第120話5-26ノルウェンの防衛
5-26ノルウェンの防衛
「アテンザ殿、感謝する。新たにマシンドールを三体も支援に回してもらえるとは。」
上機嫌のウェースド陛下だがアテンザ様は少し落ち込んでいる様子だった。
一刻も早くティアナに会おうと思ってガレント国境に回されていた新型マシンドールを有無を言わさずノルウェンに提供すると本国に通達してどういうルートで了承を得たのかこんな短期間で戻ってきたわけだ。
しかも今回はマシンドール小隊丸ごと持ち帰り。
いくら元王族の姫君でもよくこんな横暴が通ったものだ。
今回も夫のフリッタ―侯爵が同行していないのでアテンザ様の独断で事を運んでいるっぽい。
「いえ、これは我が国とノルウェン王国との友好の証。ノルウェンは我が国にとっても重要な国ですからですわ。時に、魔結晶石の方はいかがでしょうか?私も今回の新型マシンドールの手配にはかなり苦労をいたしましたわぁ。」
うっ!とか陛下言ってるよ・・・
昨日の今日なので今まであったことはまだアテンザ様には伝えられていない。
「アテンザ様、魔結晶石については私からご説明いたします。」
アンナさんが助け舟を出す。
そして今までの事を含め要点をかいつまんでアンナさんはアテンザ様にお話しする。
* * *
「するとジュメルとかいう連中はしつこくここを襲撃し続けるという事ですね?それにティアナたちの探している魔結晶石もまだ一つしか手に入れられていないと?」
アテンザ様はウェースド陛下を見る。
陛下は額に脂汗をかいているようだ。
「ま、魔結晶石については引きつづき選別をさせておる。しばし、しばし待たれよ。」
なんかアテンザ様怖いです。いや、原因は昨日の事なんだろうけど八つ当たりだよねこれって?
アテンザ様はふうっとため息をついてからロクドナルさんを呼ぶ。
「防衛についてはロクドナル、あなたが指揮をとりなさい。マシンドールたちはオートモードになっています。コマンドはあなたに預けますから適任の魔術師か魔法騎士が来るまで面倒を見てあげなさい。陛下、よろしいですね?」
「あ、ああ。かまわんよ。大臣たち、早急にマシンドールの適任者を用意せよ!」
「はっ!」
そう言って大臣たちは退席していった。
アテンザ様はマース教授やあたしたちの方を見てそれでと切り出した。
「マース教授、魔結晶石の確保はどのように見ますか?」
「そうですな、選別の方は上手く行っても一つ見つけられれば御の字かと。」
アテンザ様は少し考えこむ。
「既に市場に出回っている可能性は?」
「セロではないでしょうが、魔晶石と魔結晶石の違いに気付くものがいるかどうかですな。」
「そうしますと遺跡や迷宮に有る確率は?」
「それこそ少ないでしょう。本来の目的が封印のクリスタルの原料なのですから。さらに言えば古代魔法王国は『賢者の石』のおかげで大きな魔法は全てまかなっていた。個人が使う魔法などたかが知れているのでわざわざ魔晶石を使うこと自体が少ないでしょう。発動用の魔法を封じるにもそれほど大容量が必要と言う訳でもないですしな。」
魔結晶石の確保は手詰まりかな?
後は選別で見つかるのを祈るだけか・・・
あ、そう言えば人工の魔結晶石は?
「そうですか。ではまずは選別の知らせを待つしかなさそうですね?」
マース教授は首を縦に振る。
そしてあたしたちはいったん部屋に戻ることとなった。
* * * * * *
「さて諸君、陛下の前では伏せていたがいよいよ実験を行う。エルハイミ君、アンナ君、そしてティアナ殿下よろしいかな?」
あたしたちはマース教授の部屋にいる。
部屋には既に先日ティアナたちが買い付けた魔晶石が百個ちょっとテーブルの上に転がっている。
「マース教授、本当に人工で魔結晶石が出来るのでしょうか?」
アテンザ様は半信半疑だ。
「実は遺跡から回収した魔導書に似たようなことが書いてありましてな、どうやら以前は全て人工で魔結晶石を作っていたようですな。」
なんと!
やはりそうか。
自然にできる魔結晶石なんて天然物の真珠くらいまれなはず。
流石にそれを見つけるのは至難の業だからやはりそう言った作成方法があったのか!
「では諸君、私の言う通りに作業を始めてくれたまえ。まずこれらの原石を空中に浮かばせ、周りを真空にして不純物を降り払う。そして高温で熱してくれたまえ。」
あたしたちはあたしが中心に言われた通りにする。
あたしが念動で持ち上げ、真空にしたのを見計らいティアナが熱する。
すると赤くなり始めた原石はガラスのように溶け始めた。
「次にこの溶解した魔晶石をゆすってみてくれ、純度の高い部位は下へ不純物は上へと別れるはずだ。」
アンナさんが何度かこの溶解した塊に魔法で衝撃を与える。
何度か衝撃を与えていたら変化が表れ始めた。
確かに表層には濁ったり水っぽい部位がたまり、下の方はきれいなオレンジ色のままだ。
「よろしい、それではオレンジ色の部分を旨く切り離し圧縮をかけてくれたまえ、可能な限り力を込めて。ティアナ殿下加熱はもうよろしいですぞ。」
あたしは言われた通りにオレンジ色の濃い部分だけを切り離し全方向から圧縮をかける。
【重力】、【圧縮】魔法を併用してどんどんこのオレンジ色を圧縮していく。
ぎっ、ぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃっ!!
