第30話3-5魔法の授業

3-5魔法の授業



 午前の授業が終わり、お昼を食べてから魔法の授業を受ける為指定の講堂へ向かう。

 バスケットコートがゆうに入るくらい広い講堂は魔術結界が施されているようだ。


 受講者が全員講堂に集まった頃に魔術の教授が入ってきて魔術結界を発動させる。


 

 おお?ここは魔法が使えるのか?



 年のころ四十過ぎくらいの男性教授は物静かそうではあるが神経質そうな顔つきをしている。

 身なりは一見で魔術師風で、衛生面では気を使っているようでかなり小ぎれいだ。


 「さて諸君、本日は元素魔法の一つである『火炎系』魔術の実演講習を行う。現在諸君の『戒めの腕輪』は一時停止させているのでむやみに魔法を発動させないように。」



 そう言ってまずは口頭での説明に入る。



 元素魔法とは一般的に地、水、火、風の自然界に存在する現象を指し一番使う頻度が多い項目だ。

 実際には水生成、点火などの日常必要となる魔術はすべてこの元素魔法となる。


 元素魔法も初級、中級、上級と大きく分かれ一般に知られているのは初級程度。

 中級以上になるとそれ相応の実力や魔力量が無いと発動しない場合もある。


 この辺はすでに書籍などで広知られていることなのでこの学園にいるものならだれでも知っているだろう。

 教授もそれを前提に話を進める。


 「では、実演となるが本日は【炎の矢】について講義する。」


 一般的に知名度が一番高い炎の矢、フレアーアローは冒険者などが多用する魔術である。

 数少ない公開される攻撃魔法だが書籍などでは使い方や呪文自体は載っていない。

 間違って書籍などに載せたら一般的に広まって危ない世界になってしまう。


 前世で言う拳銃社会と同じだ。


 なのでこういった希少な攻撃魔術は実演をしながら体得する必要がある。



 教授はまずお手本を見せる。

 呪文を唱え自分の前に炎の矢を出現させる。

 大きさは普通の矢と同じくらい、結構でかい。


 それを講堂中央に準備していたロックゴーレムに打ち出す。

 弓矢と同じくその炎の矢はまっすぐに飛んで行き、ゴーレムにあたって弾けた。

 ゴーレム自体にダメージはほとんどないだろうが、通常の人間がこれを喰らったら大やけどでは済まない。


 やっぱ危ない魔術だよなぁ~。

 ジーナさん、そんな魔術惜しみも無く教えてくれたんだよなぁ~。


 そんな遠い思い出に浸っていると教授は各人に呪文を教え始めた。

 

 ここでは筆記用具使用不可。

 呪文自体を覚える他無い。


 基本、危険な魔術になればなるほど口頭での伝達となる。

 後は自分でその呪文を書き残し、自分専用の魔術書を作るしかない。

 

 だから世の中には使い方、呪文自体の本は出回らない。


 安全策なんだよね~。

 それと多分こういったことが評価につながるんだろうねぇ~。



 さて、そんな感じで他の生徒たちは真剣に呪文一字一句を覚えようとしている。

 覚えられた人から三列に並んで一人ずつ炎の矢をロックゴーレムに打ち込んでいく。

 大体三割の生徒が成功しているようだ。


 教授はそれを見ながらメモ書きをしている。

 閻魔帳かな?


 そして生徒のほとんどが終わったころ残された俺たちに教授が話しかけてきた。

 

 「諸君たちが今日から私の講義に参加する留学生だね?私は元素魔法担当のマース=ロビナだ。連絡は来ている。すまないが実演は私が呼ぶ者から一人ずつ行ってもらえるかな?」


 留学初日なので名前と顔が一致しないのだろう。


 「まずはロクドナル君、君から始めたまえ。」


 そう言ってロクドナルさんを指名する。

 ロクドナルさんはおうっと気合を入れて前に出る。

 習った呪文を詠唱して集中する。

 そしてロクドナルさんの目の前に一瞬炎の矢が出現するが「ぼふっ」という音を立てて消えてしまった。


 「ふむ、君は確か騎士候補生だったね?魔術適正はあるようだが魔力集中と筋力の集中は違うのでもう少しその辺を理解する必要があるね。筋は悪くない、上手く行けば魔法騎士にも成れるやもしれないね。」


 そう言いながら何かメモってる。


 続いてアンナさん。


 アンナさんはすらすらと呪文を唱え難なく炎の矢を出現させロックゴーレムに打ち出す。

 当たった炎の矢はだいぶ強かったようでかなりの部分がえぐれた。


 「流石ドミンゴ師のお孫さんだ、申し分ない。ドミンゴ師はお元気でいられるか?」



 あれ?

