048-メギドール撃破、その後……
【聖王歴128年 緑の月 43日 夜】
エレナの不意打ちの一撃……もとい、先制攻撃によってメギドールを倒した俺達は、新たに仲間に加わった妖精ハルルとフルルを連れて宿に戻っていた。
『へぇー、君らはこういう目的で旅をしてたんすね』
ハルルは興味津々な様子で、俺の旅の記録に目を通している。
そういえばメギドールと戦う前にざっくりとは説明していたものの、実際に日誌の現物を見せるのはこれが初めてだ。
そんなハルルを見て、ユピテルは何やら微妙な表情をしている。
『君はそれ読んでも平気なのかい? オイラは自分が死ぬって書いてあったのを見た時はビックリして倒れちゃったよ。今もその辺りを読むと、何だか背筋がゾワゾワするし……』
ユピテルの問われてハルルはキョトンとしていたものの、何かに気づいたのか手をポンと打った。
『それはたぶん、死生観の違いっすよ』
『死生観???』
『人間やエルフ族は普通に寿命があるし、病気や怪我で簡単に死んでしまうだろう? けれど妖精は無限にも等しい時を生き、マナが尽きない限りは傷だって再生する。そして天命が尽き果てようとも魂は遺り、また神のお膝元で新たな妖精としてどこかの世界へ転生する……と、妖精達はそう言い伝えられてるっす。もちろん、転生前の記憶は一切残らないから、私も生まれ変わる前の事なんて、これっぽっちも知らないんすけどね』
「へぇ、なかなか興味深いな」
そういえば聖竜のピートも『光になって神に召される』と言っていたし、妖精やドラゴンは似た考えを持っているのかもしれない。
だとすると、人間やエルフが遺体として残ったり、埋葬せずに放置すると呪われてアンデッドになったりするのは何故なのかという疑問もあるのだけど。
『ちなみに……僕はちょっとだけ覚えてる……』
「えっ、すごいじゃん! どんなのどんなのっ?」
フルルの思わぬ一言にサツキは目を輝かせながら、隅に丸めたコートの中で眠そうにしていたフルルに向かって話しかけた。
『こことは違う世界……僕が誰かを助けようとして命を失った……のは覚えてる。自分が何者なのかは……知らないけどね』
無表情ながら、何やら懐かしむようにフルルは遠くを見つめながら呟く。
「へぇ~、フルルちゃんは過去にそんな事があったんだねぇ。じゃあ、ここに書かれてるハルルの行動はどう思う?」
サツキが指差した先にあったのは、ハルルが自らの命と引き換えにアイスクリスタルへとなったと書かれている一文だ。
だが、それを見たフルルは無表情ながら少しだけ不機嫌そうに答えた。
『姉さんに先立たれると……僕ひとりぼっち……。寂しい……ぐすん』
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!! ねーちゃんが悪かったあああああーーーーっ!! 別の平行世界上のクソ姉の代わりに謝るから許してえええええーーー!!!』
「なんだそりゃ」
相変わらずの溺愛っぷりに引いてしまいつつも、やっぱりフルルが心の中では寂しがっていたと分かり、嬉しいような何というか不思議な気分だ。
『護らなければならないという使命はあっても、やっぱり死んじゃうとなると、思うところは色々ありますもんね』
『うんうん……生きていてこそ』
さすが、聖なる泉をずっと独りで護り続けていた経験者なだけあってか、エレナも自分の境遇に重ねて、ハルルとフルルのそれを感慨深く思えるようだ。
だが、俺達がそんなやり取りをしている最中、日誌の続きを読んでいたハルルがはてと首を傾げた。
「何か気になる箇所でもあったか?」
『エレナは、メギドールが出現した瞬間に先制攻撃で撃ち落としてたっすよね? そうなると、ここに書かれてる神々の塔に登るうんぬんって話は無くなるんじゃないかなと』
『あっ!!』
ハルルの言葉にエレナはハッとした顔になる。
