第117話 5-23ノルウェンの古代遺跡その一

5-23ノルウェンの古代遺跡その一



 「【明かり】よ。」


 アンナさんが杖に明かりをともし、あたしたちは古代遺跡に踏み入る。



 

 ノルウェンの古代遺跡は結構古くから知られていて既に隅々まで探索がなされているらしい。

 しかし秘密結社ジュメルはこの鉱山を欲していた。

 最初は豊富な採掘量の魔晶石狙いかと思ったがどうも違うようだ。

 もともと古代でも魔晶石の更に上になる魔結晶石は研究がされていたようでこの遺跡がまさしくのその研究所だったらしい。


 ショーゴさんを先頭にあたしたちは中へと進む。


 前に観光で行ったミロソ島のダンジョンとは違って整備もされていないし、掃除だってされていない。

 本当のダンジョンってこんなんだ。

 生前のゲームのように快適さなんてこれっぽっちもない。

 あたしは心底げんなりしながら歩いていく。


 「ふむ、地図によるともう少し行った所に貯蔵庫のような広場があるのか。一応そちらに行ってみよう。」


 マース教授が支持する方向へと向かう。


 地下なので空気も悪いしかび臭いなぁ。


 と、貯蔵庫らしきところへたどり着く。

 既に破壊された扉の跡があるけど扉自体は既にない。

 中は結構広くバスケットボールのコートくらいかな?

 多分ここに荷物をためていたんだろうね。


 「マース教授、あからさまに貯蔵庫のようですが何故ここへ?」


 アンナさんが質問する。


 「こういったところで意外と隠し金庫の様な物がある場合がある。通常の品以外にも上級品などを保管する場所としてね。もし希少な魔結晶石が有ったとしたら運び出す段階まで厳重に保管されると思われるわけだ。」


 そう言って魔力感知の呪文を唱える。

 マース教授は壁や床、果ては天井まで念入りに確認する。

 しかし何も見つからない。


 「ふう、残念ながら何もないようだ。次へ行こうか。」


 そう言ったマース教授をアンナさんが止める。

  

 「教授、待ってください。入り口のすぐ横に何かあります。」


 見るとただの壁だが、あたしはアンナさんの目の色が金色に薄く輝いているのに気付く。

 心眼を開いている状態だ。

 しかもアンナさんの場合心眼の本当の使い方をよく理解しているから師匠と同じく今アンナさんに見える世界は通常の世界と全く違う。

 以前にも聞いたけどサーモグラフィーみたいな感じで見えているらしい。


 「ここですね、だいぶ小さいですけど、なんでしょう?壁はレンガですが奥に鉄の扉で封印されているみたいですね。」


 アンナさんはさらに確認してトラップはない事を告げる。


 「俺がやろう。」


 そう言ってショーゴさんは義手でレンガの壁を破壊する。


 

 ああ、せっかく鏡面処理までしたんだからもう少し丁寧に扱ってよ。



 しかし壁はショーゴさんのおかげで簡単に破壊され、少し奥まったところに金庫ような感じの扉が見える。


 「私がやります。【解除】。」


 封印された扉はギシギシ言いながら開く。

 そして中には書類と鍵の様な物が一つあるだけだった。

 それをマース教授は取り出し目を通す。


 「ふむ、どうやら古代魔法王国が崩壊したときにここ残した魔晶石やら貴重品やらの目録のようだね。それと・・・。ふむ、この鍵はどうやら別の研究室にある隠し金庫の鍵のようだね。」


 「隠し金庫ですの?」


 「そうするとジュメルの探していたものはそこに?」


 マース教授は鍵をまじまじと眺めてからこちらを見る。


 「何があるかは分からないが、エルハイミ君が持っていなさい。」


 そう言ってあたしに渡してくる。

 なんであたしにとも思ったけど、よくよく見るとマース教授は食糧やその他道具で手一杯ぽい。

 一番年齢の若いあたしが一番荷物が少ないので今後何かあったら荷物持ち確定ね。

 仕方なく、それをポーチの中にしまう。



 それからまたしばらく薄暗い迷宮を地図を頼りに回る。

 一応盗賊避けとか休憩室、簡易鑑定所のような施設だったぽいものがあったけどそこには特に何もなく、毎回隠し扉とか隠し金庫無いか探してみるものの何もなかった。




 時間的にはそろそろ夕方にかかる頃かな?

