第139話6-11上級精霊

6-11上級精霊



 「エルハイミよ、よくぞ我らエルフを救ってくれた。礼を言うぞ。」




 メル長老は愛らしくにかっと笑い優しく頭をなでてくれる。


 今あたしたちはメル長老が用意してくれた宿泊施設にいる。


 あの後あたしはシコちゃんに眠らされ二日近く寝ていたらしい。

 幸いにして師匠たちはすぐに回復してマーヤさんも無事だったらしい。


 後で聞いた話だけどあたしたちが「命の木」の世界に行っていてあたしがどんどん魔力を使い始めて髪の毛が白くなってティアナたちが慌ててあたしに魔力注入してた頃、あの壺が光ってそれをティアナがマーヤさんの手に握らせたら光がマーヤさんに吸い込まれ、肌の色が元に戻ったとか。


 今は起き上がれないけど、意識ははっきりしているしめきめきと回復はしている。

 あたしが話が出来るようになったと聞きつけてメル長老はわざわざこうして足を運んできてくれたわけだ。



 「エルハイミ、本当によくやってくれました。エルハイミのおかげでもう一度あの悲劇を繰り返さずに済みました。感謝します。」


 そう言って師匠は寝ているあたしに頭を下げる。


 「やめてくださいですわ、師匠。あたしはただ師匠たちを助けたくて・・・」


 「うむ、英雄ユカ・コバヤシは立派な弟子を持ったな。儂は少しうらやましいぞ!ファイナス、バミ、フィフィ、ライぬしらも少しは見習え。でなければ安心して儂も逝けんぞ?」


 「努力します。しかしメル様、メル様にはまだまだごご健在でいてもらわねば困ります。大樹があってこそ森は安定して繁栄するのですから。」


 ファイナス市長はそう言ってメル長老に頭を下げる。

 メル長老はふむと唸ってから思い出したように師匠に話す。

 

 「そうじゃ、儂らも準備が出来た。英雄ユカ・コバヤシよ本日上級精霊を呼び寄せる儀を行う。シコちゃんも言っておったがエルハイミ抜きでもシコちゃんがいれば主らの目的は達成できるとな?」


 師匠はアンナさんを見るとアンナさんは軽くうなずいた。


 「はい、『至高の杖』が有れば私たちの目的である上級精霊と魔結晶石の融合は可能なはずです。それに魔法王ガーベルの血を継ぐ殿下がおられます。『至高の杖』を扱うのも問題無いかと。」

 

 メル長老の質問にアンナさんが答える。



 そうだよね、あたしが居なくてもティアナとシコちゃんがいれば上級精霊との融合は何とかなるよね?



 「うむ、分かった。では夕刻に儀式を行う。エルハイミよ、重ねて礼を言うぞ。今はゆっくりと休むがいい。」


 そう言ってメル長老は部屋を後にする。

 師匠やアンナさんも一緒に部屋を出ていくけどティアナだけが残った。



 「エルハイミ、本当に無茶ばかりするんだから・・・」


 「ごめんなさいですわティアナ。でも何とかみんなが助かった。私も何とか戻れましたし。」


 それでもティアナは心配そうな顔をしていた。


 「あたし怖かったんだよ。エルハイミの髪の毛が白くなり始めた時。また相当な無理してるんだって。」


 あたしは苦笑いをするしかなかった。


 「いつか・・・いつか本当にエルハイミがいなくなっちゃうんじゃないかって思えるほどに怖かったんだから・・・」



 あー、これはまずいわね。

 こんなメンタルのままじゃ夕刻の儀式に影響が出ちゃうんじゃないかな??



 「ティアナ・・・」


 ふとあたしはあの時の口づけを思い出す。

 あの濃厚で気持ちいい口づけを・・・


 ティアナを覗くと目に涙がたまっている・・・

 急にいとおしい気持ちがあふれてくる。


 あたしは思わずお願いをしてしまった。


 「ねえ、ティアナ、またあの口づけをしてくださいまし。私はティアナを感じたいのですわ・・・」 

 

 なぜか自然と口から出た言葉に今更ながら顔が熱くなる。

 見るとその言葉を受けたティアナも顔を真っ赤にして震えている。


 そして震える笑顔があたしに近づく・・・・


 「エルハイミ・・・」


 「ティアナ・・・」


 あたしたちの顔がどんどん近づきその甘い吐息さえ愛おしく感じる距離まで来た時だった!



 いきなりあたしの頭にシェルさんの声が響く!!!



