第10話2-4誕生日
2-4誕生日
この世界では誕生日を五年ごとに祝う習慣がある。
一応十五歳になると成人扱いとなるので幼少期などの誕生日は一般庶民に至るまで盛大にやるのが習わしだとか。
そんな訳で、本日俺エルハイミはこの世界に来て五年が経つわけだ。
伯爵家令嬢の誕生日と言う事もあり、そこそこ盛大にやってくれている。
俺は朝からおめかしで着せ替え人形の如くそれはそれはモリモリに着飾らせられた。
いやいや、五歳児に化粧まですると言うのはいかがなものだろうか?
薄化粧とは言え、口紅なんてしたことないからなんか違和感が。
子供の誕生パーティーというのもあり、メインは昼食の時間となる。
俺は午前から知らない貴族や高官たちのあいさつにいちいち応対する羽目となるのだが、いい加減疲れてきたよ。
途中から面倒になって数えるのも忘れたけど、三ケタの来客と挨拶を交わす頃には既に顔と名前なんか覚える気も失せていた。
しっかし、やはりと言うか何と言うかハミルトン家に取り入ろうとする大人の欲まみれな態度はあまりにも露骨で気分が悪くなる。
場合によっては同席の自分より少し上の少年たちをやたらと熱心に紹介する者もいたが、上手くあしらっておいた。
見え見えなんだよなぁ~。
何人か年の近い少女も挨拶に同行していたが、やはり親からの教育か随分と無理矢理へりくだった感じでかわいそうに思える節があるくらいだ。
是非とも仲良くなってお友達にとか言われても、本人たちはおっかなびっくりでお付き合いする方が気が疲れる。
そんな感じで挨拶がやっと終わりになりかけ、立ちながらの食事が始まろうとした時、一人の美少女が俺の前に来た。
「あなたがエルハイミね?まずはお誕生日おめでとう!私は貴女の親戚でティアナと言うものよ!」
今までの少女たちとは違う雰囲気で活発そうな姿ではあるが高貴な気品も兼ね備えている。
燃えるような真っ赤な髪の色をしていて俺と同じく碧眼、色白な肌はみずみずしささえ感じる。
親戚と言ったな?
と言う事は、彼女が例の孫娘か。
「お祝いのお言葉、ありがとうございますわ。ティアナ様、本日は私めの誕生日会にご出席いただき誠にありがとうございますわ。どうぞ、楽しんでいったくださいまし。」
ほかの人よりやや丁寧に挨拶をしておく。
そして作法通りにスカートの裾を持ち上げ軽く頭を下げる。
少女はぎょっとして握手の為に差し出した手を慌てて引き下げ、俺と同様に正式な挨拶を返してきた。
まあ、子供だし、五歳となればもっと子供っぽい対応をされると思い込んでいたのだろう。
「はっはっはっ、ティアナよ、まずは一本やられたな。」
少女の後ろには爺様と一緒に威厳のある風貌の老人が背筋をピンと張った姿勢で立っていた。
この風格、この物言い、間違いなく国王陛下だろう。
俺は営業スマイルをしながらお得意のピンク背景にバラ、キラキラフォーカスをつけて挨拶をする。
「お初にお目にかかります、ご親戚の大叔父様。私がエルハイミでありますわ。本日は私のお誕生日会にわざわざご足労いただき、大変感謝いたしますわ。どうぞ、ささやかな宴ではありますがお楽しみいただければ幸いでございますわ。」
どうよ、この完璧なしぐさとご挨拶!
うちの爺様はうんうんと頭を上下にしてにこやかに満足そうである。
ティアナ殿下なんか更にぎょぎょッとして国王陛下を見やる。
「小さなレディーよ、お誕生日おめでとう。私は君の遠い親戚のエドワードというものだ。」
そう言ってなんと跪き、俺の手を取ってその甲に口づけをした。
うげー!
気色悪い!
本心はそう思っても、なんと国王陛下が幼女にいっぱしのレディーと同じ最大級のあいさつをしてきたよ!
これには知ってる人はどよめきを、うちの爺様においては完全に勝利顔、ドヤっ顔してるよ!
「大叔父様、私めの様なものにもったいない。」
一応そう言って委縮するふりをすると、見るも晴れやかな笑い声を上げてこう言った。
「何を言う、小さくてもこんな立派なレディーに失礼な挨拶をするわけにはいかんよ!それに儂はただの君の親戚の爺さんだよ!」
あくまでお忍びというスタイルなわけね、もうバレバレだけど。
「イーガルよ、ここまでは儂の負けじゃよ。まさかここまで立派なレディーとは思わなんだ!」
「ふふっ、そうじゃろ!我が孫娘エルハイミは特別なんじゃ!どうだ参ったか?」
なんか、良いのかこんなんで?
随分と親しすぎないか?
ある意味にこやかな会話だが、孫娘自慢大会はこれからが本番化と言わんような感じで目線だけはバチバチと火花を散らしている。
「ねえねえ、エルハイミ。あなた本当に五歳なの?」
そんな老人たちを尻目にティアナ殿下がひょいっとこちらを覗き込んできた。
その仕草は年相応な可愛らしいものである。
見た目だって超美少女で、将来が楽しみなほどだ。
「えーと、ティアナ様、私間違いなく本日五歳になりますわ。」
ちょっと苦笑気味にそう言って口に手を当て、おほほほと笑って見せる。
むぅ~という声が聞こえそうな顔のティアナ殿下、何かを割り切った感じで軽くため息をついてからにこやかにこういった。
「うん、そうよね、わかったわ。エルハイミ、私たちお友達になりましょう!」
そして今度は気さくなく手を差し出してきた、握手するための。
俺は少し戸惑った風を装ったが、その手をしっかりと握り返した。
単純に人の好意を感じたのと、仲良くなっておけばこれからの魔法対決も遺恨が残りにくいだろうという打算があったからだ。
「ティアナ様、どうぞよろしくお願いしますわ。」
「ティアナで良いわよ!あたしもエルハイミって呼ぶから!」
「はい、では早速そう呼ばせていただきますわ、ティアナ。」
爺様たちの火花を散らす状態に対し、こちらは和やかな雰囲気になった。
と、父親であるちょい悪親父のホーネスが俺を呼んだ。
「エルハイミ、さあ誕生日ケーキの蝋燭を吹き消しなさい。」
そう言って会場中央に準備されたウェディングケーキ張りの誕生ケーキの一番上に準備された五本の蝋燭を指さした。
うーん、今の背丈ではもちろん届かない。
浮遊魔術でも使ってやろうか?
いやいや、ここでそんな魔術使ったら大騒ぎになる。
と、見やるとメイドたちが階段付きの台を持ってきた。
ですよね~、じゃないと蝋燭吹き消せないもんね~。
準備が整ってから俺はしずしずと階段を上って目をつむり願い事を祈るふりをしてから一気にろうそくの火を吹き消した。
途端に周りから拍手とおめでとうの言葉が飛び交う。
エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンは五歳となった。
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