第89話4-26精霊都市ユグリア
4-26精霊都市ユグリア
青く輝く光に視界が覆われたかと思うと、その輝きは瞬く間に消え、気付くと全く違う場所に立っていた。
あたしは周りを見ると、信じられない程大きな大木に囲まれたストーンサークルのような場所に立っていた。
足元を見るといくつかのゲートの魔法陣が薄く光っている。
時間的にはまだ午後一番の頃、うっそうとした大木のおかげで太陽の光はわずかだ。
「珍しいな、ゲートを使うものが現れるとは。」
声のする方に目を向けると弓矢を構えた男性のエルフが二人こちらを見ている。
「人間の少女か。名前と目的を言ってくれ、一応役目なんでね、来たものは全員確認しなければならないんだ。」
「私はティアナ=ルド・シーナ・ガレント、そしてこちらはエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン。学園都市ボヘーミャから市長宛の親書を持ってまいりました。」
そう言ってティアナは懐から師匠の親書を取り出してエルフに渡す。
エルフの男性はそれを受け取り、蝋の封印を見る。
「確かに、これは英雄ユカ・コバヤシの印だな。わかった、俺が案内しよう。ついてきなさい。」
そう言って弓を下げあたしたちについて来るよう言う。
「エルハイミ、大丈夫?」
魔力を使った事への心配らしいけど、なんでだろ全然問題無い、まだまだ余裕で行けそうだ。
こんなことならアンナさんやロクドナルさんたちもつれてくればよかった。
「ティアナ、多分今のティアナでも余裕でしょう。私は全然問題ありませんわ。」
それを聞き、ティアナはほっと息をついてエルフの後についていく。
あたしも一歩遅れて二人についていくが、ストーンサークルから出て驚いた。
ストーンサークルは少し小高い丘の上にあったようでその出口から連なる大樹の双璧は圧巻の一言だ。
そしてその壁の奥に緑を基調とした街がのぞき見える。
森林の良い香りを胸いっぱい吸いながらあたしとティアナは歩いていく。
「うあー、すごい奇麗!」
「本当ですわね、こんな大樹見たこともない!」
「人間の少女たちよ、ユグリアには初めてか?」
あたしたちの話声が聞こえたのか、先を行くエルフの男性が聞いてきた。
「はい、そうなんです。」
「噂には聞いてましたが、本当に美しい街並みですわね。」
前に広がる街並みを見ながらあたしは感想を述べる。
「ふむ、君たちには美しく見えるか。まあ、他の街から比べれば確かにましな方だが、ひとの手があまりにも入りすぎている街並みはいささか無粋に感じるのだがな。」
そう言って前を歩くエルフは自嘲気味に笑った。
街に入り、しばらくすると正面に大きな塔が見えてきた。
「前にに見える高い建物が市長のいる『緑樹の塔』だ。君たちは一階の応接間で待っているがいい、えーと、ティアナ=ルド・シーナ・ガレントとエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンでよかったんだよな?」
「はい、そうですわ。」
あたしが代表で答える。
エルフの男性はうん、と言ってから建物に入り、カウンターで職員と話をしてから階段を昇って行った。
「これはかわいらしいお客人ですね、どうぞこちらへ。」
そう言って初老の職員のおばちゃんに応接間に通される。
室内は普通で、「緑樹の塔」と言われるだけに観葉植物が多かった。
出されたお茶を飲みながらティアナと話をする。
「なんだかずいぶんとおっとりした雰囲気のところですわね?」
「そう言えばソルミナ教授もおっとりしていたけど、やっぱりこっちの出のせいかな?」
エルフは時間の概念が乏しいらしいから、何事もじっくりと進むらしい。
もちろん人間の街に出てきた者はだんだんとこちらの習慣に成れるようだけど、最初の頃は周りが目まぐるしく変わるので大変だったとソルミナ教授は言っていたなぁ。
そんなことを談話していたら、先ほどのエルフがやってきた。
「市長がお会いになるそうだ、君たちついてきなさい。」
そう言って再度あたしたちを連れて階段を上っていく。
結構登るけどガレントのお城に比べれば何のその。
ほどなくあたしたちは最上階にあるし市長の部屋に着く。
「市長、お連れしました。」
「おはいりなさい。」
なんと女性の声で返事が返ってきた。
室内に入り挨拶をする。
「お初にお目にかかります。ティアナ=ルド・シーナ・ガレントと申します。」
「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ。」
二人そろって宮廷式の正式な挨拶をする。
「いらっしゃい、ようこそ精霊都市ユグリアへ。どうぞ、おかけください。」
ソファーを進め、そう言う市長をよくよく見ると、なんとエルフだ!