 『全く、昼間っからいちゃいちゃとご盛んね!!こっちはマーヤの事でずっとふさぎ込んでいるってのに!』


 「うっ!」

 

 思わずうめいてしまった。

 

 「エルハイミ!? だ、大丈夫!!?」



 もうちょっとだったのに慌ててティアナはあたしと距離を取り様子を見る。



 「ま、まだ本調子じゃないんだから無理しちゃだめよ・・・とにかくまだ安静にして寝なさい!あ、あたしはアンナたちと話があるから行くわね!!」


 そう言っておでこにキスしてさっさと行ってしまった。



 ああぅぅぅっ!!

 もうちょっとだったのにぃ!!!



 『シェルさん、ひどいですわ!!』


 あたしは念話で抗議する。


 『うっさい!それよりこれってどういう事よ?こっちの世界でも繋がったままって事?』



 そう言えばこんなにはっきりとシェルさんが分かるなんて・・・


 

 『これって【時の指輪】の繋がりなんてもんじゃないわ。こんなにもスムーズに念話が出来るなんて聞いたことが無い。あーもう、ほんとにこれってどうしよう!!!』


 なんか苛立ってるなシェルさん。

 でもあたしだってこんな事になるなんて思いもよらない。

 

 『それでシェルさんは今どこにいるのですの?』


 『もちろんマーヤの所よ。まあ、一応お礼は言っておく、ありがとう。なんかあの後マーヤも元気を取り戻してくれたんだけど、あたしの事娘扱いするのよね。あたしはマーヤの恋人になりたいのに!』


 そう言えばあの時マーヤさんはそんなこと言っていたなぁ・・・


 うーん、これはあたしに言われてもどうこう言える問題じゃないし、魂の融合の時シェルさんの過去は大体知ってしまったしなぁ・・・



 ん?

 融合時にあたしがシェルさんの過去を知ったってことは、もしかしてシェルさんもあたしの事を??



 『あ、あのシェルさんつかぬ事を伺いますけど、どこまで知ってますの?』


 『はぁ?何のこと??ああ、融合したときにあなたの過去とかティアナって女の子に恋心持っているって事?大体は分かったけど、あなたってかなり小さいころからの意識が強かったかったのね、しかも無詠唱で魔法が使えるなんてすごいじゃない!』



 うっ、いろいろとご存じになっておられる・・・

 じゃ、じゃあ、あたしの前世の事も??



 『あ、あのうぅ~もしかして私の生まれる前なんかも分かってらっしゃるとか~~~??」


 『はぁあっ??生まれる前の事なんか分かるわけないじゃないの!!あなた頭大丈夫?そもそもあなたの記憶を見たのだって断片的でなんか色々あってあたしの知らないことばかり!うらやましすぎるわよ!!』



 うらやましい??

 生前の事なんか分からない?

 断片的??


 もしかしてシェルさんの魂があたしに隷属しているから全部が伝わってない??

 


 『そうすると、シェルさんには私の記憶が全部行っていないのですの?シェルさんの記憶は全部私に来ているのに??』


 『なっ!ま、まさかあたしがたまに夜一人で楽しんでいる事も伝わっているの!!?』



 ん?

 夜一人で楽しんでいる・・・?



 『あっ!』

 

 あたしは思わず赤面する。

 シェルさんが何していたかを記憶を探れば鮮明に思い出せてしまったからだ。


 『わ、忘れなさい!!今すぐに!!!そして二度と思い出しちゃダメっ!!!』



 うわー、あんな事やこーんな事までしているよ。

 おひとりですごいお楽しみだぁ~。

 あ、すっごい、指が中に!

 あたしは脳内ビデオを再生しまくって思わずニマニマしてしまった。

 久しぶりに心の男の子がおっきしてしまった!!



 『ねえ、今あたしが何してたか必死になって思い出してない!?』


 『そ、そんな事、あ、ありませんわですわ・・・』


 『怪しいわね・・・まあいいわ、今からそっちに行くから。今後についてちょっと相談が有るの。いいかしら?』


 まあ、話ぐらいなら今は問題なく出来るし、ずっと寝てるったってもう眠気は無いのだから眠るわけにもいかない。


 『ええ、分かりましたわ。大丈夫、いらしてくださいまし。』

 

 あたしの答えにシェルさんは分かったと言ってそれきり念話は切れた。



 * * * * *



 「ここかな?エルハイミいる?」


 ひょいとシェルさんは開いていた扉から顔を出す。

 部屋を一別してあたしを見つけるとそのままずかずかと入り込んできた。


 「聞いてた話よりずっと深刻そうじゃない。大丈夫なの?」


 ちょっと心配そうな顔つきになるシェルさん。


 「ええ、おかげさまで意識ははっきりしていますわよ。ただ、まだ体が思うように動かないので起き上がれませんけどご容赦くださいまし。」


 「うん、無理はしないで。しかし、何よその髪の毛ほとんど真っ白じゃない?」



 うっ!