確かに、かつて俺の見た世界でフロスト国王は「都が襲撃された際に結界が破られた」と言っていたけど、今回はメギドールが都を襲う前に倒してしまったので、結界は破られていない。
つまり、神々の塔へ登って結界を張り直す必要がないのだ。
「おにーちゃん、これ大丈夫なのかな?」
「何が???」
「このままじゃ、白の勇者と姫様の結婚の話もナシになっちゃうよね?」
「あー……」
――メギドールに破壊された結界を、白の勇者が修復し、王女と結ばれる。
そんな、フロスト王国の未来を左右する程の大きな出来事が、このままだと起こらない可能性が出てきてしまったわけである。
サツキの言葉の意味に気づき、エレナも困り顔でオロオロし始めた。
『あわわっ。もしかして私、とんでもない事をっ!?』
「いや、メギドールが都を襲うのを待つなんて選択肢はありえないし、そもそもあんなに易々と倒せる確証も無かったんだから。あれはあれで正解だったと思うよ」
『うぅ、良かったですー……』
とはいえ、このまま放っておくわけにもいくまい。
「もうしばらくこの国に滞在して、今後の状況がどのように変化するかを見届けよう。恐らく、来月三日には結論が出るはずだ」
俺の言葉に皆が頷き、フルルは……ひとりでサツキのコートのフードの中に潜っていった。
『それじゃ話がまとまったところで……おやすみ……Zzz』
「……」
フルルは無口かつ無表情なのに、どうしてサツキが二人いるような錯覚を覚えるのだろう?
俺はそんな事を考えつつ部屋の明かりを消し、まどろみの中へ落ちてゆくのであった。
・
・
【聖王歴128年 黄の月 3日 早朝】
俺達がフロスト王国の宿に滞在し始めて数日が経った、黄の月三日の早朝の事。
城からの使者がやって来て、宿の部屋に向けて大きな声で自らの意図を告げた。
「国王様より、冒険者や傭兵など腕自慢の者達は城へ集結せよとの命令である!!」
周りの部屋から「朝っぱらからデッケェ声出してんじゃねえ!」などと不機嫌そうに叫ぶ声が聞こえてきたが、予定通りに事が進んでいるのを見て、俺はほっと胸をなで下ろした。
「このまま何も起きなかったらどうしようかと思ってたけど、城から呼び出しをくらうってのだけは、避けられない運命なのかねぇ」
俺はそんな事を呟きつつ荷物をまとめて宿の外へと出ると、さすがに国王からの呼び立てだけあってか、都は城に向かう人々で騒然としていた。
その中には色白・長身・金髪のイケメン……もとい、白の勇者ウラヌスの姿もあり、後ろには魔法使いの女の子もくっついて来ていた。
『なるほど、あの方が白の勇者ウラヌスさんですね。後ろの方は……魔法使いクルルさん、お二人とも十七歳ですね』
エレナは目をジーッと細めながら二人を眺めている。
恐らくいつも通り、その目には二人の名前などの事柄が見えているのだろう。
「エレナの
『精霊は遠くの景色を見たり相手の心の内を読んだりと、あらゆる者を超越した力を持っている場合があると聞いたことあるっすけど、エレナは
『えへへ~』
嬉しそうに照れ笑いするエレナを見て和みつつ、俺達は他の冒険者と共に王城へと向かっていった。
<フロスト王城 大広間>
招集された者達は皆一同に城内の大広間へと集められた。
中には王国の紋章の付いた騎士や、正規ギルド団員らしき姿もあり、かつて見た世界と同様、腕自慢の者ばかりのようだ。
「皆の者、国王様より大事な話がある。心して聞くがよい!」
側近らしき男がそう言うと、国王は集まった強者達に一通り目をやってから宣言した。
「今日は皆に頼み事がある。どうか、都より南西へ行った先にある、神々の塔の最上階……そこへ行き、この国を護る結界を張り直してしてもらえないだろうか!」
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