第115話 5-21魔結晶石

5-21魔結晶石


 とりあえず危機は去ったので本来の目的である魔結晶石の捜索が始まる。

 


 あたしたちは今採石後に一時保管をする倉庫へとやってきていた。

 この国の運営の要、魔晶石原石の採掘は国家事業として厳重に管理されている。

 未加工の原石は小さなものなら農民でも購入できる程度だが精査して加工した魔晶石はかなり高価な値で取引される。


 あたしたちは倉庫の中の原石を見る。

 

 見た目は岩と水晶が混じったような感じで所々土がまだついている。

 マース教授の話では魔晶石は女神様たちの力が地中に溜まって結晶化したものが元らしいが、どうもこれって鍾乳石のように水にもその成分が流れたりもするので地下湖なんかの近くにも多いらしい。

 ともあれ、この中で高純度、高濃度の魔結晶石を見つけなきゃならないけどこのままじゃ全く見分けがつかない。


 ウェースド陛下はあたしたちをその次の工程に連れていく。


 「採石された原石はここで仕分けをしておる。その後加工を行い商品にするのだが、ここまででマース教授殿は何か質問はあるかな?」


 「陛下、それでは仕分けの中で特に大きな原石、鍾乳石のようなものが付着しているもの、あとは他の宝石が混じっているものがあれば見せていただきたい。」


 ウェースド陛下はうむ、と言って同行している大臣たちに命令をする。

 命令された大臣たちは言われた内容の原石を次々と持ってきて陛下に見せる。


 「マース教授殿、これでよいか?」


 「はい、ではご説明いたしますのでどこか別の部屋に運んでいただけますかな?」


 陛下は良かろうと言ってあたしたちを別の部屋へと案内する。

 ちょっとした会議室だろうか?

 机や椅子が結構ある。


 ウェースド陛下が一番奥の席に座り、大臣たちも着席する。

 机をはさんで反対側にあたしたちも座って、机に先程の原石を並べる。


 「それでは、魔結晶石についてお話をいたします。まず、おさらいで魔結晶石とは純度と硬度が異常に高く、同様の大きさの魔晶石に比べ約百倍近い容量があります。そして更に特徴として加工によってはダイヤモンドに匹敵する輝きを持つ美しい宝石にもなります。」


 マース教授はそう言ってみんなを見渡す。

 そして原石の一つ、大き目なものを取り上げて話を続ける。


 「魔結晶石は山中で超高圧を受け圧縮されその純度や濃度が異常に高い。加えて水晶以上に透明度が高いという外観があります。この原石は・・・残念ながら違いますな、光にかざすと濁りが見えます。このように外観上の判断は行えますが、透明度が高ければいいと言う訳ではありません。」


 今度は鍾乳石のようなものが付着した原石を光にかざす。


 「魔晶石は水にも多少溶解して結晶化する性質がありますが、この鍾乳石がついた原石は見た目は純度が高いですがこうやって力を入れると・・・」


 ぼきんっ!


 人の手の力で簡単に折れてしまった。

 切り口から覗くそれはそこそこ透明度が高いように見えるが強度が全然駄目である。


 「水溶液による結晶は時間をかけてきれいに結晶をするものの、密度がどうしても低くなってしまう。なのでこう言った応力をかけて確認ができます。」


 そしてマース教授は最後に他の宝石らしきものが混ざった原石を取り上げる。


 「最後に混合してしまった原石ですが、これが一番厄介です。ルビーや紫水晶のように色がついている宝石と混ざっている分には見分けがつきますが、水晶やダイヤモンドなどと一緒の場合は非常に見分けつきにくいのです。」


 取り上げた原石は残念ながら紫色が混ざっているので紫水晶との混同品だろう。

 

 「まずはここまでで魔結晶石と思われる原石を見つけ出すことです。その後加工時にさらなる見極めをいたします。ウェースド陛下、まずはそれらしき原石の仕分けを願います。」


 マース教授の話を聞いていた陛下はふむと言って大臣たちに命令を下す。


 「よいか、マース教授殿が教授された原石を探すのだ。すぐに始めるように!」


 大臣たちは返事をして急いで工房や倉庫へと散っていった。



 「エルハイミ君、アンナ君、ちょっといいかね?」


 その様子を見ていたマース教授はあたしたちに小声で声をかける。

 

 「ティナ殿下にお願いして上質の魔晶石を先に百個ちょっと都合できないかね?」


 ん?