鉄のつぶれる音とはまた違う何とも言えない音を立てながらオレンジ色の塊は小さくなっていく。
そしてある臨界点が来ると一気にそのオレンジ色は白く輝き始めぎゅっと小さくなる!
周りに高熱が発せられるけど真空と危険を感知したあたしの自動防御壁発生のおかげで被害は全くなくそれは大きさをさらに小さくしていく。
「エルハイミ?」
「も、もう少しですわ!!」
「【状態回復】!」
アンナさんが魔法をかけてくれる。
これで更に集中が出来る!
ぎちぎちぎちっ!
キンっ!!
一瞬高い音がしてそれは光を放つのをやめ、熱も発しなくなった。
そしてそこに現れたのはきれいな透明な丸い塊。
ふしゅうううううううぅぅぅぅぅ・・・・
真空が解除されると周りの空気を焼きながら更にそれは温度を下げていく。
「うむ、成功したようだな!」
マース教授の言葉にあたしたちはどっと喜びの歓声を上げる。
「やったっ!エルハイミ魔結晶石が作れた!!」
「ええ、ティアナやりましたわね!!」
「これで残り二個、早速魔晶石を買い付けに行きましょう!」
わいわい、がやがや。
どんどんっ!
扉をたたく音がしてそれが開く。
「失礼します!ジュメルが攻めてきました!!」
喜んでいたあたしたちに衛兵が襲撃を伝える。
昨日の今日でもう攻めてきたか!?
「すぐに行きます。」
アテンザ様がそう言いあたしたちも後を追いかけ現場に向かう。
* * * * * * * *
「な、なんなのよおぉ!!なんでこんなに強い人形共がいるのよ!!?」
現場に着いたあたしたちが見たものは既に黒ずくめたちも怪人も切り伏せ、最後の怪人がマシンドール隊に駆逐されている最中だった。
「ふむ、流石に新型マシンドールがいると助かりますな。衛兵諸君!敵は既に総崩れだ!一気に殲滅するぞ!!」
おおっー!!
衛兵たちの士気も高い。
残りはわずか黒ずくめとあの幹部らしき女性だけ。
しかし、なんで皆ボンテージ着込んでいるのだろう?
しかも美人ばっかでみんな胸が大きい。
と、ここでマース教授が声を張り上げる!
「ジュメルよ!貴様らの欲しがっている『暗黒の杖』は既に我がガレント王国が摂取した!これを欲するのであれば我が国と対立する覚悟をせよ!!我が国は新型マシンドールでお相手をするぞ!!」
「なにぃ!!ガレントが『暗黒の杖』をてにしたですぅってぇ!!??」
マース教授の張り上げた声に女幹部は反応した!?
「ちっ!お前たち撤退よっ!!」
そう言って我さきと踵を返す。
「逃がさん!!」
ロクドナルさんが動くも黒ずくめが邪魔をする!
しかしロクドナルさんも心眼を開いた状態、一刀両断に切り伏せる。
が、流石にこのタイムラグで女幹部は逃げてしまった。
「うむ、取り逃がしてしまったか。」
「ご苦労様です、ロクドナル。どうやら新型マシンドールは役に立ったようですね?」
ロクドナルさんのもとに駆け付けるあたしたち。
アテンザ様の言葉にロクドナルさんは「ええ、しかし逃がしてしまいました。」と言って謝罪する。
「ショーゴさん、ジュメルの目的ってやっぱり『暗黒の杖』でしたの?」
「我が主よ、すまんが今回の件は俺も知らないのだ。ただあいつらは近くの鉱山や祠のある村を襲っていた。」
「やはり『暗黒の杖』が目的でしたか。しかしマース教授のおかげでこの杖はガレントにあることとなり、彼らもそうそう攻め込んではこれないでしょう。」
「流石マース教授です。良い気転でした。しかしそうするとますますその『暗黒の杖』が何なのか気になりますね。教授、ボヘーミャで研究が進み解析が終わりましたら我がガレントにもお知らせください。」
「ええ勿論です、必ずお伝えいたしますよ。」
そう言って手に握りしめられた杖を見る。
「でもこれであいつらこのノルウェンを攻め込む理由がなくなったわね?新しい双備型魔晶石核のマシンドールもあの怪人たちを凌駕していたみたいだしこれで一安心ね!」
「ねね、あの子たちアイミより胸大きいよ!」
「えっ!?」
マリアの声にティアナが反応する!
ぴこぴこっ!!
アイミは貧乳はステータスだ!とか言ってるけど、自分の胸をさすっていたりする。
「エ、エルハイミ~これはどういうことぉ~!!??」
「い、いえこれは双備型が入らないので前にその解決方法を・・・」
「早くあたしのも大きくしてよっー!!!!」
ティアナの声がこだまするのであった。
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