第137話6-9マーヤの木

6-9マーヤの木


 シェルさんの事で気付かなかったけど、よくよく見れば林の木々は薄暗い色に染まり始めているのがそこかしこに有った!!




 「まずい!思っていた以上に呪いの進行が速い!!あたしもこっちに来て分かったけど、マーヤの木はエルフの木を全部むしばむまでは死なない。マーヤの木が死滅するとこっちの世界に介入する手段がないみたい!逆にマーヤの木の呪いさえ解ければみんなの木の呪いも無くなるわ!!んっ!?こっち見たい!!」


 あたしはシェルさんについて走る。

 そしてしばらくしてそれは見つかった。


 シェルさんの木に比べずっと大きい。


 しかしその半透明な木は今や濁った黒のクリスタルのようになっていた。

 呪いのせいか形状も普通の木とは違う。



 「間違い無い!マーヤの木だ!!」



 それを見たシェルさんは断言する。


 良かった、とにかくマーヤさんの「命の木」は見つかった。


 問題はどうやってこの呪いを解くかだが、アンナさんの話だと既に呪いの本体自体はこちらの木に完全に乗り移っているはず。

 後からあちらの世界より追加で呪いが来る事は無いらしい。


 「でも、どうやってこの呪いを解くの!?」


 「呪いも魔術の一つ、基本この精神世界でもマナは存在しますわ。【解除】ディスペルマジックを試してみますわ!!」


 あたしはさっそく【解除】魔法、ディスペルマジックを発動させる!


 しかしその魔法がマーヤさんの木に達する前に黒いモヤが吹き出しあたしの魔法を相殺する!?



 「なっ!?」



 驚くあたしに更に驚くことが起こる!


 先ほどのモヤがまたまたマーヤさんの「命の木」から吹き出し二つの影を作る。

 しかもその影は人型をとっていきついにはあたしたちがよく知る人物の姿になった!?



 「マ、マーヤ!?」

 

 「師匠!?」



 色こそ違い真っ黒だが間違いなくあの二人だ!



 「どういうこと?マーヤ!あたしよ!シェルよ!!」


 「師匠?」


 しかしあたしたちの声はこの二人には届いていない?

 いや、師匠のあの動き、間違いない!!



 あたしはシェルさんをかばってその場から飛び退く!!

 

 今まであたしたちが居た所に師匠の居合斬撃とマーヤさんの矢が突き刺さる!!


 「なっ!?マーヤ!!あたしだよ!シェルだよ!!!」


 「シェルさん、退いて!あれは師匠たちじゃないですわ!!呪いが作り出した師匠たちの偽物ですわ!!」



 あたしは【感知】魔法であの二人がマナでできた偽物であることを突き止めていた。


 しかし、あの二人から伝わってくる雰囲気は師匠たちのモノと全く同じ!?


 「くっ!【絶対防壁】!【炎の矢】!!」


 あたしは師匠なら次が来るだろう地面に絶対防壁をかけ【地槍】をシェルさんとやり過ごしながら横から飛んできたマーヤさん矢を【炎の矢】で叩き落す!



 冗談じゃない!



 師匠の攻撃にマーヤさんの支援攻撃が加わってとてもじゃないけどさばききれない!!


 こっちの世界でダメージを食らうとどうなるか分からないけど、ただでは済まないだろう。



 「シェルさん!精霊魔法は使えますかしら?マーヤさんの弓矢を風の精霊の加護で封じてくださいですわ!!」



 つくづくあたしは肉弾戦に弱いと思い知らされる!


 もし師匠じゃない達人だったら癖が分からず攻撃が読めない!

 今はかろうじて避けていられるけど長くはもたない!



 どうする!?



 「マーヤの偽物!?わかった!【風の乙女よ!あたしたちを守って!!】」

 


 シェルさんが精霊魔法を使う!

 一瞬透明なエルフのような女性が現れたと思ったらあたしたちの周りに風の壁を作る!



 「【拘束】!【睡眠】!【絶対防壁】!そして【雷撃】ぃぃっ!!!」


 あたしの連続魔法が完成して偽師匠たちに降り注ぐ!!

 

 魔法の鎖が偽師匠に飛びつき睡眠の魔法が偽マーヤさんに飛ぶ!

 しかし予想通り偽師匠のは鞘をおとりに【拘束】魔法を無力化して抜いた刃で衝撃波を放つ!

 偽マーヤさんもやっぱりレジストして矢を放っている!

 あたしは同時に発動させた【絶対防壁】でそれらをしのぐ!

 そしてあたしが最後に放った【雷撃】が攻撃をしてわずかな時間動けなくなっている偽の二人に命中する!