 地下迷宮にいると時間の感覚が狂うってほんとだね。

 

 「今日はここまでとしよう。この先に小部屋があるようだ、今晩はそこで休む事にしよう。」


 そう言ってマース教授は地図に赤いペンでバツ印をつける。

 地図は探索済みの部屋や怪しい通路は全て確認した。

 大体半分くらい終わっているから明日で残り全部は見きれるだろう。


 あたしたちは小部屋に入る。

 と、何かがうごめいた?


 「主よ、下がれ!」

 

 短くそう言ってショーゴさんは身構える。



 って、あなた素手じゃない!!?



 あたしは光の玉を作ってそのうごめく方へ飛ばす。


 そこにいたのはゾンビ?


 「運が悪かった鉱夫か?いや、傷み具合から先日の襲撃の被害者か。」



 皆さんご存じモンスター界の有名キャラ、ゾンビさんです。

 お約束通り鈍い動きに腐敗臭、確かにゾンビになったばかりかまだはっきりと人の形をしている。

 


 「じょ、【浄化昇天】魔法!!!」



 こちらに襲いかかる準備をしたゾンビさんはいきなりアンナさんの【浄化昇天】魔法を食らってきれいに昇天なされました。


 残ったのは彼が着ていた衣服と骨だけ。

 【浄化昇天】で魂まできれいさっぱりになっているのでスケルトンとかのモンスターになる心配もありません。


 「ああ、びっくりしました。どうもアンデットは苦手で不潔に感じてしまいます。しかしこんなところにゾンビが何故沸いているのでしょうか?」


 「ふむ、ただの死人だけではゾンビは発生しない。ゾンビに噛まれ感染するかその地の負の魔素か何かが無ければ不浄な輩にはならないはず。まあ探索を進めればその原因もわかるかもしれない。今晩は一応交代で見張りをつけよう。たかがゾンビだが寝ている間に襲われればひとたまりもないからな。」


 マース教授はそう言って部屋の中をもう一度調べる。

 特に問題は無いようだったのでここで休憩の準備を進める。


 「マース教授、すみませんがちょっと待ってですわ。」


 あたしはそう言って部屋全体に【浄化】の魔法をかける。

 【浄化】魔法は部屋を塵一つ、埃一つきれいに無くし、空気さえもすがすがしいそれに変える。

 そしてあたしたち自身の体も衣服もきれいにしてくれる。

 それはまるでお風呂に入って、きれいに洗濯された衣服を着たかのような爽快感を与えてくれる。


 「ほう、これが【浄化】魔法の効能か。何度か受けたことはあるがこういった地下迷宮では格別に良い物だな。」

 

 あのいつも苦虫をかみつぶしたようなマース教授が珍しく笑顔になる。


 「ほんと、エルハイミちゃん今度私にもこの魔法教えてくださいね。」

 

 あ、そうかまだアンナさんには教えていなかったっけ?

 師匠直伝のこの魔法は女性陣には大人気だが、結構コツがいるので要注意なんだよね。

 間違えると衣服が浄化されて真っ裸になってしまうというのは意外と知られていない事実だったりする。


 「先程もそうでしたが主は無詠唱の使い手でしたか!?」


 おや?

 ショーゴさんに今更ながらに驚かれる。

 

 「それほど驚かれるようなことかしら?」


 「無詠唱の使い手は百万人に一人と言われる才能が無ければできないと聞き及んでおります。流石我が主!」


 あの、感動されても対応に困るのだけど。

 あたしははははっと笑ってごまかした。



 さてと、始めるか。


 その後あたしは食事の準備をてきぱきとこなし、皆にご飯を配る。

 保存食の食事も工夫次第でおいしく頂けるので、乾パンと乾物の煮込みシチューだけどおいしく頂けました。

 みんなもおいしいと言ってくれたのでまずまず。

 ただ、ショーゴさんだけはほとんど口にしてくれなかった。


 「我が主よ、せっかくの料理大変申し訳ないが、俺はほとんど食事が要らない体なのだ。体のほとんどが人でないのでそれほど栄養が必要ないらしい。せっかく作ってくれたのに申し訳ない。」


 へー、やっぱり人間の部分が少ないと食事量も少なくていいんだ。

 

 「そうでしたの?わかりましたわ、今後ショーゴさんの分は調整しますわ。」


 そう言ってあたしはまたてきぱきと食器をかたずけ寝床の準備をする。

 見張りの順番を決めて先に眠らせてもらう事になった。



 さて、明日で残り全部調べなきゃだし、早く終わりにしてティアナのご機嫌取らないとやばいもんね。




 あたしは見張りの順番が回ってくるまでさっさと寝ることにした。


 

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