「初めまして、ユグリアの市長を務めさせていただいているファイナスと言います。して、ティアナ殿下お急ぎとのことですが、何があったのでしょうか?ユカの手紙には協力してやってくれとしか書かれていませんので。」
そう言って師匠が書いた手紙をプラプラと持ち出す。
内容を見てびっくり。
「ガレントの姫、ティアナが急ぎなので手伝ってあげてください。」
それしか書いてない。
師匠、あなたって・・・
あきれたあたしだが、ティアナはなんか感動している。
「流石師匠、あんな短い言葉で意図を伝えるなんて、これが『ハイク』というやつなのね!」
いやいやいや、違う違う!!
「ティアナ、俳句とは違いますわ。俳句は五七五という文字の数の羅列で歌われる歌ですわ。コモン語でやろうとしても絶対に無理ですわ!!」
そもそもコモン語だと単語一つで五文字以上あるものだってある。
それに動詞やら形容詞やら付けたら絶対に収まらないって!!
「そうなの?」
不思議そうにしているティアナ。
「ふう、相変わらずユカの国もとの文化は理解しがたい。それより殿下、ご説明いただけますか?」
「はい、実はガレント王国に北にあるホリゾン帝国が南下侵攻してきたとの情報がありました。事が急なため、国に戻りたいのですが時間がかかりすぎる。そこで魔法王ガーベルが残したゲートによりガレントに帰還したいと思っています。しかし、現存するゲートはこのユグリアからしか行けないと聞き及びました。ですのでゲートを使う許可をいただきたいのです。」
ティアナの話にファイナス市長は唸っている。
「ふむ、事情は理解しましたが、本来ユグリアとしては戦争に加担するようなことは協力できないのです。我々は平和を望み、対外的にも中立を示しています。」
「しかし、今こうしている瞬間にもホリゾンが攻め込んできたら罪のない国民に被害が出てしまうんです!!私にできることがあれば一刻も早く帰国したいのです!!」
ティアナの切実な声が室内に響く。
市長はふう、と息を吐く。
「殿下、落ち着いてください。戦争への加担は出来ませんが、友人の知り合いに個人的に便宜を図ることはできます。いいですか、これは精霊都市ユグリアの意志ではなく、私個人の友人を手助けする行為です。このことが誤解され広まることが無きよう願いますよ。」
「ファイナス市長!」
「ふふ、無事戻ってこれたら今度はもう少しゆっくりとお話をしましょう。ユカを師匠と呼ぶあなたたちにユカがここまで気に掛ける人材なら、次はあなたたちなのでしょう?最終的に平和を望むのは私も同じ。私もあなたたちを信じましょう。」
そう言ってファイナス市長は先ほどのエルフの男性を呼ぶ。
「今後この方たちのゲートの使用を許可します。手伝ってあげてね。」
「いいのですか市長?」
「もともと凡人に扱える魔道具ではありません。ゲートが使えなおかつユカが認めた人材、もしかすると英雄以上かもしれませんよ。」
「そんな、こんな少女たちが!?」
驚くエルフの男性。
しかしそんな彼にファイナス市長はにこりと笑いこう言う。
「未来はわかりませんが私たちにはそれを見届ける十分な時間があります。ほんのちょっとそれを見るのもやぶさかではないでしょう?」
そう言われたエルフの男性はふっと笑って、そうですねと言ってあたしたちに向き直る。
「そう言えば紹介が遅れた。私はソルガ。ゲートの番人をしている。以降何かあったら俺に話してくれ。」
「ありがとう、ソルガさん。そうさせてもらいます。」
「よろしくお願いしますわ、ソルガさん。」
俺とティアナは改めてこのエルフの男性、ソルガさんに挨拶をする。
「さて、急ぐのだろう?早速ガレント王国へのゲートへ案内する。ついてきてくれ。」
そう言ってソルガさんはあたしたちをまたゲートへと連れて行ってくれるのだった。
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