 あの宮廷魔術師をお知り合いだったのこの教授。



 「お久しぶりですマース殿。いえ、ここでは教授でしたね。祖父も元気でやっておりますわ。」


 にこやかにアンナさんは返事をしている。

 そうか、お知り合いだったのか。


 それは何よりと言ってマース教授も微笑しながらメモに何か書いている。



 さて、そうすると残るのはティアナと俺だけ。

 まずはティアナから始める。


 ティアナは今まで面白くもなく暇そうにしていたが実技は嫌いじゃないようで結構やる気が出ている。

 やる気ありすぎて失敗しなきゃいいけど。


 ティアナは軽く息を吸って無詠唱で炎の矢を出現させる。

 途端に周りからざわめきが起こる。

 そして手のひらをゴーレムにかざして行けっと小声で言う。

 途端に炎の矢はゴーレムに突き刺さりゴーレムを粉々にしてしまった。

 しかし炎の矢はそこで消えることなく壁まで飛んで行く。

 と、結界が反応してその炎の矢を弾き飛ばす。

 

 その矢は今度はまっすぐにこちらに向かって飛んでくる。

 とっさの事にティアナは反応しきれずあわや自分の放った炎の矢が自分に当たる瞬間、間に入った者がいた。

 

 炎の矢は間に割り込んだサージ君に命中したが、なんと命中した瞬間甲高い音がして消えた。



 辺りは大騒ぎになる。


 当然だろう。

 ティアナや俺もあわててサージ君を見に行く。

 しかし当の本人は何事もなかったかのようにケロッとしている。


 「皆静まりなさい、大丈夫だ。君たちが身に着けている衣服ならばこの程度の魔術であれば抵抗して効力をかき消せる。上級魔法でもなければ君たちの身は安全だ。」



 ええっ!?

 この制服そこまで高性能だったの!?



 対魔抗力が入っているとは聞いていたけどそこまで強力とは聞いていない。

 安堵半分、驚き半分でいる生徒たちにマース教授は言った。


 「さて、それでは最後にエルハイミ君、やってみなさい。」


 はっと我に戻り、残ったゴーレムに向かう。

 安全が確認できたのならちょっと派手に行ってもいいかな?



 そんないたずら心で俺は無詠唱で炎の矢を百個ほど出現させた。

 そして一斉に残ったゴーレムに八方から当てる。

 一気に炎の矢が命中したゴーレムたちはあっという間に粉々になりながら溶けた。



 あ、やりすぎたかな?

 集中砲火で溶けちゃったよ。

 ん?

 周りが静かだな?



 「エ、エルハイミ君いったい何の魔法を使ったのだね!?」


 マース教授が指をプルプルさせながらゴーレムを指さす。


 「はい?【炎の矢】ですが何か違いましたかしら?」



 途端に周りがざわめく。



 「まさか、あれは全部【炎の矢】かね!?」


 うあ、つば飛ばさないでくれマース教授。


 「はい、とりあえず百本ほど作ってみましたが・・・」


 俺の言葉にマース教授は絶句する。

 しばし手で目を覆い、独り言をつぶやく。



 「よ、よろしい、下がりたまえ。本日の講義はここまでとする。」



 そう言って教授は結界の発動解除と腕輪の再起動を行って退出していった。



 「エルハイミ、やりすぎじゃない?あたしあれでも抑えたつもりだったのに。」

 


 ティアナがこっそりと話しかけてきた。

 俺はほほほっとごまかしの笑いをした。




 今度からはもっと注意しよう。


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