第32話3-7準備

3-7準備


 ティアナの押しで「魔術総合実演会」通称「魔演会」の目玉イベントに出場する事となった俺たちは詳細の書かれた資料を前に会議中である。



 まず開催期間は来月の中旬。


 ここ魔法学園都市ボヘーミャはかなり温厚な気候でありほとんど季節感が無い。

 暑くもなく寒くもなく、雨もほどほど降り乾燥しすぎずで非常に過ごしやすい。

 日が変わっても月が替わってもあまり風景に変わりがないので時間の流れに気付きにくくなるほどだ。


 それなので注意しないと日にちすら分からなくなってしまう。


 来月の開催日まで残りちょうど三十日間。

 丸々ひと月分時間がある。



 「殿下、今回の件はもう言いませんが以降はもう少し慎重にお願いします。万が一殿下の御身に何かありましたら一大事ですから。」


 アンナさんの説教から始まる。


 「いいじゃない、ここにきてから自由に魔法が使えないからつまらないんだもん。」


 だいぶご不満のご様子で。

 仕方ない。


 「ではティアナ、今度私と一緒に魔術練習許可をもらいに行きません事?許可がもらえれば練習場でいろいろと魔法の練習ができるらしいですわ。し・か・も、私既に予約済みですわ!」

 

 「魔演会」開催が近づくと誰しも練習を始める。

 俺はその情報をもらった時点ですぐに生徒会経由で「大魔導士杯」出場者特権の優先使用書をもらって開催実行委委員の教授たちに提出済みだった。


 ティアナの名前を出したりもして予約を先取りするのはかなり上手く行った。


 「すごいじゃない、エルハイミ!いつの間に!?」


 ティアナは両手放しで喜んでいる。

 

 「エルハイミちゃんいつの間に・・・」


 お、アンナさんも驚いているね、よしよし。


 「まだ予約だけですから、ちゃんと許可は取らなきゃダメですけどね。ティアナも一緒に行けばすぐに許可下りると思いますわ。」


 おおっ~と拍手が起こる。

 さて、おぜん立てはこのくらいで。


 「ところで、前置きが長くなりましたが『大魔導士杯』のトーナメントって具体的にどのようなものなのですの?」


 アンナさんに資料を精査してもらう。

 

 「そうですね、内容を確認する限り今回出場するチームはは全部で十六組、一チーム上限四人までで勝ち抜き戦方式です。競技内容は第一戦目が基礎魔術知識勝負、第二戦目が体力と魔力総量勝負、第三戦目が魔術操作技術勝負、そして決勝戦は魔術対決だそうです。」



 うーん、これはかなりお祭りだね。

 確かに目玉になりそうだ。

 「魔演会」には一般市民も参観できるのでまさしくお祭り。

 

 めちゃくちゃ盛り上がりそうだ。

 おら、わくわくしてきたぞ!



 でもアンナさんの表情はいまいち固い。

 どうしたんだろう?


 「殿下、内容を見る限り御身に危害が掛かりそうなものはありませんが、参加チームにはホリゾン帝国の留学生もいるそうです。」


 あ、そう言うことね。


 「学園内での死闘はご法度ではありますがこういった機会での事故は『不幸な事故』となりかねません。重々にお気を付けください。」


 アンナさんは真剣なまなざしでティアナを見る。

 ティアナは軽くため息をついてから言い放つ。


 「大丈夫よ、そのためにロクドナル、アンナ、あなたたちがいるんだもん!それにこちらには無詠唱魔法を使える魔術師が二人も控えているのよ!」


 その物言いは傲慢ではなく事実。

 そう、俺たちに死角は無いのだ。


 アンナさんはここにきてふっと息を吐き、そうですねと柔らかいいつもの彼女の表情に戻った。



 「それでは競技についてですが、基本チーム戦なので協力しながら課題のクリアーをして行けば良いようです。第一戦目:基礎魔術知識勝負は質問ごとに各チームが回答をして回答得点の高い方が勝ちとなるそうです。」


 「あら、だったらうちのチームは余裕じゃない?アンナ、あなたの知識を期待しているわ!」


 得点方式なので早押しと違って多少の余裕ができる。

 しかもチーム戦だからここにいる四人の知識がフルに使える。

 どれだけ知識があるかが最大の焦点だろう。



 「第二戦目:体力と魔力総量勝負は規定の魔法を使いながら障害物を超えてゴールしなければいけない競技のようです。」


 「具体的にはどのようなものであるのかな?アンナ殿。」


 ロクドナルさんは体力と聞いて気になるようだ。


 「そうですね、課題は毎年違うようで当日まで発表されないらしいです。ただ、参考までに昨年の競技は水生成魔法で作り上げた水球を頭上に念動力魔術で維持しつつ障害物を超えてチームの誰か一人でも先にゴールに辿り着けば勝ちというものであったそうです。」


 体力はもちろんだが念動力魔法で水球を維持かぁ。

 以外と体力、魔力共に使いそうだな。

 体力的には今の体だと不利だな、まだ六歳の身体じゃ。 



 「第三戦目:魔術操作技術勝負は錬金術に連なるもので、決められた素材を使って課題を作り上げるというもので課題自体はやはり当日発表となるそうです。ちなみに昨年は植物を使ったオブジェの作品で、優秀賞は『はばたくドラゴン』を模したものだったらしいですね。」


 植物でアートオブジェか。

 そうすると回復魔法とか精霊魔法を駆使しなきゃならないって事かな?


 「美的センスや素材を生かした作品にしないといけないと言う事ですかしら?」


 「どうでしょうね、課題自体は当日発表ですし審査方法も何が基準となるやら。しかし昨年の例を見るとやはり美的センスも必要となりそうですね。」


 うーん、美的センスかぁ。



 「最後の決勝戦、魔術対決は事前に作り上げたゴーレムどうしを戦わせ、勝敗を決めますが素体となるゴーレムは学園から提供されるそうです。このゴーレムを操作しながら強化魔法、防御魔法を自分のゴーレムにだけ使い勝敗を決める方法です。相手への魔術妨害、術者、ゴーレムへの直接魔法及び攻撃は一切禁止されています。ゴーレム同士だけでの勝敗となります。」


 

 最後の魔術勝負はガチな決闘というわけか。

 こりゃぁ盛り上がるね。

 下手な魔術を使えない分、一般人の観戦者のもわかりやすい勝負だしね。


 「そうしますと、魔術訓練としては魔術維持と錬金術が中心となりそうですわね?」


 俺の疑問にアンナさんは肯定に首を縦に振る。


 「そうですね、実際は当日にならないと課題が発表されない物が多いですが、過去の事例から練習をするのはそのあたりが妥協でしょう。」


 「じゃ、そうと決まれば許可を取りに行きましょ、エルハイミ!」



 元気なティアナに俺も賛同してみんなで許可を取りに行ったのである。



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