第20話2-14出発

2-14出発



 弟たちが生まれて何とか対面できた俺はいよいよ出発の時を迎えていた。



 やはり居なくなると寂しいのか爺様やパパンは事あるごとに俺の所へ来ていた。

 そして今更ながら的な注意や、ハミルトン家の者として恥ずかしく無いようにしろとかいろいろと言われた。

 更に嫁に嫁ぐのでもないのに家具やら何やら持って行けとか大騒ぎをする。

 過保護のオンパレードだ。


 しかし、学園に王族と一緒に留学するので、そう言ったものはほとんど国が準備してくれる。

 俺は荷物と言っても着替えや最低限必要なもの以外持っていくつもりはない。



 そんなにいろいろあったって処理しきれんもんな。



 形式上はティアナのご学友という形なのでティアナの近くで生活をしなければならない。

 無論、部屋もティアナの近くで貴族、王族用のものが用意されるらしい。 

 まあ、これには護衛や何か有った時の対処の為でもある。

 俺も一応は重要人物扱いだからだ。



 で、実際には護衛兼ご学友として三人の者が選考された。



 一人はアンナ=ドーズ。十五歳のお姉さん。実は宮廷魔術師のお孫さんだとか。

 一人はロクドナル=ボナー。この人も十五歳で騎士団長の息子だ。

 一人はサージ=ディープ。十歳でなんとヨハンさんの息子だとか。


 なんでもこの三人が常に俺たちの護衛として付き添うとの事だが、学園にいるうちは特に問題無いだろう。

 ティアナなんかむしろ誰もいない方が羽が伸ばせるとか言ってたけどそうもいかないだろう。


 さて留学で出発するのだが、まずは王都に向かいティアナと合流してから大所帯で移動となる。

 馬車の旅で二週間近くかかるとか。


 ここで疑問となったのが、古い都市同士は古代魔法時代からの瞬間移動用ゲートが有るはずだが何で使わないのだろう?

 王都に行ったらティアナに聞いてみようか。



 そんなことを思いながら俺は玄関に向かう。



 既に玄関には見送りの爺様とママンがいる。

 傍らには双子の弟バティックとカルロスもいる。

 メイドや執事たちが勢ぞろいで見送りをしてくれる。

 あ、ヨバスティンもいる。


 予定では中等部に留学するので五年近くは向こうで暮らすことと成るだろう。 

 まあ、たまには里帰りしなきゃだけどね、夏季休暇とかあるしね。


 「エルハイミよ、気をつけて行ってくるのじゃぞ。」


 ちょっと寂しそうな爺様。


 「あらあらあら~、エルハイミ、お帽子が曲がってるわよ~。ほら、女の子なのだからちゃんと身だしなみは気をつけるのですよ~。」


 そう言ってママンは俺の帽子をまっすぐに直してくれてから頬に手を当てた。


 「エルハイミはしっかりしてるから大丈夫だと思うけど、何かあったらちゃんとティアナ殿下にご相談するのよ~、きっと力になってくれるわ~。」


 ママンは優しくほほを撫でた後に俺を抱きしめた。

 うーん、やっぱりみんな俺がいなくなると寂しいんだな~。

 俺自身は期待にワクワクしているのでちょっと申し訳ない。


 「エルハイミ様、お気をつけて行ってらっしゃいませ。どうぞお元気で。」


 ヨバスティンはじめ他の執事やメイドたちも同様にお辞儀をしてくれる。

 俺は軽くひざを曲げる挨拶をして元気に返事をした。


 「大丈夫ですわ!次に帰ってくるときはすごい魔法をみんなにお見せしますわ!期待して待っていてくださいまし!行ってまいりますわ!」


 俺は手を振りながらパパンの待っている馬車に乗り込んだ。

 そして扉を閉め、窓から顔を出しみんなに手を振る。

 御者が馬車を動かす。

 ママンが手を振ってくれている。

 他のみんなも手を振ってくれている。

 ちょっと寂しくなってきたけど、今度帰ってくるときは成長した俺を期待していてくれ!


 そう思いながら窓から身を引いた。


 「エルハイミ、これからティアナ殿下と留学するのだがな、賢いお前なら話しても大丈夫だろうから話しておく。今回護衛で同行する者の中にサージ=ディープと言う少年がいる。実は彼は隠密行の一族のものでティアナ殿下やお前に何かあったら即時王都や私に連絡をつけてくれる。何かあったら真っ先に彼に頼りなさい。私やユリシアもすぐに駆け付けるからな。」


 うあー、パパン何この溺愛、しかも隠密行の一族ってことはかなりの組織でしかもティアナ、王族付きなんだからかなりの者ってことだよな?

 良いのか、そんな重大な事娘に暴露して?


 「お父様、この件は他言無用と言う事ですわね?」


 パパンの意を介して簡潔に答えてみる。

 パパンは苦笑いをして自嘲気味に軽くため息をつく。


 「優秀な娘を持つことを誇りに思うよ。お前は私が何も教えなくても期待以上の答えをいつも出してくる。正直お前が男の子であったらどれだけ素晴らしかったことだろうと思うよ。」


 まー、お世継ぎ考えればそうだわな。

 しかし残念ながら俺は女の子としてこの世界で生を受けた。

 こればっかはどうにもならない。


 「大丈夫ですわ、お父様。私たちにはバティックとカルロスがいるではありませんか、あの子たちもきっと私以上の子になりますわ。」


 一応気休めを言っておく。

 パパンは優しく笑ってから俺の頬に手を当てた。


 「やはりエルハイミはいい子だ。お前は私の自慢の愛娘だよ。」



 俺は無言でにっこりと最上級の笑顔で答えた。


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