 なんで魔晶石を必要とするのだろう?

 

 「マース教授、なぜ魔晶石を必要とされるのですか?」


 疑問に思ったアンナさんが聞く。


 「君たちにならできるかもしれない実験をしたいのだよ、ただ出来ればウェースド陛下には見せたく無いのでね。」


 アンナさんは小声でわかりましたと言ってティアナに近づく。



 「時にウェースド陛下、秘密結社ジュメルについていくつかお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 アンナさんと話が終わったティアナは話題を変えてきた。


 「ティアナ殿下、どのようなことかな?」


 「はい、以前秘密結社ジュメルがここノルウェンを襲っていたと聞いています。襲われて強奪された物ってあるのでしょうか?」


 「ふむ、確か多少魔晶石を持ち去られていたが、いちばんは必要に古代遺跡に潜り込もうとしていたようであった。」


 ん?

 ノルウェンを襲ったのは魔晶石目的だけじゃない?


 「そうしますと古代遺跡には何かあるのですか?」


 「無論古代遺跡は調べたが、いくつかの魔晶石に関する研究資料やそれに付随する魔法器具があったくらいであった。」


 ウェースド陛下のそぶりは嘘をついている風には見えなかったし、事実ここで発掘された魔導書などはコルニャで見せてもらっている。


 でも、まだ何かあるのかな?

 今回の奇襲も目的の一つがこの鉱山を抑える事だったみたいだし。


 「それと、もう一つ。以前襲撃を受けたときにジュメルは怪人を引き連れていたでしょか?」


 「ああ、それは間違いなく連れておった。しかし、以前はあそこまで強くはなかったようだがな。」


 やはりそうか、ここしばらく大人しくしていたのは怪人のキメラを強化していたからか。

 しかもどういったルートで手に入れたのか、魔晶石核を異形の兜の人は装備していた。

 もしかすると怪人たちも魔晶石核を装備しているかもしれない。



 「そうすると、目的は鉱山と古代遺跡の両方を必要としているって事かしら?」


 ティアナの推測はたぶん当たっているだろう。

 また襲撃があってもあたしたちがいる間は問題無い。

 でも、鉱山と遺跡についてはもう少し調査する必要があるな。


 「防衛の要についてはわかりました。ガレントからの増援があるまでは私たちにお任せを。」


 そう言ってティアナはウェースド陛下にお辞儀する。

 陛下はねぎらいの言葉をあたしたちにかけてくれて、使用人を呼び休憩ができる部屋へと案内させる。


 あたしたちは案内された部屋でとりあえずお茶を飲みながら今後について話し合う。


 「ウェースド陛下からはある程度選定が終わったら声をかけてもらえるよう話はしておいた。それより、ティアナ殿下魔晶石の方は何とかなりますかな?」


 先程の話だ、一体どういう事だろうか?


 「買い付け自体は問題ありません。しかし、百個以上もの魔晶石なんてどうするつもりなんですか?」


 マース教授はあたしとアンナさんを見てから声をやや潜めて話す。


 「私の見立てでは魔結晶石はいいとこ一つ二つ見つければ御の字でね、四連型を製作するには到底足らないと思うのだよ。そこで君たちならできるのではないかと言う事を試したい、人工魔結晶石の作成をね。」


 なんとっ!

 人工で魔結晶石ができるかもしれないのか!?


 「マース教授、そのようなことが可能なのですか?」

 

 疑問を口にするアンナさん。

 

 「上手く行くかどうかは分からないが、これだけ純度の高い魔晶石があればもしや可能かもしれない。君たちが大魔導士杯で作り上げた『美の誕生』と同じようなことはできるのだろう?」


 「あっ!」


 あたしは全く考えていなかったそれに思わず声を上げてしまった。

 それってもしかすると上手く行くかもしれない。


 「普通は思いつかん事だが、規格外の君たちと長々付き合わされるとこういった発想も出てくるものだ。やってみる価値はあると思うがね?」


 マース教授は珍しくニヤリと笑う。

 それはどこかいたずらっ子みたいな笑いだった。


 「じゃあ、早速陛下にお願いして先に魔晶石を買い付けなきゃね!」


 ティアナはアンナさんを引き連れて部屋を出て行った。

 



 さて、うまく人工魔結晶石が作れるだろうか?

 期待を不安を胸にあたしはティアナたちが戻ってくるのを待つことにした。

  

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