 前に鏡で見せてもらったけどまだまだ白いか!?

 や、やばい、ちゃんと元に戻るんでしょうね?

 そうしないと絶対に実家のママンには会えない!!

 こんな姿見られたらどんな折檻されるか!!!



 「だ、だいじょうぶですわ、き、きっと元に戻りますわよ、回復すれば・・・」


 動揺しまくりのあたし。


 シェルさんはふぅーんと言って持ってきた籠をあたしに見せる。


 「滋養強壮栄養満点のコカコールの実よ。すりつぶして水と混ぜて飲めば甘くてしゅわしゅわしておいしいわよ。あとで作ってあげるわね。」


 近くにあったテーブルにそれを置いて自分は椅子を引き寄せそれに座る。


 「ところで、あたしたちなんだけどさっきも念話で有ったようにもう切っても切り離せないみたいよね?それにあたしの初めてをあなたに託すって言ったから、そ、その頑張ってこれ生んできたの!!」


 そう言ってシェルさんはあたしに一つの指輪を差し出す。


 「これは何ですの?」


 「あ、あたしが生んだ『時の指輪』よ!エルフの秘宝、女にしか作り出せないこの指輪ははめた者と命を共有するの。今の貴女は体だけじゃなく命も弱っているはず。回復の手助けくらいにはなるわ。これは、その、今回のお礼よ!受け取って!」


 そう言って寝ているあたしの指にその指輪をはめ込む。

 するとその指輪が光ってあの時に似た感じでシェルさんを感じる。



 心臓の鼓動が力強くなる。



 だんだんと体に力が戻ってくるような感覚がある。


 「これは・・・」


 「うん、上手くいったみたい。苦労して生んだ甲斐が有ったわ。」



 えーと。



 「さっきから気になっているのですけど、生むってどういう意味ですの?」


 「えっ?言葉のままだけど?もしかしてヒュームにはそう言った事無いの??」


 「!!?」



 そりゃあ驚きますって!!

 まさかエルフの秘宝がそう言った形でこの世に出てくるとは!!?

 しかも命の共有ってことだからよく耳にする「命の木」が枯れるまで指輪をはめた者は朽ちる事が無いと言われる理由も、今回師匠が巻き込まれたのもよく理解できた!



 「え、えーと、いいのですの?こんなに貴重なもの頂いて?」


 「さっきも言ったでしょ、お礼よ。それで相談なんだけど、あなたたちこの後どうするの?」


 どうするも何もこれから上級精霊を召喚してもらって魔結晶石に融合させたらボヘーミャに戻って四連型魔結晶核の開発に取り組まなきゃならない。


 「この先もいろいろと忙しいですわね、さしあたりメル長老たちに上級精霊を召喚してもらった後はボヘーミャに戻りますわ。」


 「ふーん、ルルたちが留学してたって言ってた学校ってやつね?ねえ、あたしもついてって良い?」


 「はいっ!?」


 「マーヤとも色々話したんだけど、やっぱりあたしは外の世界を知りたいの。マーヤは心配していたけどそれは母親的な心配。今のあたしにはそれってきついのよね。で、今回の事も有ったしもっと色々を学びたいって言ったら渋々認めてくれたのよ。お父さん、お母さんも親戚のソルミナ姉さんが学園にいるからそれなら安心だって言ってたし。」


 「えっ!?ソルミナ教授の親戚だったのですの!?」


 今明かされる世間は意外と狭いと言うやつ。

 しかしソルミナ教授か・・・


 「ええと、師匠に聞いてみないと私の判断だけじゃ何ともいえませんわ・・・」


 「ああ、それなら大丈夫。マーヤが英雄ユカ・コバヤシに了解とっているから!」



 師匠、すでに決定済みなんですね??

 あたしはため息をつく。



 「じゃ、そういう事で元気になったらあたしも連れて行ってね!と、コカコールの飲み物作ってきてあげる。ちょっと黒くて最初は驚くけど飲み慣れるととってもおいしいわよ!」


 そう言ってコカコールの実をもって部屋から出ていく。




 窓辺の外を見るとだいぶ日が傾いてきてもうじき夕刻となるだろう。

 上級精霊の召喚とか融合とかすごく気にはなるけど、今回は全部お任せしよう。



 

 今は回復が最優先。




 あたしはシェルさんが作ってくれるコカコールの飲み物を楽しみに待つのだった。

 

  

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