 「やりましたわ!!」



 何とか読み勝ちしたあたしたち。

 流石に偽物も【雷撃】の魔法が直撃したらひとたまりもない、偽の二人は倒れてあっさり霧散した。



 はぁはぁ


 あたしは肩で息をする。

 何とかしのいだ?



 「エ、エルハイミ!!」


 シェルさんがいきなりあたしを突き飛ばした!


 「えっ!?」


 突き飛ばされたすぐ横を黒い矢が飛び去る。

 あたしはすぐに体を引き起こし、身構えて見たものは衝撃的なモノだった!!



 偽師匠と偽マーヤさんがざっと見三十人くらいづついる!!??



 「何なのよこれ!?偽物のマーヤだらけじゃない!!」


 「シェルさん!いったん引きます!!引けば師匠なら深追いしません!!【光】よ!!!!」



 あたしはそう言いながら偽物たちに向かって強力な光の玉を瞬間的に発生させ動きを止めさせる!

 そしてそのわずかな瞬間を利用してシェルさんを引っ張ってこの場を逃げ去る!!




 * * * * *




 はぁはぁ。


 「お、追っては来ませんわね、やっぱり師匠と同じですわ。」


 「あ、あれって、はぁはぁ、どういう事よ?」


 本気で逃げてきて追手がいないのを確認したあたしたちは座り込んで一息つく。


 

 

「多分呪いが自己防衛で媒体となる魂のマーヤさんと師匠をもとに偽物を作り出したのですわ。しかしあんなに偽物が作り出せるなんて、一体どこからそんな力を得ているのかしら?」


 いくら呪いが強いからって無限にその力がふるえるわけではない。

 魔術は等価交換、対価が無ければ発動しない。


 「もしかするとさっきのが偽物の力の源?」


 シェルさんが何かに気付いたみたいだ。


 「どういうことですの?何かわかったのですの??」


 「さっきあなたが偽の二人を倒している間周りの黒ずんだ『命の木』から例のモヤが出て偽マーヤになったわ。でもその後その『命の木』は元の半透明になった。もしかしてあのモヤは感染した呪いが形になったもの?」


 もしそうだとすれば感染した木々から養分でも取って増殖をしていく?

 確かに理にかなっている。



 しかし問題は偽とは言え師匠並みの攻撃をしてくるあれをどう倒すかだ。


 

 「もしそうだとすれば可能な限り偽物を作らせて一網打尽出来ればかなりの呪いを排除できるという事ですわね?」


 「うん、多分。でもどうやってあんなにいる偽マーヤを倒すのよ?」



 あたしはふとシェルさんの首輪を見る。


 

 「シェルさん、攻撃が出来そうな精霊って今、一度にどのくらい呼ぶ出しできそうですの?」


 「精霊?頑張っても二体が限界よ。」


 今のシェルさんとあたしは魂がつながっている。

 だとすれば召喚時に大量に魔力を注ぎ込めばもっといけるのじゃないだろうか?


 戦いは数だよ、シェルさん!!


 「シェルさん、私の魔力をシェルさんに大量に注ぎ込みますわ。なので可能な限り攻撃が出来そうな精霊を呼び出してくださいですわ。その間に私はあの魔法を再現してみますわ!」



 シコちゃんがいないからうまくいかないかもしれない。

 でもそこは強引に魔力に物言わせれば何とか発動させられるんじゃないだろうか?



 シェルさんはじっとあたしを見る。


 「まあ、あなたの馬鹿みたいに大きな魔力は認めるわ。あたしもあなたの魂に触れたからわかる。でもあたしがどこまで精霊を呼び出せるかは分からないわよ?」


 「それでも今は時間も無いし、他に方法も思い浮かびませんわ。」


 シェルさんはもう一度あたしを見てからうなずく。

 

 「わかった、やってみましょ。それとさっき気付いたのだけどこの鎖つながっているけど他の『命の木』は素通りするみたいね。長さも多分あなたが意識しなければ自由に伸ばせるっぽい。もしかしてこれを使ってあたしに魔力が送れる?」


 シェルさんに言われてあたしはさっそく試してみる。


 すると確かに鎖を伝わって魔力が送れる?

 さらに試しにギリギリ見えなくなるくらいにまで離れてみたけど、なんと念話のようにこの鎖を伝わって意志の疎通もできる。

 

 「いけそうね。」


 「はいですわ。」


 あたしとシェルさんは顔を見合わせ笑う。


 「行きましょう!」


 「ええ、やりましょうですわ!!」




 そう言ってあたしたちはもう一度マーヤさんの「命の木」に向かうのだった。

 

 

 

  

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