てぃーぶれーく2
059-ルルミフ王女の秘密
前回より少しだけ時をさかのぼり――
【聖王歴128年 黄の月 6日】
カナタ達が聖王都に向けて出航する前日の事。
サツキはユピテルを連れてフロスト城へ来ていた。
「おや、君は先日ウラヌスさん達と一緒に来ていた子だね。どうかしたのかい?」
城の前まで差し掛かったところで門番に話しかけられた。
確か、名前はカルロスとかそんな感じだったと思う。
「えーっと、お姫様とお話したいなーって思って……」
「ルルミフ様と!? ……君、約束をしてるの?」
「えっ。いえ、そういうのは無くて……」
そもそも、サツキがルルミフ王女を見たのは先日の騒ぎの時が初めてだったので、互いの面識はほとんど無いに等しい。
当然ながらアポイントを取れるわけもなく、ぶっつけ本番の飛び込みであった。
「うーん……。君達が例の一件の立役者だという事はウラヌス殿から聞いてはいるのだけどね」
「えっ、そうなのっ!?」
「でも、だからと言って君達をどうぞと迎え入れるわけにはいかないんだよ……」
「しょぼーん(´・ω・`)」
サツキはしょんぼりと肩を落とすと、ユピテルの手を引いて宿に戻ろうと振り返――
「別にいいじゃない。相変わらずケチくさいわね」
「!」
話しかけてきたのは、なんとルルミフ王女その人であった。
しかも本人から直接了承が得られるなんて、まさに願ったり叶ったり!
「で、ですがルルミフ様……」
「
「め、滅相もございません!」
カルロスが慌てた様子で深々と頭を下げると、ルルミフは少し不機嫌そうに溜め息を吐いた。
「さてと、それじゃ私についていらっしゃい」
こうして、サツキ達はルルミフ王女に連れられ王城へと入っていった。
……ちなみに、今の会話を見てユピテルは心の中でこう思っていたという。
『こええー! オイラの周りの女連中はどうしてどいつもこいつも、こんな"おっかねー"ヤツらばっかなんだよ!!』
まったくもってご愁傷様である。
◇◇
<フロスト城 応接室>
「さて、改めまして私の名前はルルミフと申します」
「えっと、あたしはサツキっ」
『お、オイラはユピテルっ……と申します』
慌てた様子で挨拶をする二人を見てルルミフはクスリと笑うと、サツキの首の辺りに視線を向ける。
「あと二人居るでしょ?」
『御名答~っす』
『いい勘……してるね』
ひょっこりと顔を覗かせたハルルとフルルの姿に、ルルミフは愉快げに笑った。
「あはは。さすがに妖精が二匹も入ってたらフードの膨らみが不自然すぎるからね。隠したいのなら、もうちょっと工夫しなさいな」
「えー……。さっきの門番さんは全然気づいてなかったぽいのに~」
サツキがガッカリした様子で言うと、ルルミフは呆れ顔で再び溜め息を吐いた。
「それはあのバカが朴念仁なだけよ。昔から変わらなくて、ホント嫌になっちゃうわ」
「昔から~って事は、姫様と門番のおにーさんは幼なじみなの?」
ハッキリと年齢は分からないものの、ルルミフが
彼女の言う「昔」というのは、せいぜい十年前後くらいであろう。
「幼なじみと言うか、彼は私のお世話係の息子なの。私の方が三つ年上だけどね」
「へ~」
相変わらず目上相手にも関わらず敬意を微塵も出さないサツキの姿に、ユピテルは内心ハラハラしているものの、ルルミフはそういった事をあまり気にしない大らかな性格のようだ。
それからしばらく歓談が続き話が一段落ついた頃、改めてルルミフはサツキに深々と頭を下げた。
「遅くなったけど……この度は、本当にごめんなさい」
「???」
キョトンと首を傾げるサツキを見て、ルルミフは少し困り顔で笑う。
「だって勇者様の代わりに、あなたが力を失ってしまったのでしょう?」
「あー、その事なら別に気にしてないから大丈夫だよっ。これからはずっと、ハルルとフルルがあたしを助けてくれるらしいから」
サツキの言葉に、ルルミフは目を見開いて驚いた。
「もしかして封印がっ!?」
『うん。フルルと一緒に調べたっすけど、行動制限が解除されてたっすね』
『世界中……僕らの庭さ』
彼女達の会話の意味はよく分からないものの、どうやら前まではハルルとフルルは自由に遠出が出来なかったらしく、それが今回の一件で何らかの理由によって改善したようだ。
「……そっかぁ、良かったね!」
ルルミフがハルルとフルルを見る目はとても優しく、彼女達もまた昔から互いを知る中であったようだ。
