第73話氷の戦士。
なんだ…………?、氷の塊?。
指についていた魔金属の糸が千切れてうつ伏せで倒れ込む。
氷の壁の向こう側でマスケット銃の銃声が聞こえるがこっちまで届く様子がない。
「待たせたわね。」
「遅刻しすぎ。」
リンが少し高いところから滑って降りてくる。
ユウトの近くまで近づくと脈を測り、青色の魔力回復剤を取り出す。
「うん…………ただの魔力切れね、これでも飲んで少し休んでいなさい。」
リンはそのまま魔力回復剤をユウトの口に突っ込んだ。
笑顔でだ。
ヤバイ、溺れる溺れる!!。
ユウトは残り少ない体力で地面をパンパン叩く。
「無理しなくていいからね。」
なんか優しい、すごく怖い!。
絶対こいつは俺を殺す気だ。
なんとかして飲み干したユウトはまだ動けない。
魔力回復剤は飲んだ物を即時に魔力に変換する物ではなく、徐々に回復していく物である。
そのためユウトが十分に動けるようになるまで少し時間がかかる。
「三分で片付けるわ。」
「流石に無理だろ。」
あと十人くらい動ける兵士がいるはずだ。
「まあ見ていなさい。」
リンは氷の壁を消してソニックインパクトで敵の兵士達に一気に近づく。
「なっ………!!。」
「早い…………!!。」
兵士たちは盾を前につけてマスケット銃を後ろに下がらせて撃つ準備をする。
まずリンは盾に向かってソニックインパクトの勢いを使い、槍で一人盾ごと吹き飛ばす。
陣の中入り込んだリンに向かってマスケット銃を撃とうとする兵士。
「リン!、発射装置を凍らせろ!!。」
ユウトの声でリンは手に持っている槍を捨てて腰の裏から取り出すようにして二丁拳銃を生成する。
弾は凍結弾、着弾するまで液体だが着弾した瞬間に瞬間的に凍らせる。
全部魔力で作られた物だ。
リンはマスケット銃に向けて乱射する。
弾倉は無制限だ、魔力が続く限り。
木々を走って登り、そのまま飛んで頭と足が逆になった状態で撃つ。
「空中にいるなら逃げられない!。」
兵士は狙いを定める。
空中にいるなら逃げられない、普通ならね。
リンは足のヒールのかかと部分についた穴から氷のかけらが混ざった空気が噴射する。
それによってリンは空中にいながら限定的であるが移動できる。
「すごい………これが聖獣の力か。」
思わずユウトの口から漏れる。
目の前に写る光景はもはや人間技とは思えない動きをしている。
リンの頭の中にはユニコーンにリアルタイムで使い方を投影させられていて、今まで使っていたかのような使い方をすることができる。
なのでこれが初陣なのに今まで使っていたかのようなうごきができるのだ。
「なにこれ!?、銃が!。」
マスケット銃の発射装置が凍って火薬がうまく着火されずに弾が発射されない。
頑張って撃とうとする兵士にリンが思いっきり身体だけ蹴り上げる。
だいたい片付け終わったわね。
「ユウト、あなた動けるようになった?。」
「見ての通り、動けない。」
まあそんな簡単に動けるようになるわけないわよね。
「ここは逃げる、と言いたいけど俺動けないんだよなぁ。」
リンはユウトのもとに行って強引にユウトを背負う。
「う、うお?!。」
すごい、義手は魔力残量によってだんだん重くなっていくのにリンはラクラク背負っている。
でも背負い方がどっかのビッグボスの蛇さんみたいな背負い方をしている。
「怖い怖い怖い怖い!!。」
「耳元で叫ばないで!、うるさいわよ!!。」
ユウトの頭が揺さぶられる。
「あなたが逃げるって言うには何かあるのでしょう?。」
「ああ、その前にここを一気に駆け下りよう。」
「了解。」
リンは右足側にボードを生成して雪山を一気に滑走する。
「こいつを俺が指示する場所に投げてくれ。」
そう言ってユウトが渡した物は何も入っていないグレネードシェル。
「こいつを右回りに一回転回せ。」
リンはユウトの言う通りにグレネードシェルの上の部分を一回転回す。
カチカチと言う音を発しながら回るグレネードシェル。
「そこの右側の二本目の木のところに。」
「せい!。」
「次は左側の四本目の木のところに。」
「せい!。」
「大岩の手前に。」
「せい!。」
「最後はそこの窪みに。」
「やー!。」
滑走しながら投げるリン。
「ところであれはなんなの?。」
「時限式グレネードシェル、あれが爆発すれば敵を物理的に一掃することができる。」
ユウトがそう言った瞬間、奥の方から爆発していく。
すると地響きが鳴って、二人が後ろを振り向くとなんと雪崩が起きているでわないか。
「このまま滑走しきれ、この速度なら何とかなる、と思う。」
「それは説得力ないわね。」
オメガは地響きで目が覚める。
「ここ………は?、いったい、ボクは?。」
だんだんと意識が覚醒していく。
ボクは………………ボクはベータお兄様に…………褒めてもらうために……………。
また眠たくなってきた……………。
せめて、この武器だけでも…………。
オメガは最後の力を振り絞ってヒヨクを木の上に飛ばして枝に引っ掛けた。
そしてそこで意識が途絶えた。
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