SFのようなもの

みなはら

第1話 蒼空の日記 (そらのきおく) より 『スタート』


-物語を再会しますか?-

(Yes or No)


Yes



蒼空そら日記きおくを再開します-



…青い空。

ただし、眼下に広がる雲海は、濁った色で酷く厚く暗い。



雲の上を飛ぶ。

おれたちの日常はその繰り返しだ。


眼下の雲の中は嵐の世界。

ひとたび入り込めば、随伴する小型偵察機ドローンなどは一瞬でオシャカだ。


雲海の激しい風に弄ばれ、雷雲からのいかずちの洗礼を受け、

下へと墜ちたら、人間などは生存できない灼熱の世界。


この機体ならば、

運が良ければ、戻って来られる可能性もある。


機体数は一般的な哨戒任務と同じだが、

編成はいつもと異なり、戦闘機ファイター1、格闘機デバイス2。

グラップル・デバイスが1機多い。


小隊編成もだが、随伴機ドローンも2機多く、こちらも小隊規模だ。


哨戒というよりは、威力偵察だな、まるで(苦笑)


戦闘になることを予測しているのだろうか?

もしそうなら、格闘機の追加は心強い。


そう感じつつ、格闘機の拳を無意識に握り込む。


格闘機と戦闘機、どちらも戦闘をするための機械だけれど、外観から何から全く違う。


似ているところは、飛んで、相手を攻撃すること。ミサイルなどの兵器を搭載できることぐらいか?



自分の傍らを、みゆきのファイターと、リサのデバイスが滑るように飛んでいる。


あの二人はとても仲が良い。

またいつものくだらない話に花を咲かせているのだろうか?


みゆきのファイターは軽やかに風をはらみ、舞う。

対して、リサのデバイスは真っ直ぐに力強く直進してゆくようだ。

あの二人の性格を表しているかのような飛び方だが、機体の、特性の違いもある。



格闘機と戦闘機の違いについてだが、

戦闘機は、現在の飛行機から進化を遂げてきた存在だ。

もともと人類が持っていた機械である。


速く、高く飛び、搭載した兵器で相手を攻撃して倒す。

多くの場合、正面方向のみが唯一の攻撃範囲で、速度と機動力で相手を翻弄する。


そして機体構造は、意外と脆弱だ。

昔の飛行機にくらべて丈夫になり、電磁障壁などの防御策を持つようになりはしたが、紙が皮になった程度だ。

石や鉄になったわけではない。


昔に比べSTOL性能も上がり、長い発着スペースも要らなくなった。

とはいえ、飛行機は飛行機だ。飛行能力という優位性はあるが、飛行機という枠からは、はみ出してはいない。



格闘機は全く別物、空飛ぶ戦車。

外観でいえば、ロボットに翼をつけたものと思うのが一番わかりやすい説明だ。


主な戦闘運用は、現代のガンシップ(陸上支援の航空機)に近いが、必要に応じて格闘もできる。


速度は戦闘機ほど速くないが、戦闘機よりも頑健で、装備されている電磁障壁も強力だ。


戦闘機よりも大きく、重く、固く、遅い。


障壁の展開により、

空気抵抗の塊のような格闘機は、意外と良好な運動性と空戦性能を持つが、

いかんせん重すぎるし、速度が出ない。


なぜ、こんな無駄な兵器が存在するかと言うと、

この機体はもともと人類が作り出したものではないからだ。


異星生命体の遺物。

それに人類の制御システムを取り付けて操作している、異形の機体。

けれども、自分たちが持つ兵器の中では、強さが頭一つ分抜きん出ている。


もともと持っていた人類の飛行機も、遺物である格闘機の技術フィードバック、電磁障壁や、力場による飛行制御の恩得などを受けて、生まれ変わっているのだが、まだまだ及ばないところがたくさんある。



ここは人類の世界ではない。


スターシード(星の種)計画。

自分たちは、地球からこの星へ来た。


人類版図を拡大するために、他の星を地球化する、異星地球化テラフォーミングシステムを携えて、この世界へやって来たのだ。

移民団に先行した惑星改造のための異星地球化システムが、ナノマシンを散布し、地球化された星に、あとから到着した移民団の人々が住む。


この星では、異星開発局が想定したようには、世界が作られなかった。


灼熱の大地と雲海の嵐で、ほとんどのナノマシンが無力化、破壊されたからだ。


雲海から孤島のように顔を出す山々。


テラフォーミングされた場所はそこだけだ。



ナノマシンの封入されたクリスタルシードは、通常は大気圏内で解放され、

大気中に広がったナノマシンは、さまざまな場所の大地に落ち、地球化改変テラフォーミングを行うのだが、人類の住める領域が僅かなここでは、そのほとんどが死滅した。

この星の基本形態は、太陽系ホームでいうところの金星ヴィーナス型。

今回のナノマシン・テラフォーミングの方法には適さないシステムが用いられていたらしい。

完全に異星改変システム上の不備だ。



雲海から顔をのぞかせている山脈の頂。

そこは高地ハイランドと呼ばれている。

雲から上だけが人類の世界だ。


その雲海の孤島、ハイランドは、ナノマシンにより人類種に適した生活環境に改造されている。


ハイランドの改変をした以外のナノマシンは雲海の嵐に飛ばされ、

灼熱の大地に落ちる前に燃え尽きてしまった。



「かずま、おかしな反応がある」

みゆきからの通信コール


「なんだ?」

みゆきの指示する方向へ格闘機の頭を向け、感度を強化する。


「雲海の中に何かある。プラント(異星生命体の工場施設)かも?

