエルフは重要だと思うとその情報をファイナス市長に風の精霊で送るらしい。

 つまりこの精霊都市ユグリアの役割の一つである情報収集と仲間への情報発信がここではできるのだ。



 「そうするとジュリ教についての情報収集とその動向を探って欲しいと言う訳ですね?」


 「はい、出来ればジュリ教が国の研究機関やその他重要部門に接触している国が有ればそれも教えていただきたいです。」


 ファイナス市長は分かりましたと言って呪文を唱え始める。

 そしてなんと風の上級精霊を呼び出し風のメッセンジャーを放つ。


 「ファイナス市長が風の上級精霊と契約していたなんて驚きですわ。」


 「なによ、不敬よエルハイミ。ファイナス長老はあの八大長老の一人なのよ!その実力だってかなりのモノなんだから!」


 自分の事でもないのにシェルの奴ずいぶんと偉そうに!

 シェルは薄い胸を張って威張っている。


 「シェル、あなたも才能だけは有るのですからもっと精進なさい。ただ外界を見て遊んでいてはだめですよ。」


 そんなシェルにファイナス市長はくぎを刺す。

 ファイナス市長に言われシェルは慌てて萎縮する。



 もっと言ってやってください、ファイナス市長!!



 あたしは心の中でそうお願いをした。


 「ユカ、これでエルフの行商と渡りには連絡が行きました。今後はソルミナやシェルにも連絡を入れますので何かあれば彼女らからユカに伝達をさせます。シェルいいですね?」


 「うひっ!わ、わかりましたぁ!!」


 名指しで呼ばれてシェルは焦る。


 「ファイナス市長、ありがとうございます。秘密結社ジュメルはかなりの組織と考えます。母体が何処にあるかはまだわかりませんが、私の推測ではジュリ教だけではなく各国の中枢にも潜んでいる可能性が高いと思います。」



 え?

 国の中枢??

 でもそれって自分で自分の首を絞めてるんじゃ?



 「国の中枢にもですか?何故?」


 「自滅希望者と言う者がいます。何らかの理由で人生に希望を持てない、自殺願望者ですがジュメルの思考に賛同した場合資金提供や優遇を行える場合があります。それにこれだけ長い期間潜伏していたのがここ最近一気に表舞台に現れるは何か事を仕掛ける準備が出来たと思われます。」


 師匠の話を聞いてファイナス市長はまたため息をつく。


 「長きにわたり生きてきましたが人間の思考はやはり理解しがたいですね。自らせっかくの命を粗末にしてしまうなんて。わかりました、そちらも注意させましょう。シェル、風のメッセンジャーの呪文の使い方を教えます。こちらに。」


 「ひゃ、はいっ!!」


 シェルはおっかなびっくりファイナス市長に呪文を教わる。

 いつもあのくらい大人しければ楽なんだけどなぁ。



 しかしこれでジュメルの事についての動向はもっとわかるだろう。


 しかし、風のメッセンジャーか。

 ずいぶんと便利な魔法もあるんだね。

 これはシェルがこの魔法を覚えたらあたしたちにも教えてもらわないと!!



 

 シェルのぎくしゃくする様子を見ながらあたしはそう思うのだった。 

 

   

  

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