カラスを見上げる
俺は今…目の前の電柱の電線にいる黒い物体と壮絶なにらみ合いをしている
奴の名はカラス
下を通る人間にこれみよがしにフンを落とす厄介な生き物だ。どうして奴らはこ うもタイミングよく人間が通るときに落とすのだろう。狙っているとしか思えない
俺はこいつがいるときにこの場所を通ると確実にフンを落とされた。今日こそ…
平日の朝の8時…俺は何をしてるんだ。両脇は壁があり少し外側から行こうすることはできない。ここを通るしかないのだ。幸いにも誰もいない。
しかし俺は会社に行かないといけない、しかも今日はお得意さんとの大事な打ち 合わせがある。これに間に合わなければクビもあるかもしれない。
このままでは間に合わない。
だが奴はピクリとも動かない。まるで城を守る門番だ
そうか、石でも投げて追い払おう
いや待てよ、学生時代ろくに運動をしてこなかった俺に、奴に当てるだけのコントロールがあるとは思えない。
そもそも、仮に当たったとしてあの鋭い目でギラりと睨まれ、あの鋭いくちばしで攻撃されれば、ひとたまりもない
どうする……
ん?向こうから来るのは…あれは隣の部屋の鈴木さん
いつも笑顔で挨拶してくれるかわいらしい大学生、今日も朝早くから講義なのか大変だなぁ…
いや、それどころじゃない。このままでは鈴木さんにフンが落ちてしまう
「あ!小林さん。おはようございます」
俺が馬鹿な事考えてる間に、まずい。もう間に合わない
トコトコ…
「小林さん? うずくまって体調でも悪いんですか」
「え…」
どうやら俺は女子大生を前にして目を閉じてうずくまっていたらしい。自分でもなんでうずくまっているのかわからない
「ああ、いや…昨日なんか変なものでも食べたのかなぁ。ハハハ…」
「気をつけてくださいね。それじゃぁ…無理せずに。では」
「ああ、待って、あのさ……あ!肩にゴミついてたよ」
「ありがとうございます。優しいですね小林さんって。では」
「き、気をつけて。行ってらっしゃい」
俺は見た。
彼女のどこにもフンなんか無かった。あのスケベガラス、人を選んでやがる。
だが待てよ、そもそもあいつはただあそこに止まっているだけで、フンを落とす気なんかないんじゃないのか。
なにを俺はビビってるんだ。
そうさ、初めからフンを落とす気なんかなかったんだ。
「たく、心配かけさせやがって。堂々と通らせてもらうよ」
口ではそう言ったが、ゆっくりと忍びのように奴の下を通った。
「やったぞ!やったやった。やってやった。やっぱり今日は落とす気なんかなかったんだ。そんな気がしてたんだ。ハハハハハ俺の勝ちだ!ハハハハ……あ……打ち合わせの時間とっくに過ぎてた」
上から地面に崩れ落ちている男を見るその目は笑っていた。
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