「このあたりにはない筈だけど」



プラントは、雲海に浮き沈みする異星生命体が作った施設だ。

基本的に、位置を変えずに雲海から浮き上がったり、完全に雲海に潜ってしまったりを繰り返している。


かつてはこの星に文明があり、知性ある生き物、少なくとも人類種に近い生命体が居たことは、プラントの存在によって明らかになった。


数少ない地上部分。

雲海より顔をのぞかせている山脈は、ナノマシンの改造作業で地球化環境に改変されてしまったために、

異星生命体の文明の痕跡は、完全に消し去られてしまっている。


おそらく、雲海の上に浮かんでいた異星生命体の施設。その大半は、

地球産ナノマシンの攻撃、地球化への改造を受けた際に機能を失い、地上へと落下してしまったのだろうと言われている。



プラントはだいたい紡錘形、細長い楕円形をした巨大な構造物で、

内部は機能が不明な機械がたくさん詰まっていて、

いろいろなもの、人類が使用できる食品であったり、資源として活用できるものを作り出している。

その中には、格闘機の基となる素体マテリアルも含まれる。


どういう理屈で何から作られているかは判らないが、

出来上がった資源類は、プラントの下から実った果実のようにプラントに吊り下げられて雲海から現れてくる。

これらはプラントが雲海へと潜ってゆく時には、切り離されて捨てられる。

プラントから得られる資源を、「奇妙な果実ストレンジフルーツ」なんて呼ぶやつも居るが、悪趣味の極みだ。



噂の迷走プラントか?

それとも、デマだといわれた、雲海を放浪する移動構造物リバイアサンか?


どちらにしても、有用な情報を得ることは急務だ。


この世界での人類の生存状況は厳しい。


住む為の大地、ハイランドは狭く、数も限られており、

生活資源の大半を、異星のプラントに頼る羽目になっている。


近頃は資源をめぐって、争うことも多くなっていると聞く。



リサからの通信、焦る声。

「右手、上方より飛来物あり。

攻撃!!かずまっ、ミサイルよっ!!」




「敵か!?くそっ」

対立する、別の孤島国家ポリスの哨戒機か!?


機体を螺旋にロールさせて回避。

直撃は避けたが、接近した敵弾は爆発し破片を撒き散らす。


障壁により被害なし。

みゆきとリサは!?


「被害状況を教えろ!!

こちら、かずま被害なし」


「こちら、みゆき被害なし!!」


会話にノイズが混じる。

「こち…ら、リサ。

直撃を受けた。損傷軽微。起…動力低下、通信に…損害発…」


「リサ!!大丈夫か?」

「大…丈…」


随伴機ドローンは?

2機破壊されたか。

1機は爆散。もう1機は損傷だが、だめだ。墜ちる。


傷ついたドローンが雲を引きながら雲海へ消える。

「無傷のドローンに、哨戒情報と個人記憶パーソナルメモリを預けて退避させる。

「各機、転送完了後に戦闘機動に移れ!!」


やはり、リサの転送が遅れているようだ。


みゆきの戦闘機が滑るように加速して、

高速の戦闘起動へと移る。


「みゆき!!

まず敵情報だ。確認急げ!!」


「了解!!かずくん」


格闘機は加速が鈍い!!

みゆきの機体に置いて行かれる。


「見つけた!!

機体数4、ドローン不明」

みゆきのコール。


「4!!、2ロッテか?」

ドローンもいるはずだ。別の編隊もか!?


センシングの精度を落とし、範囲拡大する。


どこだ?定石セオリーなら…、ドローン!?

「リサ!!」、「敵…、か…ま!!」

リサとこちらのコールが交錯する。



可視センサーが爆発をとらえ、僚機のドローンとリサの機影がモニターから消える。


くそっ、リサ。


後方に敵影4。おそらくロッテにドローン2。


「だめだ。みゆき、逃げろ!!

お前なら逃げ切れるっ」


格闘機は遅いから無理だ。だが、2、3機は道連れにする!!


速度を全開オーバーライドにして、前方の戦闘領域へ接敵をかけて行く。

敵機体は戦闘機3に格闘機1。後方のリサをやったやつはまだ判らない。



みゆきは戦域を離脱しつつある。

誘導弾ミサイルを射出しつつ射撃。ミサイルは近接爆破により戦闘機を巻き込む。


敵戦闘機、2機爆散。

やはり格闘機は直撃でないと破壊できない。


敵の弾頭を、機体を螺旋に回転させつつ直撃をかわし、腕部の銃撃を戦闘機に向けて浴びせかけてゆく。

損傷は与えたが、戦闘機を撃墜させるまでには至らない。


接敵を試みるが、相手が速すぎる。

敵格闘機へ目標を変える。


お互いに射撃を仕掛け、障壁で弾きながら接近する。


障壁干渉で、お互いに障壁を無力化し、接近しての銃撃戦か、格闘戦を試みるのが格闘機同士の戦闘となる。


すれ違いざま、穴の開いた障壁の隙間に銃撃を叩き込み、火花の洗礼を与え、受けながら一度離れる。


お互い損傷は軽微だ。

隙間にミサイルをぶち込めれば片が付くが…、

やはり殴り合うしかないか。



お互いに大きく旋回しつつ、相手の行動を警戒する。


やがて、突撃しあう騎士のように、相手を正面に捉えて接近してゆく。


「おおぉーっ!!」

叫びが漏れる。

「落ちやがれぇーっ!!」


腕部を引き絞り、無効化した障壁の内側へ。

敵本体へ銃撃しながら、腕の衝角を叩き込む。


激しい衝撃。お互いの衝角で攻撃腕が破壊されあった状態。


「くそっ!!」

良いのを貰っちまった!!

推進機関に異音。

みるみる速度が落ちる。


障壁は無事だが、なぶり殺しになるだけか。


あいつが接近してきたら、自爆して巻き込んでやるか…。



敵の機体が加速を開始する。



続く

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