そして、ルルミフは再びサツキの方へ向くと、今度は感謝の言葉を口にした。
「改めて、本当にありがとう。先の一件でウラヌス様が塔を登ったと聞いた時は覚悟を決めてたけど、あなたのおかげで結婚の話も無くなったわ」
――結界を再展開した者にルルミフ王女との婚姻を認める。
今回のケースではサツキがその権利を持っている事になるのだが、ただでさえ先の一件で混乱している状況で「あたしが次期国王だフハハハー!」などと言おうものなら、国民が暴動を起こしかねない。
フロスト王国には同性婚を禁止する法律は無いものの、さすがのサツキも空気を読んで正式に辞退を申し出たのであった。
「ていうか、あたし的には政略結婚がそもそもNG。やっぱ結婚相手は好きに決めたいよねー」
サツキの庶民的な意見に内心賛成しつつも、ルルミフは苦笑しながら答える。
「あはは。王族であるゆえにそういうのはあまり自由が利かないけど、やはりウラヌス様とクルル様の仲を引き裂くような事だけは、絶対に避けたかったから」
「てことは、姫様はあの二人が付き合ってた事を知ってたの?」
「知ってたも何も、あんなの一目見れば分かるでしょうに」
「だよねー!」
それからルルミフとサツキは恋愛話で大盛り上がり。
その最中、フルルはフワフワと宙を飛ぶと"空気同然"になっていた少年の前にやってきて、小さな手で頭をポフポフと撫でた。
『凄いね……完全に気配を消してる』
『帰りたいよぅ』
ユピテルは疲れた様子でぼやくと、目の前で盛り上がるガールズトークをぼんやりと眺めながら、ただひたすら時間が過ぎるのを待つのであった……。
◇◇
「今日は楽しかったわ。また気が向いたら話し相手になって頂戴な」
「うんっ。また来るね~」
すっかり意気投合した女子二人ではあるが、ユピテルは内心『頼むから次はオイラを誘わないでくれ』と願うばかり。
そして再び門前に来ると、ルルミフは
「いってえっ!?」
「ほら、お客様がお帰りよっ。ちゃんと見送りなさいな」
「うぅー……」
あまりに不憫なカルロスの姿を見ていると、とても他人事には思えない。
彼が自らの尻をさする姿は、まるでサツキを怒らせてローキックの猛攻を受けた後の自分のようだ。
内心そんな事を思いながら、ユピテルはサツキ達とともに宿へと向かう。
『それにしても、あの門番のにーちゃん……王女様からイビられてて、なんだか可哀想だったなぁ』
ユピテルの呟きに対し、サツキはキョトンとしたかと思うと、いきなり笑い出した。
「あははは、なるほどねー。ユピテルにはそう見えちゃうんだねぇ」
『???』
「ちょいちょいっ」
サツキはユピテルの手を取りコソコソと姿を見られないように来た道を引き返すと、城門から少し離れた木陰に身を潜める。
城門前に目を向けると、まだルルミフとカルロスの姿が見えた。
「ほれほれ、姫様の表情を見てみるべしべし!」
『何なのその口調……』
サツキの言う通りルルミフの表情を見ると、先程までとは一転、二人は楽しそうに会話している様子だった。
『さっきまであんなにルルミフ王女から痛めつけられてたのに……。あのにーちゃん、タフだなぁ』
『キミがそれ言うっすか?』
『ナイス……ジョーク』
『???』
自覚の無いユピテルはさておき、しばらくして話が一段落したらしく、ルルミフはその場を離れて城の方へと戻る。
……が、ルルミフは突然振り返って――
『!?』
カルロスを抱きしめて、すぐに離れて走り去っていった。
ほんの一瞬すぎて、注目しなければ気づかなかっただろう。
『い、今のは一体……』
「身分違いの恋ってのは、ホンネが出せなくて大変そうだよねぇ」
そういう話にはカナタ並にとんと鈍いユピテルではあるものの、さすがにサツキの一言で全てを理解した。
『さ、サツキちゃんっ。あの二人がそういう関係って、いつから気づいてたの!?』
「いつからって、最初に門の前で会話してた時から気づいてたよ。アレって要するに、二人が逢い引きしようとしてたところに、あたし達が突撃しちゃっただけだもん」
『……』
人間は誰しもそういった事に気づく能力が備わっているのか、それとも単にサツキがおかしいだけなのか。
ユピテルは城門前で立つカルロスを仰ぎ見ながら、男女関係の奥深さと難しさを噛みしめるのであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます