122-そして雪山の山頂へ
【聖王歴128年 赤の月 32日】
<ヤズマト国北部 雪山の頂上>
今日も快晴とはいえ、雪山の上は恐ろしく寒い。
スノウの背中には俺とエレナに加えてシディア王子とセシリィの四人が乗ってぎゅうぎゅうではあるけれど、そもそも一番体温の高い竜族であるスノウと密着していても寒いのだから、数人集まったところで寒いものは寒い。
っていうか……
「これは人が来る場所じゃねえな……へっくしっ」
俺はそう呟くと、目下に広がる雪山へと目を向けた。
勇者パーティと共に山を登った時は、中腹あたりでシャロンがフレアストームをぶっ放してスノウを撃墜してしまったので、頂上を間近で見るのは今日が初めてなのたけど、八合目から上はほぼ垂直の壁である。
こんなイカれた形の山を人間だけで登頂するなんて、どう考えても不可能だろう。
『もしかして、スノウさんと共に
「だとしたら神様ってのは相当悪趣味だよなぁ」
ヤズマト国の人々にとって、スノウは『北の山を支配する巨大な竜』だ。
同国における最強の戦力である騎士達を易々と蹴散らすほどの強さを誇るスノウの背に乗り上空から頂上へ迎うのが正解だなんて、誰が想像できるだろうか。
『それじゃ降りるから、しっかり掴まっててね~』
スノウは宣言すると、山の頂上に向けてゆっくりと滑空を始めた。
体感温度はさらに極限の寒さになって……シディア王子が震えながら左腕に抱きついてきた。
「さ、さむさむさむさむさむさむさむ……」
まるでサツキやユピテルみたいな子供っぽい反応に思わず笑ってしまう。
だけど王子様に風邪をひかせたりすると問題になりそうだし、自分も寒いけれど俺の防寒装備を提供してあげるとするか。
と、俺が首元のマフラーを手に取ったその時――
【危機感知】
右方向から非常に強い殺気。要警戒!!
「えっ!?」
それと同時にやたら強い力で右腕を締め上げられた!
慌てて殺気を感じた方へ目を向けると……何故かエレナが笑顔のまま抱きついていた。
「あの、エレナ……さん?」
『私も少し寒いです』
「真冬に水かぶっても平気とか言ってなかったっけ……」
『寒いです』
何故だろう、笑顔の向こうから言葉で言い表せない恐怖を感じるのは……。
『青いわねぇ』
「ですねぇ」
そんなスノウとセシリィの相づちを脱力しながら聞き流しつつ、俺はそのずっと下の方に見える山頂へと目をやる。
「それにしてもヘンな形してんな」
人間を登らせることを全く想定していな城壁のような垂直の崖の上は、ちょうどドラゴンが乗りやすいくらいの平地になっている。
スノウはそこに狙いを定め、空中を旋回しながらゆっくり降りてゆく。
「なんで空中でぐるぐる回ってるんだ?」
『ホントは真っ直ぐにドーンッて着地した方が楽なんだけど、
「なるほどなー」
身体が巨大であるゆえに、その辺を気を使わないとダメらしい~……って、あれ?
「それ、経験談?」
『うん。前にドーンッてやった時は、なんか剣やら槍やらを抱えて山登りをしてた人間達が巻き込まれて大騒ぎになっちゃってね。慌てて逃げたけど、悪いことしちゃったなぁ』
「……えっ」
俺が左腕にしがみついているシディア王子に目をやると、どうやら初耳だったらしく目をまん丸に見開き驚いている。
『それから何度か報復にやってきた人達もみんな蹴散らしちゃったし、いつか謝らないといけないとは思ってるんだけどね~』
つまり、最初にやってきた討伐隊はスノウの
とんでもない事実を知った王子は、寒さも忘れて愕然とするばかり。
「もしかして、女王がスノウを討伐しようとしてるのはそれが一番の原因なのでは」
「うぅぅ……」
ガクリとうなだれる王子を気の毒に思いつつも、スノウが着陸態勢に入ったのを見て、四人は大きな背中にしっかりと掴まる。
白い平原が視界全体に広がり――
ズンッ……
少しだけ山が揺れたような感じはあったものの、無事に軟着陸は成功。
山頂は思った以上に広く、人間よりも何十倍も大きなホワイトドラゴンが数頭乗っても大丈夫なくらい余裕もある。
ただ、スノウの背から飛び降りた俺の目に映ったのは、一面の雪景色とほぼ真っ白な景色だけ。
「山のてっぺんから世界中が見渡せる~、みたいなのを想像してたんだけどなあ」
『天気が良ければ、
確かに俺の日記でも明後日頃には豪雪となっているので、スノウの言う通りの状況になるであろう。
だからこそ、さっさと「神託の意味」を確認しなければならないのだけど。
「神託の内容が『従順な我が信者よ。北の山の頂上で祈りを捧げよ』だから……セシリィ、お願いできる?」
「あっ、それじゃ早速試してみますね」
シディア王子の指示を受けたセシリィは、スノウの背からピョンと飛び降りると、胸元のロザリオを握りながら目を閉じて祈り始めた。
びゅうびゅうと風の音だけが響く中、積もる雪に膝をつけて祈る様はまるで聖女のようでもある。
それからしばらくすると、周囲の白い靄がみるみるうちに消えてゆき、山の頂上へ天から光が差し込み始めた。
エレナは天高く光を見上げると、何かを睨むような
『……何か、魔力反応が来ます』
そして、それとほぼ同時に俺達の目の前に|天啓が現れた――
【Monster Generator #02】
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